158.無能な味方が一番始末悪い
「こいつ、昔っからやたら首突っ込む野郎で、俺が面倒見てんスよ。
今回も予想通り引っ掻き回してくれましたし、ねー?」
古川先輩の時で懲りたかと思ったんだが、未だ反省してないんかコイツは。
お前のお守りをしなくなって久しいというのに、まだ俺が何とかしてくれるとでも?
そうだとしたら、よっぽど学習能力無いんだな。
「俺がお前の面倒を見たというか、尻拭いしたことは腐るほどあるが、
お前が俺の面倒を見たという覚えは全く無いな。
で、俺がどの部分をどう引っ掻き回したと?」
「文化祭めちゃくちゃにしたじゃねーか。どうせお前が仕組んだんだろ?」
「お前も知ってる通り、門倉と山内先生が発端。
俺がやったとしたら、それをここまで戻すとか意味不明だろ」
「そうなの。透君、これは私が……」
「大丈夫、俺は分かってるよ。文化祭を潰そうとしたのは怜二だろ?
陰キャだからって文化祭潰すとか、お前本当にクズだな」
「……透君」
擁護してるつもりだろうけど、後ろから撃ってるよ。その言葉が刺さるのは門倉だ。
当人から言われてもなお分からないか。
「つー訳で会長、説得とかは俺が全部やったんで、文化祭は楽しみましょう!」
「あぁ。君には感謝してるよ」
「あざっす! ところで文化祭当日は俺と……」
「一切何もせずに、怠惰なままでいてくれてありがとう。
君が余計なことをしたら、本当に文化祭は行われなかったかもしれない」
「一緒に回ったり……ヘッ?」
今回、透は出しゃばることもなく、「何とかなるだろ」を連発するだけだった。
だが、ぶっちゃけそれが一番ありがたいと言えばありがたい。
門倉からの好感度アップ狙いで余計なことしようもんなら、大変なことになった。
「それと模擬店だが、コスプレ喫茶というのは構わん。ただ、バニーガールは認めんぞ。
衣装は節度を守ったもののみ。胸部の露出は厳禁だ。これは、君の提案だそうだな」
「えっ!? 会長、生徒の自主性を……」
「尊重するとは言ったが、それは何もかもを許容するという意味ではない。
君個人の性的欲望が、学校の秩序よりも優先される理由は無い」
「いやそんな……」
「ちょっと待って、透君、それは本当なの!?」
そういえば、そんなことやってたな。
会長に見せれば即却下だと思ったから、そのまま入力したけど。
「透君、嘘よね?」
「い、いや勿論! 冗談に決まってるって!」
「適当な女子呼んで聞いてみろ。それで真実が分かる」
「そんなの必要ねーよ! な、麻美。俺を信じろって!」
「………………」
珍しく、門倉が困惑している。てっきりいつも通り信じ込むかと思ったが。
心境の変化がここにも波及しているのか?
「いずれにしても、衣装に一定の制限はつけさせてもらう。
分かったら、君の幼馴染を愚弄したことを詫びてから帰れ」
「そんな!? っていうか、俺がいつ怜二を愚弄したんスか?」
「さっき言ったことも忘れたか。
お前さ、せめて古川先輩の時に懲りろよ。もう手柄の横取りは成功しないんだよ。
この期に及んでまだそれ使うか?」
「ハァ? アレはお前が先輩を騙して……」
「もうよい。立ち去れ」
「会長! 俺は……」
「立ち去れと言っている!」
鬼気迫る勢いの怒鳴り、いや、一喝。
流石の透も圧倒され、何も言えずに元来た道を戻っていった。
「見苦しい所を見せてすまない。では、この書類を各クラスに渡しに行くか。
このままか、多少の修正程度なら無審査で許可する旨も伝えておこう」
「記憶違いとかの差異が気になるところですが、大枠一緒なら大丈夫ですかね?」
「私に発言権はないから、余った所の作業要員にでも回してもらえるかしら。
何なら、ずっとシフトに入れっぱなしでもいいし」
ひとまずは何とかなりそうだが、門倉の態度が嫌に不自然で、不気味だ。
まぁ、これまでの嫌味な態度や、この前の暴走と比べたら、こっちの方が断然いいが……
各クラスに書類を渡したら、ボイコットの声はなりを潜めた。
幸いにも書類の内容と、各クラスの当初の予定はほぼ合致していたようだ。
審査の時間が削減できたから、後は細かい所を詰める作業だけで済む。
それでもギリギリであることには違いないが、文化祭は例年通り開けそうだ。
「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなりそうだな」
「立ち回りご苦労さん。ところで、怜二はコスプレどうするつもりよ?」
「悩んだけど、普通にタキシードでも着ることにするわ」
「それなら俺にコーデ任せてくれ。藤やんをNo.1ホストにしてやるよ!」
「喫茶店であってホストクラブじゃないんだからいらんわ」
「でもさ、折角だからたまにはハジけてみねぇか? 俺、そういう怜二見たい」
「お前からそんな言葉が出るとは思わなかったんだが」
「俺も、普通にアリだと思うぞ。俺のルックスだとネタ系しかできないけど、
怜二ぐらいだったら装備次第でバフかかるだろ」
確かに文化祭なら、多少はバカやれるというのはあるが、ネタじゃなくてガチ路線で?
無難に落ち着くものしか考えてなかったんだが……
「藤田君、ちょっといいかしら」
思案していると、門倉が声をかけてきた。
今度は何だ? まさか、今以上に面倒事を持ち込むつもりはないよな?
「いいんちょー? またロクでもないこと考えたかー?」
「もう、文化祭はいつも通りにやるって決まったんだ。我儘も休み休み言え」
「ゲーム系模擬店禁止ってなったら、鉄人が黙っちゃいねーぞ?」
「……本当に、ごめんなさい。でも、安心して。文化祭に関わることじゃないから」
当然といえば当然だが、今の門倉はクラス全員から明確に嫌われている。
信頼回復には長い時間がかかりそうだし、勿論、手助けするつもりはない。
謎の変化を遂げたとはいえ、その原因も分かっていないんだ。
「少しだけ、話したいことがあるの。時間はとらせないわ。
できれば、昼休みにお願いしたいんだけど……」
「んじゃ、昼休みに」
「分かった。会長が部屋を貸してくれるそうだから、生徒会室に来て頂戴」
「了解」
一切の嫌味も言わないまま、門倉は去っていった。
文化祭に関わることじゃないなら、それ以外で何かということか。
ついでにここ最近の変貌について聞いてみるか。