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こちら魔王城居住区化最前線  作者: ささくら一茶
第四章 流れ月、ハルピュイア戦役編
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四章七話 『大戦士』

“蠍獅子”マンティコア。     

“悪魔卿”デーモン。       

“大兵長”トロールキング。     

“獣王”ベヒーモス。

“岩巨人”タイタンゴーレム。

“悪精霊”ジン。

“魔王副官”サタン。


かつて人類の前に姿を現し、そして討伐された朱紋付き(タトゥー)の名だ。

銀の団の前に現れたその魔物も、記録がないわけではなかった。

ツワブキが生まれてもいない時代の話。

波の国(セージュ)で王国軍と激戦を繰り広げ、そしてそれ以降目撃談もなく魔王崩御の前後にも姿を現さなかったことから、どこかで命を落としたものと思われていた。


“鳥王”ジズ。それがその魔物に付けられた名だ。







「な………んだこいつは………」


鳥王ジズを目にし、【狐目】のタマモはその場に凍りついてしまう。

朱紋付き(タトゥー)の存在を知っていた事もだが、その風貌に彼の危機察知能力が警報を鳴らしていた。

立ち向かってはいけない、と。


「オオバコ…………」


タマモはジズの足元を見た。瓦礫と血。

どうなっているかは見えないが、絶望的なのは確かだ。


「お、おおおおぉぉぉぉおおお!!!」


隣の男が突然叫び声を上げ、ジズへと突進する。それに呼応し飛び出す者多数。

この戦場の、傾いてきた勝利の兆候を潰されまいとする行動だろう。

早く倒してしまわないと。その判断は正しい。ジズの戦闘力を考慮しなければ。


「―――よせ!!!」


タマモの叫びは無駄に終わった。それは、稲妻の如く。


ゆっくりと持ちあがりしなるジズの尾は、縦横無尽に跳ねまわり男達を薙ぎ払う。

筋肉質の大蛇ほどもある巨大な尾が、ジズを朱紋付き(タトゥー)たらしめている武器だ。

グラジオラスを含め何人もの戦士が切り込むも、まるで別の時間軸のモノのように高速に動くそれは、あらゆる攻撃を一蹴した。



歴戦の英雄達は、全員が一斉にジズの元を目指した。

中でも一番近くにいたのは【黒騎士】ライラックだ。

落下地点に駆け付け、ジズの足元のオオバコを確認し、槍を構え、そして――――。


何も、できなかった。


彼の目が告げる。切り込む隙がない。

屋上に悠然と居座るその巨大な魔物、その周辺で滞空する尾。

踏み込めば薙ぎ払われる。受け流すほど軽い攻撃ではなく。


「…………ッ!」


どれだけ手を尽くしてもライラックには、ジズに迎撃される未来しか見えなかった。




「団長、よせ!!」


タマモの叫びに、上を見上げた者達が気付く。

ローレンティアが、鐘からジズへ思いっきり飛びかかっていたのだ。

少しでも隙を、という判断。


頭上から降ってくるそれに、ジズは尾による薙ぎ払いを打ち込み。

ローレンティアの背後から、黒いあの手が湧き受ける。

絶対的な尾の攻撃と、絶対防御の呪いの衝突。



「――――――――え?」



気付けばローレンティアは、空中高くに放り出されていた。

距離にしてジズから40メートル。そこは屋上の外、地上まで落下する空中だ。


「あ………」


呆然とした顔でローレンティアが落ちていく。屋上の者達の視界から消えていく。

今まで果敢に最前線に立ち、ハルピュイアの攻撃を引き寄せていた団長ローレンティアの呆気ない退場に、戦士達の闘気が削がれていく。



そしてまた1つ、血が噴き出す。



大量の赤い血が、屋上の床へと撒き散らされた。

槍の穂先のようなジズの尾の先端部が、その者のわき腹を貫いて背中まで達している。


ローレンティアの飛びかかりが隙を生むと読んでの特攻だった。

蛮勇と言われるかもしれない。だが経験の少なさとこの状況において、それはよく勇気を振り絞った褒められるべき判断だった。


「カシュー……………」


タマモがその、腹を抉られた者の名を呟く。

探検家見習い、カシューが血溜まりへ力なく倒れた。







オオバコの住む村へ、ある報せと共に兄の死亡が伝えられた。


家族はやはり悲しんだ。

泣きじゃくる弟、妹達をあやすのは大変で、オオバコは始め、自分が悲しむ余裕がなかったほどだ。

だがしばらく時が経つと、家族は兄の死を誇るようになった。


よくやった。あの子は私達の誇りだ。


村の近くの小高い丘には、兄を讃えた石碑が建てられた。

兄の好きだった場所だ。村の人々は口々に兄を褒めては、酒を飲んで笑い合った。

どうしても。どうしてもオオバコは、それに馴染めなかった。


暗い過去を払拭するため、いつまでも悲しまないこと。

死を悲しむより、残した功績を讃えてあげること。

繊細な弟達の為に、明るく振る舞わなければならないこと。

事情は分かる。そうした方がいいんだろう。でも、どうしても。



「兄貴さ、いい加減にしぃよ」


オオバコにそう訴えかけたのは一家の長女、兄とオオバコに次ぐ年長者、ツクシだ。


「………何が」


「大兄のこと、まだ引きずっとるんでしょ?

 いつもはよく笑う兄貴が大兄の話の時だけ怖い顔するから、みんな怖がっとおよ」


「そうか、悪いな」


「謝るなら今後控えてって言ってるの」


「それはできねぇ」


少し驚くツクシ。静かな対立。オオバコは言葉を続けた。


「なんでこんなに執着しているのか、自分でもわかんねぇんだ。

 でも、どうしても我慢できない。

 兄貴が称賛されるたびに別人になっていくみたいで。

 お前らが兄貴を褒めるたびに、家族じゃなくなっていくみたいで」


きっと自分は器が小さいのだろう。でも納得ができない。

兄の功績を讃えられるのが、死んで良かったと言われるみたいで。


「でも大兄は凄いことをしたじゃない!!世界を救ったんだよ!?」


「だからなんだよ………それがどうした!!

 俺は兄貴に言ったよ!!そんなこと、しなくたっていいってな!

 誰かがやらなくちゃいけないことをやるために、自分を犠牲にしないでくれって………。


 それが、たとえ勇者と一緒に魔王を倒すことだとしてもだ!!」



その者は、燃えるような赤髪と屈強な体で知られた。

勇者の親友であり、長く共に魔王軍と戦い抜き。

そして最終的に魔王城へ切り込んだ四人、伝説の勇者一行の一人に数えられる―――。


大戦士、イチゴ。


彼を讃える詩が幾つあっても、その日、彼の弟が吠えた情景を知る者はいない。


「大戦士じゃねぇ、俺の兄貴だ!!俺達の家族だろうが!!

 何が死んでよくやっただよ!!功績も何もかも要らねぇんだ!!

 俺はなぁ、どんなに無様でみっともなくても――――。


 兄貴に、生きて帰ってきて欲しかったんだ」







オオバコはその光景を見ていた。

着地の瞬間、ジズの鉤爪を斧で受け止め、地面、斧の頭部、斧の柄で作られた隙間に体を滑り込ませた彼は、血を流し全身を夥しく強打しながらもなんとか生きながらえていた。


だが、そのオオバコの上で。

鳥王ジズは、カシューの脇腹を貫いた。


分かる。オオバコはずっと見ていた。

カシューはずっと、ジズの足元に沈むオオバコを助けようと、頭を回して機を伺って、そして勇気を振り絞ったのだ。

樹人トレントのお返しのつもりかよ。


ああ。

ああ、くそ。



「……………お前ら、何なんだよ」


タマモが崩れるカシューを抱きかかえ、必死に呼びかけている。

オオバコの体の至る所に激痛が走る。

それを無視して、右腕でジズの足首を掴んだ。


「…………………まだ奪い足りねぇのか」


発火するように彼の手が強く、強くジズの足を握る。握り潰さんとする。

その攻撃とも言いきれないまとわりつきに、ジズは足元の戦士の姿を認識した。


「カシュー………死ぬな。俺達は生きなきゃいけねぇんだ」


ジズの尾がゆっくりと持ち上がり、足元のオオバコ目掛けて振り下ろされる。


「生きて、帰らなきゃいけねぇんだ」





幾つかのことが同時に起こる。


まず、ジズの脇腹を槍が貫いた。

オオバコの作った隙を突いた、ライラックの渾身の投擲だ。

彼はしばらく武器を失うことになるが、それでもという判断。


続いて両翼に矢が射られる。エミリアとジンダイ。

降り立ったジズに対する狙撃ポイントを確保した二人の援護。


そしてオオバコの、底なしに湧きあがる握力。

ジズの足が軋み、変形する。その力を、ジズは初めて経験し。


その三点が、ジズの体勢を崩す。


振り下ろされた尾の突きは、オオバコの肩をかすめ屋上の床へと振り下ろされた。




四章七話 『大戦士』

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