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幕間7-1 甘くない現実 ゲルダ視点




 オレは貴族という生き物が気に食わない。


 理由ば単純で、やつらは何も知らないくせに偉そうだからだ。


 やつらは小麦の育て方すらろくに知らない。


 それなのに、やれ今年の小麦の量が少ないだの、作付け量を増やせだのと偉そうに農民のオレたちに指図をしてくる。


 次の年に撒く種は、その年の収穫物から決められた量を領主の館に運んだ後、オレたちの手元に残った小麦から選別される。


 つまり、作付け量を増やすということは、オレたちの食い扶持が減るということで、軽々しくそんな指示をしてくる貴族は血も涙もないに違いない。


 血と言えば聞いた話では、やつらの身体には青い血が流れているらしい。


 人間の血は赤いはずなのに、青だなんて気味が悪いと思ったことをよく覚えている。



 しがない農家に生まれたオレは、ずっと貴族に奪われ続ける人生なのだろうと思っていた。


 それが変わったのは六歳の誕生日に、神殿を訪れた時のことだ。


 偶然にも俺と同日に生まれ、神殿にやってきた領主の息子の一人が、祝福待ちの列に並ぶのが面倒だといってシスターを困らせていた。


 自分は領主の息子で貴族だから、庶民より優先されるべきだ、と主張したやつは、大声をあげるだけでは飽き足らず、あろうことか前方にいた農民っぽい身なりの女の子を突き飛ばしたのだ。


 目の前で繰り広げられたその光景に、オレは全身の血を煮えたぎらせて、怒りのままに振り上げた右手から炎が迸り、この時初めてオレは自分が火の魔法を使える事を知った。


 慌てて駆け寄ったシスターたちに止められたせいで直接攻撃して懲らしめてやることは出来なかったけれど、驚いて腰を抜かした領主の息子を見て、生まれて初めて身分というものに打ち勝てたような気がして、嬉しかった。


 魔法を勉強すれば、偉そうにふんぞり返っている貴族にだってオレは勝てるんだ。


 それからというもの、オレは周りの大人に聞きながら必死に魔法を学んだ。


 火力の調整に失敗して、朝食のパンを丸焦げにし、母ちゃんに怒られたことも一度や二度じゃない。


 そうして周囲の大人から魔法について学べることが無くなったと思い始めた頃に、学園から入学案内が届いた。



 入学に対して、迷いがなかったと言えば嘘になる。


 大嫌いな貴族たちと一緒に生活することは、敵地に足を踏み入れるような感覚だ。


 それでも、貴族と同等の教育が受けられるのならば受けてみたい。


 これは貴族に勝つためのチャンスなのだから。


 そう思って学園への入学を決めたオレは、人生二度目の転機を迎えることとなった。





「決闘だ、レオンハルト・アイヒベルガー!」



 入学式に新入生代表として演説をおこなった王子の発言にカチンときたオレは、王子に決闘を挑んだ。



「宣戦布告? っていうか、俺はレオンじゃないし!」

「間違えた! お前、オレと勝負しろ!」

「間違えるなよ!」



 勢い余って、間違えて王子といつも一緒にいる青い髪のやつを指差してしまったのは些細なことだ。


 別にオレは恥ずかしいなんて思っていない。



「貴族だか、王族だか知らないけど生意気なんだよ! 学園乗っ取るって何だよ! そんなの、このオレが許さないんだからな!」

「王族たる余に対して不敬であるぞ。余はいずれこの国の頂点に君臨するのだ。国の長になるという事は、国家に属する全ての機関は余の配下になるという事だ。それが少し早かろうが遅かろうが関係なかろう? 何の問題があると言うのだ?」

「うるさい! とにかく勝負だ!」


 本気で何の問題があるのかわかっていない王子の横で、さっきの青髪のやつが冷めた目をこちらに向けてくることが腹立たしい。


『そもそも君に許してもらう必要はないけど』なんて声が聞こえてきそうだ。


 そうか、こいつが王子の頼みの綱に違いない!



「お前なんかそこのイソギンチャクを連れていないと一人では何も出来ないくせに……」

「腰巾着な?」



 オレの発言を遮りながら訂正してくる青髪のやつはやっぱりどこまでも腹の立つヤローだ。


 他にも仲間を引き連れていて、女の子の前で恰好をつけたいのか、余裕そうな顔をしている。



「ごちゃごちゃ言うな! 断ったら、お前は勝負から逃げた弱虫だって学園中に言いふらしてやるからな!」

「むむ、それは困るぞ……」

「じゃあ決まりだ! 勝負は明日の正午、北の闘技場だ。剣、魔法何でもありだからな! オレを馬鹿にした事を後悔させてやる!」



 小馬鹿にしたような態度を取り続ける王子に果たし状を叩きつけて決闘の約束を取り付けたオレはこれ以上何か言われないうちにその場を去る。


 だけど、翌日おこなわれた勝負の結果はひどかった。



 ひよこ豆を数えるの刑というよくわからないものをあちらが勝った場合の要求として言われ、何となく気分が盛り下がりつつも始めた勝負。


 王族なんて、甘やかされて育った連中はろくに剣も握ったことがないに違いない。


 そんなふうに思っていたオレの予想は外れてしまった。



「でやぁ!」

「うっ……」



 ほんのひと振りで、オレの剣が弾き飛ばされたのだ。


 正直、何が起こったのがわからなかった。



「まだだ、まだオレはやれる! ちょっと油断してただけで……」

「何度やっても同じだ。余の勝ちであるぞ」

「認めない。だってオレはまだ戦えるし、降参もしてない!」



 喉元に剣先を突き付けられながら、必死に食い下がる。


 そうだ、ほんの少し油断し過ぎただけに違いない。


 集中しきれてないうちにあちらが飛び出してきたから、驚いて剣を離してしまったんだ。



 そう思って何度も何度も剣を拾って立ち向かったのに、オレの剣は幾度も幾度もオレの手を離れていく。



「け、剣がダメなら、魔法だ……。魔法で……、オレと勝負、しろ……! 勝負が剣だけなんて、オレは……言ってないぞ!」



 剣がダメなら、魔法で。


 次なる勝負を持ちかけると、ひょんなことに今度はイソギンチャク……ではなく腰巾着と争うことになった。



 相手が王子本人ではないのが少し不満だけど、まあいい。


 きっと、あの青髪のやつは魔法が得意なのだろう。だけど、心配ない。


 魔法なら、地元でも天才だともてはやされていたんだ。腰巾着の一人くらい、どうってことない。



「そうだな……。こうしよう。お前は俺に全力で攻撃魔法を叩き込め。俺が魔障壁を展開してそれを防ぎきれば俺の勝ち。障壁を破る事が出来たらお前の勝ち。勝負は一回限りだ」

「そんな事を言って、お前が怪我をしたって知らないんだからな!」

「さっさとしないと昼休みが終わってしまうぞ」

「わ、わかってる!」



 魔法では自分の方が勝っているという自信があった。


 だからこそ、相手が大嫌いな貴族とはいえ、怪我をさせてしまうのは気が引けて、心配してやったと言うのに、やつはこちらを急かすような事を言ってくる。



「苛烈なる炎よ。彼の物の未来を阻み、覆い尽くし、焼き尽くせ!」



 えい、ままよと魔力を練り、右手から相手の足元へと炎の渦を放つ。


 そんなオレの様子を冷めた顔つきでじっくりと眺めていたやつは、足元で踊る炎にも慌てた様子なく、ゆったりと魔法の詠唱を始めた。



「清廉なる水よ。我が衣、我が盾となりて、迫り来る邪を鎮めよ!」



詠唱が終わると同時に、オレの炎とやつの間に水の壁が顔を出す。



「そんな……。馬鹿な……」



 壁に触れた炎が、ジュッと音を立てて呑み込まれていく。



「……嘘だ。こんなの嘘だ〜!」

「解除」



 目を見開いて信じられない光景を見つめるオレの目の前でやつが右腕を振ると、水の壁が煙のように消える。



 完全なる敗北だ。


 剣の時と違って、言い訳すら出来ない。



 頭から水の飛沫を浴びながら、オレはその場に膝をついた。




遅くなりましたm(_ _)m

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