表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/31

31,学園準備

 「姉様、今日は学園用品を買いに行きます!」 

 朝、セアリスが紅茶を飲んでいると、リシェルが勢いよく部屋へ入ってきた。 

「……朝から元気ね。」 

「学園準備ですよ!?」 

リシェルはきらきらした顔で言う。 

「制服!文房具!可愛い小物!」 

「最後のは必要?」 

「必要です!」 

 即答だった。 

 王都の大通りは今日も賑わっていた。休日ということもあり、人通りが多い。セアリスとリシェルは護衛を伴いながら店を回っていた。 

「まずは文具店です!」 

リシェルがずんずん進んでいく。 

店へ入った瞬間、セアリスの目が少し輝いた。 

「……インクの種類、増えてる。」 

「あれ?」 

リシェルが振り返る。 

セアリスは棚をじっと見ていた。 

「この深緑、綺麗ね。」 

「姉様?」 

「このペン先も使いやすそう。」 

「姉様?」 

返事がない。 

完全に文具へ意識を持っていかれていた。 

リシェルはぱちぱち瞬きをする。 

(えっ、姉様って文具でこんな顔するんだ……。) 

王都では“完璧で冷静な公爵令嬢”扱いされている人が、インク瓶を真剣に見比べている。 

普通に面白かった。 

「姉様、好きなんですか?」 

「ええ。書きやすいペンは大事でしょう?」 

セアリスは真顔で頷いた。 

「勉強のやる気も変わるもの。」 

「優等生の発言だ……。」 

「じゃあ次は流行のお店です!」 

「流行?」 

嫌な予感がした。 

 連れて来られたのは、若い令嬢たちで賑わう雑貨店だった。 

「見てください姉様!」 

リシェルが小さなリボンを持ち上げる。 

「今これ流行ってるんですよ!」 

「そうなの。」 

「可愛くないですか!?」 

セアリスはじっと見る。何というか… 

「……紐では?」 

「違います!」 

リシェルが悲鳴を上げた。 

「こちらの髪飾りも人気なんです!」 

「重そうね。」 

「可愛いんです!」 

「実用性は?」 

「姉様、なんで全部実用品基準なんですか!?」 

 その後… 

「この色、今すごく人気で!」 

「汚れが目立ちそう。」 

「この刺繍可愛くないですか!?」 

「洗濯が大変そう。」 

「姉様!!」 

完全に価値観が違った。 

 店員ですら途中から笑いを堪えていた。 

「お連れ様、かなりしっかりされた方ですね……。」 

「しっかりしすぎてるんです。」 

リシェルが遠い目をする。 

 すると突然、リシェルが何かを思いついた顔をした。 

「姉様。」 

「何?」 

「これ付けてみてください。」 

差し出されたのは、小さな青いリボンだった。 

「……私に?」 

「絶対似合いますから!」 

セアリスは少し困惑したが、断るほどでもない。店員に勧められるまま髪へ付ける。 

 そして。 

「……どう?」 

振り返った瞬間、店内が静止した。 

「えっ。」 

店にいた全員が固まる。護衛まで一瞬目を逸らした。 

「……?」 

セアリスは首を傾げた。ただ小さなリボンを付けただけなのに、顔が良すぎて破壊力がすごかった。 

リシェルは数秒後、勢いよく叫ぶ。 

「姉様それ買いましょう!!!」 

「なぜ急に。」 

 結局、 セアリスは青いリボンを購入することになった。 

「別に無くても良かった気がするのだけど……。」 

「必要です!」 

リシェルは満足げだった。 

「学園では流行も大事なんです!」 

「難しい世界ね……。」 

セアリスは静かにため息を吐く。 

だが、楽しくないわけではなかった。 

  

 帰り道… 

「でも姉様、思ったより普通で安心しました。」 

「何が?」 

「もっと“勉強しか興味ありません”みたいな人かと。」 

「失礼ね。」 

セアリスは少し笑う。 

「可愛いものくらい、普通に好きよ。」 

「えっ。」 

「ただ、使いにくそうだと思っただけ。」 

「そこなんですよねぇ……。」 

リシェルは苦笑した。どうやら学園入学までに、まだまだ教えることは多そうだった。 




「姉様、落ち着いてください。」

「無理よ。」

学園見学当日。馬車の中で、セアリスは真顔のまま答えた。

「まだ何も始まってませんから!」

「もう始まっているわ。」

「何がです?」

「人間関係が。」

リシェルはとうとう吹き出した。

王立学園。

国内でも最高峰と呼ばれるその学び舎は、遠目から見ても立派だった。

広い敷地。白い石造りの校舎。整えられた庭園。休日にも関わらず、今日は見学会のため多くの貴族子女が集まっている。

「うわぁ……。」

リシェルが目を輝かせた。

「やっぱりすごいですね!」

「……人が多いわね。」

対してセアリスは少し遠い目をしていた。

既に視線を感じる。かなり。

「ねえ、あれ……。」

「王太子殿下の婚約者様では?」

「綺麗……。」

「でも少し怖そう……。」

聞こえている。ものすごく聞こえている。

セアリスは静かに目を閉じた。

(帰りたいわね……。)

「姉様、笑顔です。」

リシェルが小声で言った。

「最近そればかり言われるわ。」

「だって今の顔、“処刑前の女王”みたいです。」

「そんな顔してないでしょう。」

校舎へ入ると、案内役の教師が説明を始めた。

「こちらが講義棟です。」

「一年生は主にこの区域を使用します。」

「図書館は夜間利用禁止――」

周囲の令嬢たちは真面目に聞いている。

だがセアリスは別のことが気になっていた。

(席……固定だったりするのかしら。)

教室を見ながら真剣に考える。

もし最初に座る場所を間違えたら。ぼっち一直線では。

「姉様?」

「何?」

「今、“昼食どこで食べるか”考えてました?」

「どうしてわかったの。」

「顔に出てます。」

その後、自由見学時間となった。

令嬢たちは知り合い同士で集まり始める。当然のように輪ができる。

セアリスはそれを見て、静かに危機感を覚えた。

(やはり学園とは恐ろしい場所ね……。)

「姉様、怖がりすぎですって。」

リシェルが苦笑する。

「だって皆自然に話しているわ。」

「普通のことですよ。」

「何を話しているのかしら。」

「雑談です。」

「雑談……。」

セアリスは少し黙った。

その時。

「ご、ご機嫌よう。」

後ろから声がした。

振り返ると、見知らぬ令嬢が二人立っていた。かなり緊張している。

「……ご機嫌よう。」

セアリスが答える。

すると二人がびくっとした。

地味に傷つく。

「え、ええと……。」

「学園でご一緒になりますよね……?」

「そうね。」

空気が固い。非常に固い。

リシェルが横でそっと目を逸らした。

(姉様、圧が……。)

すると一人の令嬢が勇気を振り絞るように言った。

「あ、あの、髪飾り……素敵ですね。」

「え?」

セアリスは少し目を瞬く。

今日つけているのは、先日リシェルに半ば押し切られて買った青いリボンだった。

「ああ、これ。」

「最近流行ってますよね……!」

「そうなの?」

「えっ。」

令嬢たちが固まる。

リシェルが頭を抱えた。

「姉様!!」

「何よ。」

「この前説明したじゃないですか!」

「聞いたけれど覚えてはいないわ。」

真顔だった。

だが。

その瞬間。

令嬢たちが少しだけ吹き出した。

「ふふっ……。」

「な、なんだか意外です。」

「意外?」

「もっと完璧な方かと思っていました。」

セアリスは少し困ったように視線を逸らす。

「最近よく言われるわ。」

「でも安心しました。」

「安心?」

「はい。少し話しかけづらそうだと思っていたので……。」

かなり正直だった。

セアリスは静かに傷ついた。

だがリシェルは笑っている。

「姉様、よかったですね。」

「何が?」

「ちゃんと話せてるじゃないですか。」

言われて、セアリスは少しだけ周囲を見る。

確かに。さっきより空気は柔らかい。

令嬢たちも普通に笑っている。

ほんの少しだけ。学園への不安が薄れた気がした。

その帰り道。

「どうでした?」

リシェルが聞く。

セアリスは少し考え――

「……思ったより怖くはなかったわ。」

「進歩ですね!」

「でも。」

「でも?」

「やっぱり昼食は不安ね。」

「まだ言ってるんですか!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ