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157.お前来たんだ

文化祭は例年通り、模擬店を中心として開催する。

その合意を取り、話し合いは終了した。

山内先生は最後まで喚いていたが、その声をまともに聞く者は、

門倉を含め、誰一人としていなかった。


(……門倉、どうしたんだろ)


起きたことと、門倉がどういう人間だったかを考える。

門倉は『謝ったら死ぬ病』患者の典型例とさえ言える、謝れない人間だ。

その理由は、自分は決して間違っていないから。

そして、その拠りどころとなるのが成績と、透。

この二つの内、成績に関してはこの前、大きな出来事があった。


(そこまで、ショックだったのか?)


順位は確かに、俺が一つ上につけた。だが、点差は僅かに1点。

もう一回やれって言われても無理だし、誤差の範囲。

でも、それをどうしても認めたくないという振る舞い……ん、待てよ。


(もしかして、そこも透絡み?)


透は門倉から勉強を教わっているようだが、あいつは初めて赤点を取った。

聞いた話じゃ、図形の方程式と数列の漸化式がまるで分からなかったらしく、

他も他で基本問題がやっと解けた程度、とのこと。

自分が信じている透がこんな結果になったことが認められなかったというのが一番で、

俺に対してののアレコレは、その八つ当たり……?


(脇役補正から考えるなら、とばっちりを受けるのは俺、ということで自然だ)


補正(それ)抜きでも、成績を抜かれて、俺に当り散らす理由としては成立しうる。

仮説の上での仮説だが、かみ合ってはいる。


(……でも、分かった所で)


確証はないし、ああなった原因の当事者が何かしたところで、悪化しかしない。

靄は残るが、今は文化祭の準備を進めるべきか。

今から巻き返すとして、なんとかギリギリってとこ?

書類の審査も終わってないっぽいけど、大丈夫かな……




「ハァ!?」


文化祭がなくなるかもしれない、という問題は解決したはずだと思っていた。

だが、依然として危機は去っていなかった。

例年通り模擬店をやる、というところまで決まったはいいものの。


「本当にすまない。……全ては、私が管理義務を怠ったが故だ」

「いや、会長は何にも問題ないですけど……おい、門倉」

「……えぇ、何の疑いもなくやったわ」


今の門倉は、少し前の暴走ぶりが嘘のように静かで、素直。

皮肉めいた嫌味を吐くことも全く無い。……『今』は。

そうなる前の、暴走しっ放しだった時にやっていたらしい。




門倉は、全クラスの模擬店出店要項の書類をシュレッダーにかけていた。




書類は鍵つきのキャビネットに保管していたそうだから、簡単には持ち出せない。

だが、鍵の管理を担当するのは生徒会顧問、つまり山内先生。

自分に責任が及ばないよう、門倉を洗脳し、提出書類の処分を命じたらしい。

あの話し合いの後、全て吐いたからこうして露呈した訳だが。


「コピーとか、バックアップってないんですか?」

「どちらもない。保管は厳重にしていたが、このケースは考えていなかった。

 仮にも顧問ということで、山内先生を信用していたからな……」


他に分かったことは、山内先生が文化祭をなくそうとしていた理由。

曰く「文化祭は女にフラれた、最悪のイベントなんだよ!」とのこと。

一言で言えば、リア充に対する嫉妬。俺が苦しんだんだからお前も苦しめという、

とんでもなく身勝手で馬鹿馬鹿しい理由だった。


「文化祭の日程ズラしたりは?」

「難しいな……体育祭と違って、予備日がない。

 変えられたとしてもポスター貼りを終えているから、どこまで伝わるか……」

(……もう、ほとんど日数ないんだよな)


店舗計画と作成、シフト決めまでできたとしても、審査の時間が無い。

極端におかしなことをする奴はいないと思うが、無審査で通すとなったら、

問題が発生する可能性が高まる。


「何とかもう一回提出してもらって、可能な限り急いで審査するしかないですか」

「そうなるな。役員のリソースを集中させれば、間に合うかもしれない。

 他の遅れは私が何とかするさ。任期満了後も、作業はできる」

「……責任は取ります。私は、皆さんに謝らないといけませんから」


門倉の変化は、あの時限りのものではないらしい。

この期に及んでだだ捏ねるようだったら総スカン確定だし、

謝ってようやくマイナスが多少マシになるだけだ。当然、頑張ってもらう。




(思ったより、ヤバいな……)


今の門倉は物凄く落ち着いている一方で、不安定であることは変わってない。

また裏返って暴走モードに変わるんじゃないか、ということが気がかり。

だから、休み時間に動きを追ってみた。


「今更やれってのか!? ふざけんな!」

「本当にごめんなさい、でも……」

「お前の話は聞きたかねーよ! 帰れ!」


謝罪はしっかりしてる。でも、それを聞き入れてくれるクラスは少ない。

中には未だにボイコットする気でいるクラスもあったし、難航を極めている。

こうなる予想はしていたが、実際に目にするとなると……ヤバいな。


「はぁ……あら」

「ん」


普段の利発そうな顔が、酷くやつれている。

当人にとっては、予想外だったんだろうな、この惨状。


「笑いたければ、笑いなさい」

「笑いたくもないし、笑えねぇ。この状況だからな」

「……そう」


俺に対してなら、嫌味を言える位の余力は残ってるんだな。

いつもと違って、自虐含みの上にキレがないが。


「どうなんだ、進捗」

「……全然ね。顔を出しただけで締め出されたりもしたわ」


文化祭の改悪の件で、一気に顔を知られたからな。

今まで接点が無かった奴からも嫌われるのは当然だ。

事の大きさが大きさだし、謝って許されるようなことじゃない。

あまつさえ、強引な手法で皆の努力を無に帰したんだ。

こいつの言葉は、もう誰にも届かない。


(門倉じゃダメだ)


贖罪をする必要はあるが、軌道修正の役には立ちそうにない。

……んじゃ、仕方ないな。




生徒会室にお邪魔して、書類作成を手伝う。

断片的に拾った情報を組み合わせて、草案を作る。


「君は、タイピングが得意なんだな」

「就職に役立つかな、と思いまして」


今優先するべきは、文化祭の模擬店の希望案の書類の再生。

そして何が問題かと言えば、一度クラスで決めた内容が破棄され、

もう一度まとめる必要があるが、そこにボイコット推進派がいて、

中々まとまりそうにないということだ。


「よし、とりあえずできました。チェックお願いします」

「分かった、確認しよう」


俺の考えた策は、各クラスから当初やるはずだった模擬店の内容を聞き、

そこから推定できる書類を作り、各クラスに戻すという作戦。

まっさらな状態からまとめ直すことは難しくても、ある程度まで戻せば、

かかる労力と時間は大幅に削減できるはずだ。

元々、ボイコット推進派だって進んでボイコットしたかった訳じゃない。

文化祭がつまらなくなりそうだから、やむを得なかっただけ。

意固地になってる奴もいるみたいだが、それなら背中を押してやるだけだ。


「何かとすまないな。本来なら、生徒会と実行委員の仕事なのだが……」

「いえ。俺が好きでやってることですし、こういう作業好きですし」

「……私よりも、藤田君の方が早くできそうですしね」


このパソコンは、生徒会書記である門倉が主に使っているが、

タイピング速度は俺の方が速かったから、代行を務めることにした。

そして、模擬店の内容は会長と俺、雫とサルで集めた。

門倉は例え反省していたとしても、今の印象じゃ火にガソリンをブチ込むようなもんだ。

そのリスクを考慮すると門倉の贖罪より、成果を優先させた方がいい。

会長のカリスマ性と誠心誠意の謝罪は、凝り固まった心を動かす力があるし、

雫は女神様のイメージが幸いし、上級生から話を引き出せた。

サルは巧みな話術で下級生中心に信頼を集め、貢献してくれた。

俺は……門倉のクラスメイトということで、ヘイトを分散させた。

やり方がそれしか浮かばなかったが、話を聞いてくれる奴を増やせたから、成功か。


「麻美君。叱責を人前で行うことはよくないが、彼は君が最も迷惑をかけた人物だ。

 敢えて、この場で言わせて貰う。……君には、失望したよ」

「……はい。この度は、申し訳ございませんでした」

「私に謝ってどうする。君が謝るべきは彼だろう。

 そして、私も複数の落ち度がある上、彼に多数の雑務を任せている。

 だから、言わせてくれ。本当に申し訳ない」

「構いませんって。文化祭なんて青春そのもののイベントじゃないですか。

 その力になれるのなら、こんなに嬉しいことはありませんよ」

「……その文化祭を馬鹿な真似で潰しかけて、ごめんなさい。

 藤田君にも、クラスの皆にも、迷惑をかけたわね」

「ん。後で皆にも謝っとけよ」

「ええ……そうするわ」


さて、脇役の後方支援はこれにて終了。

今後も裏方作業はありそうだが、俺も勉強にバイトとあるんだ。

後は生徒会の皆さんにお任せして……




「おいーっす! 会長、お疲れ様でーす!」




「君は……」

「神楽坂透ッス! そこにいる怜二の幼馴染です!

 いやー、この度はうちの幼馴染が迷惑かけてすいませんっした!」


どこから嗅ぎつけてきたんかね。

そして、俺が何の迷惑をかけたと言うのかね、主人公様?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 作者さんもしかして門倉を救う路線でいこうとしてる…? 幼馴染同様に堕ちてほしいなーという一読者としての希望ですか果たしてどうなるか楽しみですね
[一言] ここで透登場!? すごく驚きました
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