第一章:不良気取りと妹事情
初めましての方は初めまして、久しぶりの方はお久しぶりです。倉田ヴェルムート星呑です。
今回は一般的な日常系学園ラブコメを書きました。
設定上、書き溜めている他の作品(未公開)と世界観が共通しているので、いずれそちらも投稿できればと思っています。
妹萌えと最近のマイブーム、そして自分の思っていることを混ぜてみたらこういう作品になりました。
とりあえずじわじわと投稿していければなぁ……と思っていますので、よろしければ読んでみてください。
タブーって、魅力的だと思わないか?
言いかえるならば「禁忌」みたいな感じだろうか。人間が生きてきた過程で定められてきた、正しく生きるためのルールとかそんなの。
例えば人殺しを犯罪と定め、行った人間を裁くのだ。これは極端な例だが、現代を生きる人間にとっては当たり前の常識で、人殺しを是としないことが求められるルールだ。
それは学園生活でも同じことで、校則という形をして存在する。髪を染めるな、授業をサボるな、制服を正しく着用しろ、教師に逆らうな等々。必要ないことまで規則として定めておく。それが平穏に生きるための仕組みと言うのだろう。
「下らねーって、誰か言えばいいのに」
オレ、求聞ムジナは独り言としては少し大きめに言う。
いやほら、オレ自身も髪型とか学ランの着こなしとか、パッと見ただけでもかなり校則に逆らっているわけで。望むなら規則は壊してやりたいわけよ。
この高校は進学校で、そこそこ厳しめな校則と真面目な印象が原因で(理由はそれだけでもないけど)変な生徒はオレしかいなくてさ。当然のように友達がいないオレは授業をサボって屋上で昼寝したり、学校を抜け出してコンビニで買い食いしたり、っていうテンプレートみたいな不良生活もたまにしか出来なくて。
「本当、つまんねー生活だこと」
こうやって休み時間に屋上で独り言を漏らし続けるしかないんだよ。まあ、屋上に出ること自体が校則違反なんで、気分的にはわりと良いんだけどさ。友達のいない学園生活ほどつまらないモノも無い。
自分で言うのもなんだが、まあ容姿はそこそこ良い方でさ。たまに真面目そうな女子が告白してきたりはするが、つまらなさそうだからって速攻で断るし。
そんなこんなで、オレはつまらない毎日を過ごしていた。
「どうしてサボったりするの!?」
教室に戻る途中、クラスの委員長サマが怒鳴ってくる。おー怖い怖い。
「関係ねーじゃん。ほっとけよ」
「関係なくない! 私は、委員長だもの」
曰わく「委員長はクラスの問題を全て解決するのよ!」だそうだ。面倒なことこの上ない。
委員長サマは長くて綺麗な黒髪を手でサッと払い、オレを睨み付ける。
「そもそも成績は大丈夫なのかしら?」
「ハッ、委員長サマは学園の評価基準とかも知らねーのか」
オレはわざと委員長サマを煽って言う。ついでに周りの優等生たちにも。
「この学園ではな、出席とテストを合計して一定以上の点数なら成績が出るんだよ」
鼻で笑ってさらに続ける。
「そもそも単位制だから単位が足りてりゃ問題ねーな」
「ッ! でもそれがサボって良い理由にはならないわよ!」
しつこいな。もういっそ口塞いで黙らせてやろうか。
「サボる理由ねぇ……何個かあるけど」
「聞かせてみなさい。正してあげるから」
やる気を感じる目。委員長サマは、すぐにでも矯正してやるっていう顔でオレを見た。
それならば、一番酷くて一番オレに失望するような答えで返してやる。二度とオレに関わろうっていう気すら起こさせないように。
「真面目にしてても留年するような奴を笑うため、だな」
そして当然、オレは頬を叩かれた。涙目で去り行く委員長サマの背中を、目に焼き付けておくのだ。
結論として、その日オレに注意をするような奴はいなくなった。そして、前より避けられるようにもなった。誰もオレには近寄らない。いかにも不良みたいで良いじゃねーか。
(なんてな……クソ、前よりつまんねーじゃんか)
ふざけている。親に無理やり入れられたこの学園で、真面目にする方が馬鹿げているんだ。本当は普通の高校に通うはずだったのにな。
とにかくまあ、することもない放課後だ。ゲーセンを巡ったりしたいところだが、如何せん金が無い。
「……久しぶりに部活見学でもしに行くか」
一応これでも高校一年生。とりあえず籍だけを置いてる部活動なんかもあるわけで、暇になったら顔を出すくらいには参加している。
オレは昇降口へ向かっていた足を図書室へ向け、音楽を止めてヘッドフォンを首にかける。秋といえば読書だ、と言っていた友人の顔が思い出されたが、あえて今は忘れておくことにする。
「あ、ムジナっち来たんだー!」
だってコイツがその友人だから。
名前は川濃キリミ。オレも所属していることになっている文芸部、その部長である。オレと同じ一年生のくせに部長をしているのは、部員がオレ含め二人という少なさだからだ。
「今日もサボってたのー?」
「一時間だけな」
調子の狂う間延びした声で「そーなんだー」なんて言うキリミ。中学よりも前からの付き合いで、実家が書店を経営しているキリミとはそこそこの良い関係を築けている。
優等生のくせにどこかネジの緩い女の子で、決して真面目にしようとしているわけじゃないところがオレと噛み合っているのだろうと常々思う。
「今月の新刊でも読むー?」
「ん」
赤茶色の短いサイドテールを小さく揺らし、キリミは新品の軽文学を差し出してきた。オレはそれを受け取り、軋むパイプ椅子に腰掛けた。
「その髪型って、また何かの真似か?」
「これはねー、結城○奈ちゃんの真似だよ!」
キリミは無い胸を張って自慢げに髪を見せてくる。短いサイドテール(というには後ろ過ぎる)が動くたびにピョコピョコと跳ねる。キャラの名前は知らないが、
「今までで一番似合ってるんじゃねーか?」
「え、そ、そう? えへへー♪」
色んな作品のキャラクターを真似するのが趣味のキリミは、数日おきに髪型を変えて登校してくる。赤茶色の髪は地毛らしいが、その色がどんな髪型にも合うので凄い。
キリミは控えめに言っても美人である。いや、どれだけ低く評価しても美人だと思う。初めて会った時からこの意見は変わっていない。全くもって美人だ。
「な、なにかなー?」
「いや、なんでもねー」
ついつい顔をジーっと見つめてしまった。頬を赤く染めても、やはり美人だ。なんて心の中でべた褒めしておく。
オレは文庫本を広げ、とりあえず読んでみることにする。主人公がクソ野郎で、犯罪一歩手前のことを平然とやっている。さすがキリミ、オレの好きな感じの話をなんとなく把握していやがる。
「これ面白いな」
「でしょー!」
自分が書いたわけでもないのに自慢げに語るキリミ。本当に面白いのはお前だよ、なんて感想は俺の胸の中に仕舞っておこう。
「あ、そろそろ帰るわ」
「おー、お疲れ様ー!」
気付いたら思ったよりも時間が経っている。まだ余裕はあるが、早めに帰ってシャワーでも浴びよう。夕食も作らないといけねーからな。
「ただいまー」
返事を求めていないテンプレートの挨拶。安物の腕時計がピッタリ五時を指している。今からだったらシャワーを浴びてから夕食の支度をしても余裕だろう。
「夜ご飯はー、ピラフがいいなー」
おかえりも言わない妹のシオリが夕食の注文をしにやってくる。ベタベタとすり寄ってきて鬱陶しい。
「材料あったか?」
「ピラフとチャーハンと焼き飯の材料があるよー!」
それの違いが良くわからないんだよ。特に後半二つ。
小学六年生の我が妹は、精神年齢が幼稚園児並みである。いや、本当はオレよりも上なのかもしれんが。甘やかされすぎて変にでもなっているんだろう。なんてな。
「じゃあ、シャワー浴びてくるから待ってろよ」
「了解した!」
シオリはその場で回転し、キュルキュルと音を立てながら居間に戻っていく。車椅子って便利だな。
「いただきまーす!」
シオリはデカい声で言って、スプーンでピラフ(?)を食べる。うむ、味は悪くない。
「ほら、こぼれてるぞ」
「んー、ごめーん!」
謝りながらも食べる手を止めないシオリ。食い意地の張ったやつだ。
「……どうだ、美味いか?」
「うん、おいしい!」
こんな生活を続けて五年になる。妹は事故で立つことができなくなった。腰から下が全く動かない、いわゆる半身不随。
当時一年生だったシオリは、下校中に大型トラックに轢かれた。悲惨な事故だ。一緒にいたシオリの友達は、未だに意識が戻っていない。だからトラウマで精神も当時のまま――いや、当時のままなふりをしている。
両親はそんな妹を俺に任せて勝手に出て行ってしまった。生活費だけは振り込んでくれてるが、オレの進路にまで口を出してくるのは勘弁して欲しい。
「ごちそうさまでした!」
ピラフを食べ終えたシオリは、皿を台所に運んで風呂場に行く。一人でシャワーを浴びられるようになったのは三年生になってからだ。
器用なもんで、腕だけを使って風呂場を自由に移動する。家の中では車椅子もいらないんじゃねーかな。
「お兄ちゃーん! シャンプー切れてるよー!」
「はいはい今行くよ」
これで甘えてくるのをやめてくれたら文句はない。小学六年生の妹にベタベタと引っ付かれるのは結構なストレスだ。なんせキリミよりも胸が大きいんだから。
「ほら、シャンプーの詰め替え」
「えー、詰め替えるの苦手だからお兄ちゃんがやってよ」
ほらこれだ。わざわざ風呂場に招き入れようとするのはどうにかして欲しい。オレがいない時は一人で詰め替えてるのも知ってるんだぞ。
「自分でやれ」
「いやだ!」
「別に自分でできるだろうが」
「お兄ちゃんがやらないとダメなの!」
こういう感じで最終的にオレがやってやるところまでがいつもの流れ。シオリは頑固で、一度言い出したら意見を曲げない奴だ。この好意は受け入れ難い。
「やれやれ、だな」
「ありがとー!」
何でコイツに好かれているのかわからない。兄だから、ではない気がする。じゃあ何だ?
「おい、濡れてるんだから抱きつくな」
「えー」
ほんと、オレはつくづく妹に甘い。叱りはするが怒りはしない。正直、今すっごい怒りたいけど。
「ほら、オレの背中が濡れちまうだろうが」
「むー」
シャンプーの詰め替えを終えてシオリを引き剝がす。少し距離をとってしまえば近づくこともできまい。
「アイス買ってきてやるから早く入っちまえ」
「わーい! アイスー!」
ちょろい。まあ、言った手前買ってこないと色々面倒くさいので、ちゃんと買ってきてやるわけだが。モナカアイスでいいだろ。
「アイスおいしい!」
「そうか、良かったな」
風呂上がりのアイスにテンションを上げるシオリ。確かにモナカアイスは美味い。オレとしても満足の味だ。
「お兄ちゃん、今日こそは一緒に寝ようよー」
「ダメだ」
いつも通りバッサリ切り捨てる。シオリの部屋が一階でオレの部屋が二階。シオリが上がって来れないようにそうしている。布団に潜り込んで来られると困るからだ。
無駄にデカい一軒家で実質的な二人暮らしをしているオレたちは、やはりと言うべきか、まあ苦労している。オレたちというかオレがだが。
シオリの補助をして、料理をして、洗濯をして、掃除をして、それ以外はほとんど学園生活。金だけは無駄にあるから、アルバイトをしなくて済んだのが救いだ。小遣いは無いけど。
「――ねえお兄ちゃん聞いてるー?」
「ん、なんだ?」
考え込んで話を聞いてなかったらしい。反省だ。
「わたしに優しくするの、なんで?」
いつになく真剣な顔でシオリが言う。すぐに「妹だから、とか禁止ね!」と追撃してくる。
「……オレは」
なぜ優しくするのだろう。シオリが歩けなくなったと聞いてすぐに匙を投げた両親と、何が違うと言うんだ。
妹だから? ……違う。
両親に見限られて可哀想だから? ……違う。
じゃあなんでだ。禁忌に憧れてるっていうなら、最初に切り捨てるはずなのに。
「答えなくてもいいよ。実は大体わかってるもん」
「な……」
オレ自身にわからないのに、なんでわかってるんだ。
「教えてあげなーい!」
クスクスと笑いながら、シオリは牛乳を飲む。寝る前の習慣だ。
「これから先ずーっと、寝るときもお風呂に入るときも一緒って約束してくれるなら教えてあげる」
イタズラっぽく笑って、シオリは部屋に戻っていった。一人で居間に残されて、オレは呆然とするしかなかった。
いつも通りの早朝に目が覚めた。あんまり眠れてはいないが、起きる時間はしっかりと守れる。
「シオリー、起きろよー」
完全に起こす気のない呼び掛け。シオリが起きてくるまでに弁当と朝食を作ってしまおう。といっても弁当の方は冷凍食品と卵焼きだけだが。
うむ、米は綺麗に炊けているな。あとは余った卵で目玉焼き作って、焼いたソーセージを添えたら終わりだ。
「……起きてこないな」
仕方ない、起こしに行くか。
「おい、起きてるかー?」
ノックしてから少し待ってドアノブに手を掛ける。鍵なんて無いから、当然押せば開く。
「お兄ちゃん助けて……」
そこにはベッドから落ちて動けなくなっているシオリがいた。
「おい、何やってんだ?」
聞くまでもないが聞いておく。聞いたところでコイツの行動は意味不明だ。
「あのね、お兄ちゃんの部屋に行こうとしてね、こうなった」
「……は?」
意味がわからない。あれか、オレの部屋まで這って行こうとしたらベッドから落ちた状態で動けなくなったわけか?
「なんで動けなくなってんだ?」
「腰がね、引っかかって取れないの」
よく見ると腰から下に巻き付いたシーツがベッドに引っかかっている。腰から下が動かないから足掻くこともできないわけか。
「……アホだな」
「むー、アホじゃないー!」
ジタバタしたせいで余計に絡まっていく。いや我が妹ながら、ほんとアホだわ。
「まあ助けてやるから動くな」
シオリを持ち上げ、一旦ベッドに戻す。シーツがぐるぐる巻きで人魚みたいになっているが、人魚の欠片ほども色気はない。
シーツを引っ張ったりシオリを転がしたりしてシーツを剥がしていく。吞気に「わーい」とか言っているアホはもう気にしない。
「……って、お前ズボンと下着どこやった?」
シーツを引き剝がしたら尻が出てきた。ふざけんじゃねえ。
「んー? たぶんベッドの下?」
「どうしてそんなとこにあるんだよ。てか起き上がるんじゃねえ……」
下半身に何も身に着けず起き上がろうとするシオリを制止する。ほんと油断も隙もない奴だ。
「早くこれ穿け。朝飯が冷めるだろうが」
ズボンと下着を投げつけて部屋を出る。いや、よくよく考えれば、どーせ着替えるんだから私服の方を渡すべきだったのか?
「じゃあ、今日もお願いします」
迎えに来た小学校の先生にシオリを引き渡した。オレもさっさと学校に行かないとな。
「行ってきまーす、お兄ちゃん!」
「……おう」
結構なセレブ学校に通っているおかげで、シオリは毎朝迎えに来てもらえる。羨ましいぜ。
部屋から取ってきた軽いカバンを背負い、玄関にしっかりと鍵を掛ける。
「……さて、今日はどこでサボってやろう」
オレの一日がまた始まる。タブーを犯すための一日が。
こういう学園ラブコメとかが大好きなわけですよ。私は。
リアルの方で「私ラブコメ大好物デス!」とか自己紹介したら心の底から驚かれました。なぜでしょうか。
そろそろ就活とか考えないとヤバい年齢なんですが、思考停止したように小説書くだけの生活をしています。専門学校めんどくさい。
とりあえず今の熱が冷めないうちに一本書き上げたいです。相当に遅筆なので難しいですけど。
異性の心の機微が分かればいいんですけどね。まだまだ勉強不足です。
更新が止まってる他の作品もそろそろ書かないとなぁ……とか思ってます。
それではまたいつか会いましょう。




