一一:伯爵
試しに装備変更の話を書いたら本編より速くできてしまった。(二、三話程後に投稿します)
19/11/26
加筆訂正作業始めます。
機動部隊と別れた後ものんびりと96式装輪装甲車は進んでいた。戦闘の"せ"の字も無く。
マークスは咥えたままの煙草に火は結局点けず、もったいなので箱に戻していた。
前と変わらず双眼鏡を覗くも、さっきから景色は大して変わらない。少しずつ大きくなる壁と広大な畑を除けば。
これから起こるであろう面倒事にマークスは嘆息し、銃座から降りて後部座席に移る。
「ルイスさん、ちょっといいですか」
「どうしたのだ?」
狭い装甲車の中。少し動くだけで探したい人物は直ぐに見つかる。
「装甲車の上に移ってもらえますか」
いわゆる戦車跨乗である。本来は戦車に歩兵を乗せて警戒させ、敵を発見した場合に即展開できる移動方法。但しデメリットとして敵の対戦車ロケットの被害に遭いやすく、戦車が爆発反応装甲を装備していた場合味方に殺される。
車長席に座っているギルに車長ハッチを閉めさせる。そして銃座から屋根にあがり、ルイスを引き上げる。その後は車長ハッチの上に座ってもらい、転落防止の為に銃座の縁に掴ませる。
「君達は本当に仲が良いのだな」
「まぁそこそこ長く一緒にいましたからね」
「マークス殿」
「はい?」
「何故傭兵なんかになった?」
唐突な質問に眉をひそめ、少し悩んだ素振りをみせるが顔色を変えずに答える。
「ろくでもない、という事ぐらいしか憶えてませんね」
この話題に乗り気ではない、それがひしひしと伝わる言い方だった。
◆◇◆◇◆◇
検問はマークスの想定と違い、ルイスのおかげであっさり通り抜ける事が出来た。
最初はアドルノ達と同じく警戒されたが、今回は装甲車の上にルイスがいる事に気付いた門番が他の兵の武器をおろさせた。
その後ルイスの事情説明に血相を変えた門番が、隣にいる部下に命令して領主の元へ早馬を出させる。
早馬を待つ間、こっちの身分証持っていないことを告げると、細かい手続きを飛ばして仮の身分証が発行された。そして仮身分証を受け取る頃には早馬が戻ってきて、通行を許可される。
門をくぐり、街へと車輪を転がす。その光景に四人はどこか違和感を覚える。
街の中は想像していた中世ヨーロッパではなく、雰囲気が近代、或いは現代のヨーロッパに近しい。建物は二階建てか三階建ての煉瓦造りと、煉瓦の上からモルタルで舗装したモルタル塗りの建物が半々。稀に一階は煉瓦造り、二階からは木造にモルタル塗りの建物も見受けられる。
96式装輪装甲車の異質さにすれ違う人々は眼を見張るが、その上に座るルイスのおかげで柄の悪い連中に絡まれる事もない。
「う~む、いねぇな」
「どうした?」
そんな中、辺りを何度も見回して何かを探すチャーリー。あまりにも真剣な表情に気になったマークスが訊ねると、渋い顔で答える。
「いい尻はいるんだが、ボインがいない」
「お前ナニ探してんだよ。そんなの……いたで」
「どこ!?」
「二時の方向」
ボインを見つけたマークスの方向につられる。その女性の特徴を一言で表すなら、寸胴。擬音で上から表現すれば、デーン、ドーン、デーン。腕も太く、たくましい顔はまさしく肝っ玉母ちゃん。
チャーリーの顔が不満で溢れ、皺だらけになる。
「給食センターにいるおばちゃんじゃねぇか!!」
あまりにも的確な表現にむせかえるマークスであった。
◆◇◆◇◆◇
案内されるままに道を進んだ結果、敷地の広い建物の前に出る。
道中の建物と打って変わり赤煉瓦の三階建て。いや、急斜角な屋根に屋根窓があるから四階で、建物の周りは二メートルの塀で囲われている。
門は大型トラックが余裕で入れる程の幅があり、鉄製の門扉の両端に門番が立っている。
門番は検問の早馬から話を聞いているのか、装甲車の上にルイスが座っているからか警戒した素振りを見せない。
「ここで止めてくれ」
「わかりました」
96式装輪装甲車が停車した後、マークスとルイスはヘッドライトの後ろにあるラッタルに足をかけて、後部ハッチから四人が降りる。
チャーリーは降りずに、エンジンを停めて待機する。
停車した96式装輪装甲車に、一人の門番が近づいてくる。
「ルイスサマ。オカエリナサーイ」
門番をしている兵士は短槍を持ち、鼻が高く顔の彫りがかなり深い男。言葉使いが独特で一昔前の似非外国人をおもわせる。
「父上と母上は?」
「オ部屋デ御待チナッテオリマ「ルゥーイスゥーー!!」
門番の会話の途中、良く響く女声と共に男がガラス片を撒き散らしながら降ってきた。新体操選手並みに体を捻りながら華麗に着地を決める。
普通の人間ならば骨折、運良くても骨にヒビが入りそうなの着地音がしたが、苦もなく立ち上がる。
七三分にされた濃い水色の短髪に、蒼穹を写した双眸。中性的な顔立ちで男とも女とも判別し難い。
突然の登場に三人は瞬時に安全装置を外して引き金に指をかけ、マークスとギルはルイスを、アスカはステラを庇えるよう前に立つが、そんな事はお構いなしに男は動き出す。
「あぁ~んルイス!心配したぞ!」
「フグゥ!」
だが男は眼にも止まらぬ速さで二人を飛び越えて、ルイスに抱き付き押し倒す。謎の悲鳴を上げて押し倒されたルイスは頬擦りに熱い接吻をされる。
それはそれは長~い接吻から解放されると、口から魂らしきものが飛び出る。
四人は突如起きた出来事に付いていけず呆気にとられ、門番は「マタデスカ」と天をあおぐ。
ある意味馴れてんのかこの門番。
「あっ、お母様。ただいまもどりました」
「「「「お母様?!」」」」
ステラの爆弾発言に四人の口があんぐりと開く。口から魂が飛び出したルイスを放置して、お次はステラを抱き締める。
「ステラ!大丈夫だったか?ディザストロに襲われたと聞いたけが、怪我は無いか?」
「はい、大丈夫です」
「良かったあぁ~」
自分の子供に怪我が無いことが分かった途端、崩れ落ちる。
「ステラ、この方達は?」
「ディザストロから助けていただいた傭兵のマークスさんです」
「お見苦しい所を申し訳ない。私はツェツィーリア・タールベルク。この度は子供達の窮地を救っていただき感謝申し上げます」
「ご紹介に預かりました傭兵部隊の隊長をしているマークスです」
姿勢を正して形式的な挨拶を済ませる。
「立ち話もなんですから中へどうぞ」
「その前にこの96式装輪装甲車はどうしたらいいですか?流石に門の前に置きっぱなしは邪魔なので避けたいのですが」
「ならば裏にある納屋の横に停めるといい」
「ありがとうございます」
駐車場所の許可を得て納屋の横に96式装輪装甲車を誘導し、 四人は屋敷の中へと案内される。途中チェフは事後処理の為、似非外国人風の門番に連れていかれたが、また直ぐに会うだろう。
屋敷の内装は豪奢でもなく貧相でもない造りだが、品のある落ち着いた様相。そんな中、一人のメイドが慌ててやってくる。
「奥様!」
クリーム色が特徴的な髪を後ろで纏めており、年は顔立ちと雰囲気から高校生ぐらいだろう。正統派とも言えるロングスカートタイプのメイド服で、エプロンとヘッドドレスにフリルは付いてるが派手さは無い。
「奥様」
「メルか、どうしたのだ?」
「それが……」
メルと呼ばれたメイドに耳打ちされたツェツィーリアは、みるみると顔が青くなる。
「も、申し訳ないが主人に少々お待ちいただきたい」
「はぁわかりました」
「ルイス、ステラ、あなた達もすこーし待っててね。メル、お客様にお茶を」
「分かりました」
「それでは失礼させていただきます」
言い終わるや否や、駆け足で奥に消えてしまう。
「何があったんだ」
「さぁ?」
首をひねるが答えは出ない。
「お、お客様、奥の部屋でしばらくお待ち下さい」
どうやら今はおとなしく待つ他ないようだ。
◆◇◆◇◆◇
しばらくしてから準備が整ったとのことで、一同は部屋を出る。向かう先はこの土地を治めるタールベルク伯爵の居る執務室。
「父上、ただいまもどりました!」
勢い良く扉を開けて入るルイスに続き、ぞろぞろと部屋に入った一同を出迎えたのは人形と見間違う容姿の少女。長い金髪は丁寧に手入れがされているのか一本一本が輝いており、双眸は蒼く澄んでいる。
「おかえりなさい、ルイス、ステラ。元気そうで良かったわ。そして初めまして。下でのやりとりは観ていたわ。私はこの地方都市シータスを統治する長であり、ツェツィーリアの夫、セヴェリアーノ・タールベルク伯爵です」
ルイスさんの父親は男の娘でした。
おねショタっていいよね