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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
希望の灯火、M-0144と繋がる星々

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応答と出発の前夜

お昼に更新中です。 ぜひ読んでいってください!!

応答が来たのは、送信から五十二時間後の早朝だった。


 颯は錆鉄丸の中で目を覚ました瞬間に、アルテの声を聞いた。


「信号を受信しました」


 起き上がって端末を確認した。画面には旧連邦規格の文字列が並んでいた。識別コード、位置情報、そして三行のテキスト。解読は済んでいた。


——生存者あり。医療資源枯渇。支援要請。


 颯は端末を手で持ったまま立っていた。


「アステルか」


「識別コードは一致しています。アステル採掘基地の旧連邦登録番号です。送信元の座標はフロンティア区分K-7の外縁部です」


「人数は」


「記録には百四十七名と書かれています。ただし、この数字が現在時点のものかどうかは確認できません。信号の形式は二年以上前に設定されたテンプレートです」


 颯は壁を見た。


「セイを呼んでくれ」



 セイが来るまでの間、颯は生産記録を確認した。送信してから二日半が過ぎていた。その間に、製造台数は合計で十一台になっていた。初日の二台から、翌日が三台、その次が四台と二日。アリスの工程精度が上がり、カレンが三工程目まで単独でこなせるようになっていた。


 橋本からの午前の報告では、三十四人のうち二十一人で改善傾向が出ていた。ヒデオは昨日から左手も動かせるようになり、今朝は自分で水を飲んだ。


 セイが扉を開けた。寝起きではなかった。


「応答が来た」と颯は言った。


 セイは端末を受け取って読んだ。一度目で内容をつかんだのか、すぐに顔を上げた。


「アステルの生存者が百四十七名」


「その記録が作られた時点では」


「分かった」


 颯とセイは通信区画に移動した。アルテが座標と飛行時間の計算をリアルタイムで表示していた。


「最短航路で錆鉄丸の現在の燃料だと、アステルまで十一日です。片道です」


「往復は」


「燃料を補充すれば可能です。フィーエルから出発時に満タンにすれば、余裕は一日分あります」


 セイが記録を確認した。


「M-0144を何台持って行ける」


「錆鉄丸の積載量だと、現在の製造仕様で二十台前後です。それ以上は重量バランスの問題が出ます」


 颯は計算した。今の製造ペースだと、あと一週間で十台以上追加できる。合計で二十台以上が確保できる。


「アステルの状況が分からない」と颯は言った。「百四十七名のうち何人が治療対象か、どんな症状か」


「信号には記載がありません」とアルテが言った。「ただ、医療資源枯渇という表現から、慢性的な薬剤不足と設備の劣化が推測できます。旧連邦の採掘基地は医療設備の補充サイクルが短かったため、現在はほぼ枯渇している可能性が高い」


 セイが立ち上がった。


「追加の信号を送れるか。症例数と最重症者の状態だけ聞けたら、持って行くべき台数が見えてくる」


「送れます」



 二回目の信号を送った後、颯は工作区画に戻った。


 朝の作業が始まっていた。カレンが部品を並べていた。アリスは隣の作業台で配線を確認していた。


「今日の予定は五台か」と颯は聞いた。


「四台か五台です」とアリスが答えた。「カレンさんの三工程目までが安定しているので、私が四工程目以降を追えば五台は行けます」


 カレンが部品を置いた。


「昨日より手が慣れています」


「分かる」と颯は言った。「数値で確認できる。続けてくれ」


 颯は工程表を見た。アステルへの輸送を想定した場合、製造をどこで止めるか決める必要があった。二十台を確保した段階で出発するなら、あと九台。今のペースなら二日から三日だった。


 セイが区画に入ってきた。


「橋本と話してきた。百十人のうち今の時点で四十人が治療を受け始めている。残りは症状が軽い、あるいは副作用への不安がある層だ」


「橋本の判断は」


「来週中に六十人まで広げたい。M-0144がそれだけ揃えば可能だと」


 颯は製造台数を頭の中で整理した。フィーエルに必要な台数を確保した上で、アステルへ持って行ける数を見積もった。


「出発は来週にする」


 セイが颯を見た。


「一人で行くのか」


「アルテと二人だ」


「護衛は」


「錆鉄丸には武装がない。もともとない。そこは変えようがない」


 セイは少し間を置いた。


「分かった。出発前に必要なものをリストアップする」



 二回目の返信は六時間後に来た。


 症例数:百十二名。最重症者:三十名。外傷性神経系障害が主な症状。薬剤在庫:残り二十日分以下。


 颯は数字を読んだ。アルテが続けた。


「神経系障害が中心であれば、M-0144の適用範囲と重なります。三十名の最重症者を優先するなら、最低でも十五台から二十台が必要です」


「二十台で足りるか」


「フィーエルの症例より複雑な可能性があります。ただ、設計書には応用治療のプロトコルが収録されています。橋本がそのデータをアステルへ持って行けば、現地スタッフが対応できます」


 颯はセイを見た。


「橋本に聞く。同行できる人間が一人でもいると、向こうの対応が変わる」



 橋本は即答しなかった。廊下で颯と向き合って、三秒考えてから首を振った。


「今の時点では離れられません。四十人の治療が進行中で、来週に六十人まで広げる計画です。私が抜けたら橋本の代わりがいない」


「分かった」と颯は言った。「プロトコルのデータと、現地スタッフへの指示書をアルテが作る。それで対応できるか」


「症例によりますが、指示書があれば基本的な適用はできます。問題が起きた時の判断フローも加えてもらえれば、対応の幅が広がります」


「橋本と一緒に指示書を作ってくれ」と颯はアルテに告げた。「出発まで」


「了解しました」



 三日間で製造台数は二十二台に達した。


 アリスとカレンの工程精度は初日とは別物だった。カレンは五工程目まで単独でこなせるようになっており、六工程目の補助もできる段階だった。アリスは後半工程を一人で完結させる速度が上がっていた。二人の間で工程の引き継ぎに言葉がいらなくなっていた。どちらが何工程目に入るか、作業台の向きで分かった。


 フィーエルの医療区画では、ヒデオが廊下を歩いていた。壁には触れていなかった。


 橋本の報告では、治療対象が五十三人に拡大していた。全員で顕著な改善が見られた。残る五十七人のうち、来週中に三十人以上が治療開始できる見込みになっていた。初日に右手を肩の高さまで上げただけだったヒデオが、今日は廊下の端まで歩いて戻っていた。


 颯は工作区画で最後の製造記録を確認した。


 アリスが近づいてきた。


「二十二台、全台で検査完了です」


「記録してくれ」


「もうしています」


 颯は棚に並んだM-0144を見た。錆や歪みはなかった。旧連邦の設計書通りの形状が、きれいに二十二台並んでいた。前の持ち主が排熱ダクトに隠したまま届けられなかった設計図から生まれたものが、同じ形で二十二台並んでいた。颯はその数を数えなかった。見ただけで分かった。


 カレンが最後の台を棚に運んだ。重さを正確に把握している動き方だった。三日前とは違っていた。


「出発は明朝か」とアリスが聞いた。


「明朝だ」


「向こうで何かあれば、アルテ経由で連絡を入れてください」


 颯は頷いた。アリスは棚の配列を確認してから区画を出た。


 カレンは工具を片付けていた。颯はその横に立った。


「ヒデオが廊下を歩いていた」


 カレンは手を止めた。一瞬だった。


「知っています。朝に会いました」


「何か言ったか」


「颯さんによろしくと言っていました」


 颯は何も言わなかった。しばらく黙っていた。カレンが工具を全部片付けて、端末を閉じた。


「私も続けます」とカレンが言った。区画に残る人間の話し方だった。颯はそれを聞いた。



 出発の夜、颯は錆鉄丸に戻った。


 セイが荷積みの最終確認をしていた。M-0144の二十台、燃料は満タン、橋本とアルテが三日かけて作った指示書のデータはアルテのストレージに収めてある。アステルの現地スタッフが読めば、基本的な治療適用と問題発生時の判断フローが分かる構成になっていた。


 セイが顔を上げた。


「行けるか」


「行く」


「アステルとの通信は、到着してからか」


「途中でも送れる。アルテが経路を管理する」


 セイはリストを折り畳んだ。


「フィーエルはここで続ける。帰ってきた時に、見せられるものを作っておく」


 颯は手を差し出した。セイは握った。力が入った。長くはなかった。


 セイが降りた。錆鉄丸の扉が閉まった。


 アルテが起動音を上げた。


「出発準備完了です」


「アステルまでの最短航路を引いてくれ」


「完了しています。出発後、軌道修正は三回行います」


 颯はシートに座った。コンソールのランプが点灯した。エンジン音が低く安定した。窓の外にフィーエルの夜景が広がっていた。基地の明かりが見えた。医療区画の窓が白く光っていた。工作区画の窓は暗かった。


「前の持ち主はここまで来られなかった」と颯は言った。


「そうです」


「今度は届く」


「はい」とアルテが言った。


 颯はスラスターを入れた。錆鉄丸がゆっくりと地面を離れた。フィーエルの明かりが窓の下に移動した。医療区画の白い光が、角度が変わって見えなくなった。


 上昇しながら、颯は後を振り返らなかった。アステルの方向に、窓の外に星が広がっていた。どれがそれかはまだ分からなかった。アルテがコンソールに航路を表示した。一本の線が星の群れの中に伸びていた。


 錆鉄丸は大気圏を抜けた。

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