一二:契約
「私はこの地方都市シータスを統治する長であり、ツェツィーリアの夫、セヴェリアーノ・タールベルク伯爵です」
目の前にいるツェツィーリアの夫と名乗る美少女に四人はそれぞれ顔を見合わせ、目をこすって現実を見る。
お嫁さんが男装の麗人、つまり男性のような風貌の女性だというのはまだ理解できよう。そういうのが趣味、そのように教育を受けたという方、あるいはそういう精神の人は実在するのでなんらおかしい話ではない。
その逆も然り。性別は男性でも乙女の方はいる。
しかしどうだろう。眼前の存在は世の中の変態共が即お持ち帰りを希望したくなる可愛さがある美少女だが、本人は男だという。男の娘にしては幼すぎる。
まだ年の差同性婚で子供は養子だと言われたほうがまだ現実味があるというものだ。
当の本人はマークス達の反応を面白がりながら値踏みする。
「チェフから報告は聞きました。この度は子供達の窮地を救っていただいき、本ッ当に感謝申し上げます」
顔を机にぶつけてるんじゃないかと思う程の勢いで頭を下げる伯爵。
「頭を上げてください。私達はたまたま居合わせて、飛んできそうな火の粉に対処しただけです」
柔和なビジネススマイルで当たり障り無いように返す。チラリとマークスは上目遣いで見られるが、本人は表情を崩してニヤつかず、決していつもの極悪人スマイルならないように気を付ける。
「ではそういうことにして本題に移りましょう。今回の一件であなた達の実力を見込んで、護衛として雇いたいの。しばらくの間、あなた達を私兵の埋め合わせとしてもね」
「埋め合わせ、ですか」
「えぇ。普通はシータスに駐屯する兵士達から引き抜くんだけど、この街を守る兵士達はね、この国の王から借り受けた軍隊なの。だからちょっと長い手続きがいるの。それに引き抜くにしても誰でもいいってワケじゃない」
伯爵がこの国においてどれ程の立場にあるかは不明だが、一都市の統治を任せられているのであれば、それなりに高い地位を持っているのは間違いない。
そしてその護衛となれば高い戦闘力があり、尚且つ口の固い信用出来る人間でなければならない。選考や手続きに時間がかかるのは当然といえる。
「何処の馬の骨とも知れぬ私達は良いのですか?」
「あなた達は傭兵でしょう?ルイ君が雇うようなら大丈夫だし、それにさっきツェツィーリアが飛び出した時、二人を守ろうとしたでしょ。きちんと仕事する人は大歓迎よ」
「信頼されてるのですね」
「もちろん!自慢の息子ですから」
ニコっと眩しい笑顔で返される。
これがただの幼女であれば抱き締めて頭を撫で回す衝動に駆られる気持ちを抑えつつ、イケメンヴォイスで紳士的に承諾するのだが、相手は男で既婚者で二人の子持ち。しかも男。
「(どーするよ)」
流石に返答に困ったマークスはアイコンタクトで三人に尋ねる。
「(別に請けてもいんじゃね?)」
「(異議なーし)」
「(男の娘!しかも美人さん!縛って搾り取りたい!触手でもいいかも!)」
約一名程、思考回路がイっており危険な状態にあるが、ナニかあったら三人が直ぐに取り抑えるだろう。
「(マークス、襲わせんなよ)」
「(わかってる)」
手早くアイコンタクトを終わらせて向き直る。
「わかりました。この仕事、お受けしたいと思います」
「請けてくれてありがとう。期間中は屋根裏にある空き部屋を好きに使ってくれて構わないわ」
伯爵は机の上に置いてある小さなハンドベルを鳴らす。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
部屋に入って来たのはツェツィーリアの代わりに応対してくれたメイドのメル。
「メル、今日から一緒に働く仲間よ。彼らに屋敷を案内して」
「かしこまりました」
「ルイス、ステラ。二人は残りなさい。話があるわ」
◆◇◆◇◆◇
「無事で良かった!本当に!」
先程の伯爵然とした態度とは違い、一人の父親の顔(低身長で童顔だが)になったセヴェリアーノはルイスとステラを抱き締める。
「二人はあの人達をどう思う?」
「変人…かな」
「ステラは?」
「悪そうだけど、本当はとっても優しい人かな?」
二人の体験談を聞いていく。あの四人は頭から爪先まで黒い鎧を身に纏って現れ、ルイスを殺そうとしていたディザストロ化したオークを瞬殺。そして十体以上いるオークとオークメイジを全滅させた。
その後近くの湖に移動して二ヶ月前に召喚された勇者かと疑うものの、実際は異国で仕事していた軍人崩れの傭兵。
ここまでは彼らが来る前、護衛から聞いた報告と相違無い。
「(っていうかよくよく考えたら不法入国者じゃない。面白半分でもう雇っちゃったし、二人を助けてくれた恩を無下にしたくないし。こっそり手を回しとこ)」
内心これからやらなければならない事を書き留めていく。
特にステラの話に興味がそそられる。彼らの持つ黒い杖。木と金属と謎の素材で出来た小さな部品を組み合わされ、轟音が響くと魔物が血を流して死んでいる。そして触れると光の粒になって消えてしまう。
「(魔導具の類いかな?でもなんか心当たりがあるような......)」
鉄の杖。轟音が鳴れば遠くの敵が死んでいる。どこかで聞いた憶えが有るような無いような話。それらしい記述がある本があるのは何処だったかな?
「二人とも、今日はゆっくり休みなさい」
子供達を下がらせた後、伯爵は外を眺めながら考える。
まずはあの傭兵達の身元と武器の調査しなければならない。余りにも危険な人間ならば人知れず始末して、黒い杖は頂く。構造と生産方法が分かれば量産、配備する事が出来れば戦争が楽になるし、家族を守る為には力がいる。
一番良いのは敵対関係にならず、生産方法を聞き出す事だ。
執事を呼び出して傭兵組合支部長に連絡させる。
やる事が山積みだ、が。
寝室に続く扉を開く。中はカーテンで閉めきられていて暗く、寝台の上には裸で縛られている女性に背筋の凍る甘い声で囁く。
「まずはぁ、悪い子にお仕置きしなきゃねぇ」
そこには悪魔がいた。
女は叫ぼうとするが猿轡で口を塞がれ、逃げようにも手足を縛られて動く事もままならない。
声にならない悲鳴が屋敷に木霊する。
夜はまだ更けない。だって今は真昼だし。
◇◆◇◆◇◆
一同は警備隊長のいる部屋に居た。理由は極単純、仕事の打ち合わせだ。
「分かりました。ではそのように」
打ち合わせはあっさりと決まった。
アスカはステラの護衛に、野郎三人の内一人はルイスに、残り二人は二人一組で敷地内の歩哨と巡回を基本的に行い、誰かが外出する際には付き人として護衛を行う。
そんなこんなで一通り屋敷の中を案内ついでに顔合わせした後、最後は屋根裏部屋のある四階の廊下にマークス達はいた。どうやらこの屋敷の従者は基本ここで眠るそうだ。
「ん?」
ふとギルが立ち止って振り返る。
「どったの」
ギルの後ろを歩いていたチャーリーも後ろを見るが誰もいない。
「なんか悲鳴が聞こえたような」
「そうかぁ?気のせいだろ」
チャーリーは辺りを見回して耳を澄ませるが、悲鳴なんかは聞こえてこない。
「ここです」
と言ってメルは扉の前で止まる。どうやら目的の部屋に着いたようだ。
「今日からこの部屋を使ってください。私はシーツ取ってきます」
そう言い残してさっさと歩いていった。
覗くと二段ベットが左右に一つずつとその奥に小さなクローゼットがある窮屈な部屋だが、俺達にはむしろ丁度良い。部屋の奥側中央にはドーマーと呼ばれる屋根窓から日が射し込み明るい。
「じゃあ俺上な」
「あたしもー」
部屋の間取りに注目している間にベットの上二つをギルとアスカに占領されてしまう。
「お前ら中学生か!」
チャーリーからツッコミが入るが、退く気は無いようだ。
「...諦めて下にするか」
「せやな」
諦めた二人はベットに腰かけると同時にため息が出るのであった。
さてはて、どうなることやら。




