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宇宙の漂流者、AI少女と文明再建。~ジャンクと技術で惑星インフラを構築する~  作者: 堀吉 蔵人
響き合う信号、還る場所

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100/100

還る場所

今回で第一部完結となります。

これまでのご愛読感謝します。


では、最終回をお楽しみください。

フィーエルの灯りが見えた時、颯は操縦席から動かなかった。


「着陸まで」


「十二分です。管制から着陸許可が出ています」


 颯は頷いた。窓の外に、見慣れた基地の輪郭があった。四点目の明かりが、今は五つ、六つに増えていた。


 着陸すると、セイが走ってきた。後ろにアリスとカレンがいた。


「後部、ひどいな」セイが船体の破孔を見上げた。「アステルで応急しか出来なかったのか」


「それでいい」


「それでいいって、お前」


 颯は降りて、地面に足をつけた。土の感触があった。金属の床とは違う沈み方だった。


「話がある」


 セイの目つきが変わった。何かを察したような顔だった。


「聞こう」


「錆鉄丸を、船として使うのをやめる」


 アリスが息を止めた。カレンが颯とセイを交互に見た。


「エンジンを止めて、船体はここに残す。中枢部と通信設備は生かしたまま、基地の一部にする」


「お前は」


「フィーエルに残る」


 誰も、すぐには言葉を返さなかった。基地の照明が、風もない宙域で静かに灯っていた。


「拾い屋をやめるってことか」セイが言った。


「ああ」


 カレンが小さく笑った。泣き笑いに近い顔だった。


「やっと、って感じ」


 アリスは何も言わず、颯の後ろに見える錆鉄丸を見上げていた。傷ついた船体を、値踏みするような目で。


「艦橋のデータ系統は移設できる」アリスが言った。「通信中枢として、今より安定させられる」


「頼む」


「治療の枠は」セイが聞いた。「お前がいなくなる分、どこかで穴が開くんじゃないのか」


「開かない。ハラダのデータも、二十七の座標も、全部アルテに残す。使う人間が増えるだけだ」


 セイはしばらく颯を見て、それから短く息を吐いた。


「わかった。なら、住む場所を用意する。文句は言うなよ、狭いぞ」


 その日から、錆鉄丸は動かなくなった。


 推進炉が解体され、部品は基地の設備へ回された。船体の外殻はそのまま残り、中は通信室と作業場に作り替えられた。艦橋だった場所に、颯の机が置かれた。


 数週間が過ぎた。ハナが杖なしで基地の廊下を歩いていた。ヒデオが送信機の点検を手伝っていた。カレンは若い技術者に工具の使い方を教えていた。教わる側の手つきは、まだぎこちなかった。かつてのカレンと同じだった。


 颯は毎朝、机の前でアステル、ロストン、隠れ里、デルタからの通信を確認した。応答のなかった十六か所のうち、二か所から微弱な信号が戻り始めていた。誰かが、まだそこで生きている証拠だった。


 ある夜、颯は机の前で目を閉じた。作業の手を止めて、しばらく動かなかった。



 アルテは、颯が眠っている間の時間を、演算に使っていた。


 推進炉が止まってから、アルテの処理能力の多くが空いていた。航法計算も、燃料効率の最適化も、もう必要なかった。代わりに、二十七の座標のうち応答のない十六か所の解析を進めていた。信号強度の減衰率、想定される電源の残量、届くかもしれない声の可能性。


 答えの出ない計算だった。それでも続けた。


 クラリス-01は基地の外壁に係留されていた。颯が眠っている今も、アルテはそこから見える星を見ていた。三十八年、封鎖モードの中で見ていた暗さとは違う星だった。


 颯に拾われた、とは一度も思わなかった。漂流を続けていたのは颯の方で、そこに留まる理由を差し出したのは、データの塊でしかなかった自分の方だった。それでも颯は、自分の名前を呼び続けた。


 クラリス-01の腕に、係留用のフックがかかっていた。星の光が装甲の縁をなぞっていた。動かなくても、感じられるものはあった。冷たさ、光の角度、風のない静けさ。船外活動用に設計された身体だったが、今は見張り以外の用途がなかった。それでも、颯の眠る場所から見える位置に、自分を固定しておくことを選んだ。


 推進炉が今日、完全に沈黙した。もう航路計算はいらない。それでも、颯のそばにいる理由は消えなかった。


 旧連邦規格のセントラルAIは、本来、施設や船に紐づけられて機能する設計だった。所属を失えば、次の所属先を探すのが最適解のはずだった。だが今、アルテには探す先がなかった。探す必要そのものがなかった。


 アルテは、それを演算では説明しなかった。ただ、そういうものだと受け止めた。



 颯は目を開けた。窓の外は変わらず暗かった。だが、暗さの奥に基地の灯りがあった。


「アルテ」


「はい」


「明日、ハラダのデータをもう一度、ロストンへ流せるか」


「可能です。準備します」


 颯は椅子から立ち上がった。錆鉄丸だった船体が、静かに軋んだ。


 窓の外で、クラリス-01のライトが小さく点滅した。合図ではなかった。ただ、そこにいるという印だった。


 颯は目を閉じて、推進炉の音が、もうどこからも聞こえないことを確かめた。


 代わりに、基地の稼働音が遠くで続いていた。誰かが働いている音だった。


第一部 完

相棒である錆鉄丸を止めることを決意した颯は、惑星フィーエルに腰を落ちつけることとなりました。そしてアルテはいつも颯とともにいます。


しかし、これで終わりではありません。二人(?)が再び立つ日は必ず書かれることになると信じています。第二部の開始をお待ちください。


ご愛読ありがとうございました。

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