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164.【急募】天才少女に対する男らしさのアピール方法

文化祭における部活の状況は、部によって様々。

ライブを行う吹奏楽部や軽音楽部、同じく公演がある演劇部、

写真展覧会をしている報道部、体験教室を開いている料理研究会等々。

そして、野球部ではジャージに着替えた後。


「いったー! おめでとうございまーす!」


ストラックアウトに挑戦した雫が、パーフェクトを達成した。

パネルは9枚だが、投げた球数は5球。何故なら2枚抜きを連発したから。

全部抜くどころか理論上最小の投球数でクリアするとは。


「まさかパーフェクト出るとは!

 こちら、パーフェクト賞のゲームソフトです! お持ち帰り下さい!」

「ありがとうございます」

(……どんだけ万能なんだ)


多少はカッコいいとこ見せられるかなと思って、俺も挑んだ。

結果は9枚中7枚。そこそこの結果を出せたと思っていたが、簡単に上回られた。


「こうして回ってみると楽しいね。去年はもったいないことしたかも」

(楽しそうで何より)


運動部は各部活でやることをアトラクション形式にした模様。

ご丁寧なことにスポーツドリンクの販売も行っている。


「次はどこ行く?」

「折角着替えたんだし、ここにあるの全部やってみたい」

「分かった。じゃ、俺もやるかな」


せめてどれか一つでも上回って、カッコいいとこ見せたい!

日々の鍛錬の成果よ、どこかしらで出ろ!




「お見事ー! 完全制覇でーす!」

(………………マジかよ)


バスケ部主催、距離・角度様々な場所からのシュートチャレンジ。

俺は6本中3本失敗。雫はボードどころかリングにすら当てずのパーフェクト。

サッカー部主催、部員とのガチンコPK勝負。

俺は辛うじて1本。雫は裏をかくわシュート曲がるわでパーフェクト。

テニス部主催、サーブによる的当て。

俺は空振り含め失敗の連続。雫は寸分の狂いもなく全弾命中。

実力の差をまざまざと見せ付けられた結果となった。


「凄ぇな、マジで……俺全然だわ」

「そんなことないよ。それに、私は女子ハンデ貰ってるし」


確かにシュート距離や的の大きさ等、ある程度緩和されてはいるが、雫にはほぼ関係ない。

部員でも難しいんじゃないかということを軽々とやってのける。

この分だと、部活に入ったらエース確定だろうな。恐らくは文化部でも同じ。


「ところで先輩、宜しければ今からでも我がテニス部に!」

「ごめんなさい。今は、いいかなって」

「あちゃー。深沢先輩に続くエースが生まれるかと思ったんですがねー」


コミュ力さえあれば。十全の才気を活かしきれないというのが本当に惜しい。

本来なら、今頃賞状やトロフィーの一つ二つはもらえたはずなのに。

ただ、雫ってそういうのに興味を示したりしないタイプっぽいけど。


「やっぱり会長って凄かったのか? 全国出たって聞いてるけど」

「それは勿論。レシーブ時の咆哮がやかましいことを除いて完璧な選手です」

(……会長らしいというか)


ダイナミックな動きでコートを駆け巡る会長の姿を思い浮かべる。

うん、吼えそう。というか吼えないで淡々とやるシーンが想像できん。

マナー的にはあまりよろしくないとは分かってるが、会長なら仕方ない。


「お二人は帰宅部なんですよね? バイトしてたり?」

「一応」

「私はしてない」

「ふむ、となると逢瀬はバイトのない日だけってことですか」


……ん?




「小遣い稼ぎもほどほどにしといて下さいよ?

 こんないい人を寂しくさせるようじゃ、彼氏失格ですからね♪」




どうも、大変な勘違いをされたらしい。

俺は雫のことがLOVEの意味で好きであり、雫もそれは知っている。

だが、今の関係はあくまで『友達以上恋人未満』。

(残念ながら)決して、彼氏彼女の関係ではない。


(どう返せばいい?)


違うということを示すだけなら、否定するだけでいい。

ただ、この一年坊主の性格がサルみたいなものだった場合、都合よく解釈して、

余計面倒なことになる可能性がある。

そして何より。


(間違ってはいるけど、あまり強く否定したくない)


俺は雫との関係をさらに親密なものにする、平たく言えば彼氏と彼女の関係にする気でいる。

気分や感情の問題と言われたらそれまでだが、否定の意を口にしたくはない。

しかし、これをこのまま放置するのもまずいし、解決する為には俺がどうにかするべき。

こういう時、俺がまごついてる間に周りがどうにかしてくれた、というパターンがあるが、

それに頼りっきりになるわけにはいかないし、そもそもとして。


「………………」


雫は思いっきり赤面している。何かを期待するどころじゃない。

むしろ下手に刺激したら、余計に事態がこじれかねない。

……よし、覚悟決めた。こいつの性格次第だが、こうするか。


「何の勘違いしてるか知らねぇが、俺と水橋は()()そういう関係じゃねーよ」


否定しながらも、『そういう関係』になる可能性があるということを匂わせる。

こいつが妙な所で頭が回り、好奇心旺盛なサルみたいな奴だったらツッコまれるが、

そうなったら「未来は分からないからな。それじゃ」で切れる。

さて、どうなる?


「あれ、先輩方って付き合ってないんですか?」


お、こっちか。それならもっとやりやすい。


「あぁ。お前の勘違いだよ」

「これはとんだご無礼を。大変失礼致しました」

「分かればいいんだ。それじゃ」


話の分かる後輩でよかった。謝罪の方向が雫に向けてというのはいつものことだし。

やっぱり、誰から見ても俺は雫に釣り合っていない。

勿論、これも『まだ』だ。雫にとっての特別な男になるまで、俺は歩みを止めねぇ。


「さてと、次はどこ行く?」

「……あっ、その……古川先輩のクラスに行かない?」

「そういや朗読会あるって聞いたな。んじゃ着替えるか」


雫からは、俺がどう映るんだろうか。

臆病者の俺じゃ、まだ踏み込めない。




―――――――――――――――――――――――――――――――




「お見事ー! 完全制覇でーす!」

(……ふぅ)


やっぱり体を動かすのは楽しい。

嫌なことを考えずに済むだけじゃなくて、気持ちいい。

八乙女さんには感謝しないとな。本当の楽しさを教えてくれたし。


「凄ぇな、マジで……俺全然だわ」

「そんなことないよ。それに、私は女子ハンデ貰ってるし」


怜二君も半分は当てたし、ボクは大き目の的を用意してもらったからね。

落ち着いてサーブ打てれば、当てるのは簡単。

こういうのも女の子の特権っていうのかな。違うか。


「お二人は帰宅部なんですよね? バイトしてたり?」

「一応」

「私はしてない」

「ふむ、となると逢瀬はバイトのない日だけってことですか」


……え?


「小遣い稼ぎもほどほどにしといて下さいよ?

 こんないい人を寂しくさせるようじゃ、彼氏失格ですからね♪」


ちょっと!? 何言ってるの!?

怜二君はボクの彼氏じゃなくて友達……だけど、告白されてる。

答えはまだ返せてないから、否定するのも何か違うし……うぅ。


「何の勘違いしてるか知らねぇが、俺と水橋はまだそういう関係じゃねーよ」

「あれ、先輩方って付き合ってないんですか?」

「あぁ。お前の勘違いだよ」

「これはとんだご無礼を。大変失礼致しました」

「分かればいいんだ。それじゃ」


……怜二君が、また解決してくれた。


「さてと、次はどこ行く?」

「……あっ、その……古川先輩のクラスに行かない?」

「そういや朗読会あるって聞いたな。んじゃ着替えるか」


やっぱり、怜二君はこういう場を取りまとめるのが上手い。

本人は『脇役スキル』と思ってるかもしれないけど、そんなことないよ。

コミュ力が高いから、皆の調和を取ったり、会話を円滑にできるだけ。

誇るべきことだと思うよ。


(……ただ)


『まだ』、そういう関係じゃない。

裏を返せば、いつかはそういう関係になるつもり。

現に、ボクは怜二君に告白された。それなのに、ボクはまだ答えを保留している。


(……怜二君)


ズルいボクで、ごめんね。

もう少しだけ、心を許せる友達がいる楽しさを味わいたい。

でも……絶対に、答えは出すから。

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