五章八話 『この世は悠久、穏やかなる日々を(前)』
ツワブキの号令で始まった、戦闘部隊の“班決め”。
と言っても、各国からの寄せ集めの銀の団だ。
実力や性格を分かりきっているわけではなく、しばらくお互いの紹介のようなまごまごとした場が続く。
いち早くメンバーが集まったのはやはり英雄、【刻剣】のトウガだ。
ツワブキの開始と同時に、三人の少年が彼の元に集まっていた。
「トウガさん!俺!俺らで組みましょう!!」
「おいらも頑張るよ!トウガ傭兵団組で頑張ろう!!」
「いや……魔道士を入れるって話だっただろう」
騒ぐ二人と落ち着いた一人。トウガは最後の一人にそうだな、と同意すると、
「おーい、ユー!!来てくれ!!」と叫ぶ。
「………呼ばれた。言ってくる」
魔王城左手、少し所在なさげに集まっていた魔道士達の中で、ユーフォルビアはじゃあと右手を上げた。
「伝説の傭兵トウガ直々の御指名っすかー!さっすが……」
「アルストロメリア!!」
褐色肌、パッシフローラの呟きを遮ったのは、【黒騎士】ライラックの呼び声だ。
「先客がいるなら悪いが、俺の隊に入ってくれ」
「あらあら~私も呼ばれたわ~。それじゃ」
おっとり、アルストロメリアもライラックの元へ向かう。
「さっすが泡沫の傭兵姉妹…………」
パッシフローラが唖然とする。
「な、なんか俺達、品評されているみたいでこれ、嫌っすー!
最後まで残ったらどーしよー!!」
「……………落ち着きなさいよ。
どうせそういうのは、私の役目なんだから…………」
「あなたたち、胸を張りなさいな!!」
パッシフローラ、隈の深いグロリオーサを、マリーゴールドが一喝する。
「各々、流派の修業を修めた一人前の魔道士でしょうが!!」
「俺は我流なんすけど………」
「自分の魔法に自信を持ち、どんと構えればよいのです!
巡り合うべきものは巡り合う、ですわ!」
「ちょっと、失礼する」
語り合う魔道士達の前、どんと現れたのは熊のような巨体。
【迷い家】ディフェンバキアだ。魔道士一同は思わず姿勢を正してしまう。
「ふむ………ふむ………」
顎に手を当て、魔道士達をきょろきょろと見まわす。
彼の後ろには既に、中年ほどのガタイのいい男と若いやんちゃそうな青年が立っていた。
「わしはダンジョン探索もやるが、ダンジョン内の建築の方が主でなぁ……。
植物に関する魔法というのはあるのだろうか」
「はい、はーい!!」
マイペースなハイビスカスが、元気に手を上げる。
「どの程度できる?」
「木、生やせまーす!10分で1本!
種が必要だし、魔力的に日の限度はあるけど………」
「一日で何本ぐらいじゃ?」
「うーん、頑張れば10本くらいかなぁ」
「ほう、そんなにか!」
ディフェンバキアは顔を綻ばせる。
「わしは探検家、ディフェンバキアと申す者だ。
お嬢さん、どうかわしの班に入ってはくれんか」
「いいよー!こちらこそよろしくお願いします!」
ハイビスカスは九十度のお辞儀を見せると、男達と離れていく。
「ひぃぃぃえええぇぇぇ!!やっぱり品評っすよ品評!コレー!!」
喚くパッシフローラの前に、またどんと背の高い男が現れる。
戦闘部隊隊長【凱旋】のツワブキだ。隣には彼の相棒、ディルもいる。
「よぉー魔道士のお嬢さん方。しかし悪いが俺ぁもうメンバー決めてんだ。
グラジオラス!来てくれ。俺の班は最前線を張る。
自分で自分の身を守れる魔道士が欲しい」
「…………承知した。こちらも望むところだ」
騎士グラジオラスは毅然とした振る舞いのまま、ツワブキ達へ歩み寄った。
「四人一組だろう。残りの一人は?」
「あー、それも決めてんだが見当たらねぇんだよなぁ」
堂々と会話を交わし離れていくグラジオラスを魔道士達は寂しそうに見守っていたが、彼女達に休む暇はあまりない。
班に一人魔道士を入れる以上、いい魔道士は早く確保しておくべきと考える者は、すぐに彼女達の下を訪れるからだ。
彼女達の前に現れたのは、鎧からはみ出る服や包帯が、肌という肌を隠すような男だった。
【殲滅家】ストライガ。高い戦闘力を誇る探検家だ。
後ろには眼鏡と小さな背丈、華奢な女性と、獅子のように髪と髭が顔を囲う男………。
【竜殺し】と呼ばれる探検家、レオノティスの姿があった。
「俺はストライガ………一応戦闘好きで知られているんでね。
この中に戦場経験者はいるか?」
残った四人の魔道士の中で、手を上げたのはエーデルワイスとパッシフローラだ。
「わわ、私はでも、ひたすら後方支援の衛生兵と言うか……」
「医療従事か」
「そ、そうです!」
「そっちの肌黒いのは」
「パッシフローラっす!砂の国で、幼少期から戦場暮らし!
砂の革命にも、魔王軍との戦線にも参加していました!」
「衛生兵でか?」
「いえ、爆弾です」
「………爆弾?」
首を傾げるストライガに、パッシフローラはガッツポーズを掲げる。
「ジブン、魔法は我流なんすが、なんか爆弾作れるんす!
戦場ではそれを敵に投げつけてました!
あ、もちろん治癒魔法も使えますよ!!」
唖然とするストライガは、次第に笑いへ変わっていく。
「爆弾?はは、爆弾か!!面白いな!よし、俺のチームに入ってくれ」
「はい、よろしくお願いします!!
おっしゃあああああ一抜けぴぃぃいい!!!」
「………五番目でしょうが」
グロリオーサの呟きに構わず、パッシフローラが離れていく。
「そう、胸を………胸を張るんですの」
取り残され冷や汗を隠し、小声で自分の台詞を繰り返すマリーゴールドを見て、グロリオーサはため息をついた。
残る魔道士は三人。
おどおどとしたエーデルワイス。
隈の深いグロリオーサ。
貴族、マリーゴールド。
「アシタバ、組んで」
「アシタバ、組もうぜ!!」
両肩をそれぞれの声の主に掴まれる。
左を振りむけば、片目を隠す黒髪とマフラー。
斑の一族、元殺し屋キリ。
右を振りむけば、燃える赤髪。
巨大な体と両手斧、探検家見習いオオバコ。
「おー?なんだよあんた。よくアシタバの傍にいる子じゃねぇか。
やっぱアシタバチーム希望なのか?」
「………だってアシタバの助手なのだし。
同じ班じゃないのは不合理よ。そういうあなたこそ」
「俺?俺はなんたってアシタバの相棒だからなぁ」
いつそうなった、と思いつつも口には出さない。
メンバーとしては不満はないからだ。
ツワブキが経験者にばらけろと言ったのは、素人を教育しろという意味だろう。
その意味では魔物の知識はないものの、樹人の件で適性を示したキリと、ハルピュイア迎撃戦後、ツワブキの言う“生き残る”という才能を誓ったオオバコは、鍛えがいのある大型ルーキーと言える。
二人とも戦闘面は優れていることを考えれば、探検家の中でも学者肌と言われるアシタバが教え役に向いており、更にスピード型とパワー型、バランスもいい。
「………俺でよければ、二人ともよろしく頼む」
「こちらこそだぜ。そっちの子のために改めて、探検家見習いのオオバコだ!
力仕事なら任せとけ!」
「アシタバの助手、キリ。ナイフが得意。よろしく。あと多分同年代」
「えぇ、そうなのか!?ありゃー、すまん」
オオバコは身長差からそう判断したのだろう、少し面喰う。
「アシタバ君!キミ、アシタバ君だったよね!?」
戦闘部隊の人だかりの中から、その声が聞こえてきた。
三人が声の方を向くと、騎士甲冑に身を包んだ中年の男性が姿を現す。
精悍な顔立ちだ。できる騎士だな、とアシタバは思う。
「突然失礼、私はタチバナと申す者だ。花の国からはせ参じた」
「花の国って………遠い異国じゃねぇか。魔王軍の侵攻も受けていないだろ?」
オオバコが意外そうな声を上げる。
「うむ、かの暗黒時代にも我が国に戦線は発生せず。ひたすら後方支援だったな」
「そんな国の騎士がなんでこんなところへ?」
「ああ………ノウハウを持ち帰ろうと思ったのだ」
「ノウハウ?」
首をかしげるオオバコに、タチバナが説明を続ける。
「我が国は魔王軍と戦った経験がない。その分現実意識が希薄でな。
危機感がない。言葉を選ばなければ平和ボケをしているんだ。
魔王は滅んだが、またあのような脅威が現れないとも限らない。
私は魔物という存在を学びに来たんだ。得た知識を国へ持ち帰りたい」
真剣に話を聞くアシタバにタチバナが傅く。騎士の振る舞いだ。
「アシタバ君。きみの活躍は耳にしている。スライムの件、樹人の件。
ハルピュイア襲来予測の件。ウォーウルフ迎撃の件……。
それを下支えした君の知識に興味がある。
私をきみのチームに入れてはくれまいか。魔物のことを教えて欲しい」
魔物慣れはしていないが戦闘慣れはしている。
オオバコと同じく、期待のできる中年ルーキーだ。
「…………本当にすまないが他を当たってくれ。
魔物に関しては、あんたが望めばいつでも教えるよ。
そういう姿勢はこっちとしても助かる。
だが四人目はもう決めているんだ、枠が足りない。
それに俺は、あんたリーダーになった方がいいと思うけどなぁ。
祖国で兵隊長か何かやっていたんだろ?人の上に立った経験がある感じだ」
「……分かるか」
「んー何となく。確信はできないけど」
「………了解した。今回は諦めよう。また機を見て会いに来る。
その時、魔物について教えてもらってもよろしいか」
「ああ、構わない」
アシタバの言葉を確認すると、タチバナは人だかりの中へ消えていく。
「国のため、魔物を学びに、か……。色んな人がいるんだなぁ……」
感心するオオバコをおいて、キリがアシタバに歩み寄る。
「それで?さっきの四人目って誰なの?」
「ああ、ツワブキは魔道士入れろって言ってたが、絶対じゃないみたいだしな………」
そう言ってアシタバは、人だかりとは反対方向へ歩き出す。
キリとオオバコは顔を見合わせ、その背中を追いかけた。
アシタバ、キリ、オオバコの三人が訪れたのは、南方の畑地帯だ。
彼らの前には一人の男………勇者リンゴが立っていた。
「……………んで、俺にチームに加わって欲しいって?」
アシタバは無言で頷く。
「馬鹿かテメーは!!話聞いてた!?俺は戦闘部隊所属じゃねーんだよ。
チーム編成とやらに参加する義理はねぇんだ」
「義理はない。でも、権利がないわけじゃない」
「ああ?」
「あんた自ら、自主的に参加してくれ」
アシタバのタガの外れた提案に、リンゴだけでなくオオバコもキリも微妙な顔をする。
「………はっ、俺がお前の部下になって、勇者様の力を思いっきり振るえばいいのかよ」
「それはいい。あんたを戦力として欲しいわけじゃない。視点が欲しいんだ」
「視点?」
「あんたの、魔物に対する考えが」
オオバコやキリは、アシタバの考えを測りかねているようだった。
しかしリンゴは真剣な顔つきになり、しばらく黙る。
「………………悪いが、できねぇ。
もう関わるのに疲れたんだ、俺は。悪いな」
結局のところ、勇者リンゴはこの誘いを拒絶する。
「もういい、いこうぜアシタバ。こいつにこれ以上時間かけても無駄だ」
オオバコはリンゴを睨み、彼に背を向け。
「行きましょう。他を当たらないと」
最初から興味なさそうに、キリもオオバコに続く。
「……………………………」
アシタバはしばらくリンゴを見つめ、やがて二人の後を追う。
勇者リンゴは取り残され、立ちつくし。
そして誰にも見せないよう、悲しそうな顔を浮かべていた。
五章八話 『この世は悠久、穏やかなる日々を(前)』




