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128.これはお約束ではない

翌朝、雀の鳴き声で目を覚ます。

海の目覚まし時計も、寝る前に設定した携帯のアラームも鳴っていない。

普段の睡眠時間から適当に当たりをつけつつ、枕元に置いていた携帯の時刻を見る。


(6時ジャスト……)


7時に設定したアラームを解除し、普段着に着替えて布団を畳む。

どこに持っていったらいいかは分からんし、誰か起きたら聞くことにしよう。


(少し、朝日を浴びるか)


今日は晴れてる。

着替えて散歩でもするか。あ、玄関開いてるかな……




(えっ!?)


1階に下りて、驚いた。

俺も早起きな方ではあるから、誰かがいるということに驚きはないが、

問題は何をやっているか。


「む、おはよう」

「おはようございます……」


そこにいたのは、パンツ一丁の源治さん。

手に持っているのは白のタオル。乾布摩擦の真っ最中だった。


「早起きだな、君は」

「まぁ、習慣なんで……それは?」

「俺の習慣だ。昔は外でやっていたが、近所から苦情が来てな。

 無理に身体を冷気にさらすこともないかと思い、今はこうしてやっている。

 君もどうだ?」

「……折角ですが、遠慮しておきます」


この時間は屋内でもそれなりに寒いのは勿論として、

男二人がパンツ一丁で乾布摩擦をしているという光景は、中々にキツいものがあると思う。

何かのはずみで雫に見られたら、俺の評価は急降下待ったなしだ。


「そうか。朝食はしばらく後だが、テレビでも見るか?」

「いえ、大丈夫です。あの、お借りした布団はどのようにすれば宜しいでしょうか?」

「それは気にしなくていい。片付けはこちらに任せてくれ」

「恐れ入ります。それと、少し外を歩いてもいいですか?」

「構わんよ。7時過ぎに朝食だから、それまでに戻ればな」

「分かりました」


肌が出てると尚更分かる、軍人かボディービルダーみたいな体格。

乾布摩擦をする必要も無く、熱量高そう。




「ただいま戻りました」

「おかえりー。そしておはよー」


海の挨拶を受けながら、リビングへと入る。

鼻にふわっと来た小麦の香り……トーストか。

適度に動いたから腹も減ってるし、なんとも食欲をそそる。


「怜君おはよう! 今朝はトーストなんだけど、何枚食べる?」


渚さんがトーストを皿に乗せながら、こちらを振り向く。

厚さからして6枚切りだろうか。それも結構上質な感じ。

となると、あまり沢山は頂けないな。


「1枚で」

「えー? 怜君その体なんだからもっと食べるでしょ?

 変な遠慮してない?」

「遠慮だなんて……」


このまま通すつもりだったが、空気の読めない腹の虫の音が鳴る。

それを聞いて、渚さんはニッコリと笑った。


「よし、3枚ね。ベーコンポテトも大盛りにしよう」

「いやいや、そんなに頂けないですって!」

「君は高校生なんだから、食べ盛りだろう。無理にとは言わんが、たっぷりと食え。

 俺は遠慮されるよりも、美味そうに沢山食ってもらう方が嬉しい」

「私も同じく。いっぱい食べる子は好きよ?」

「……すいません、お言葉に甘えます」


源治さんと渚さんに促され、俺は豪華な朝食をガッツリ頂くことになった。

うん、ここまで言われたら仕方ない。人ん家のメシで幸せに浸ろう。

そういえば、雫の姿が見えないんだが……


「雫はどうしました?」

「まだ起きてないわね。そろそろだと思うけど……あ、そうだ。

 怜君、ちょっと起こしに行ってもらえない?」

「分かりました。じゃ、行ってきますね」


朝食が並ぶまでに、何か手伝えることはないかと考えていたから、丁度いい。

雫を起こしに行こう。


「なぁ、怜二。雫を起こす時なんだけど……その、驚かないで欲しい。

 あと、時間かかっても大丈夫だから」

「……? どういうことだ?」

「行けば分かる」


海から不可解な助言。

何かあるのか? 雫、寝付きいいって聞いてるし、

そんなに問題は無さそうなんだけど。




二階に上がり、雫の部屋へ。海の言葉の意味は分からずじまい。

寝相が大変なことになってるとか、そういうことを考えたが、

布団は一切の乱れなく掛けられている。


(可愛い寝顔してるな)


小さく寝息を立てて、安眠。童話の白雪姫を思い出す。

俺は王子様ではないけどな。いいとこ小人の誰かってとこだろ。

もうしばらく見ていたいが、起こさねば。


「雫ー。朝だぞー」


声をかける。……反応なし。


「おーい、起きろー」


ベッドを囲むぬいぐるみを踏まないように気をつけながら、ベッドに乗り、

布団越しに肩を掴んで揺すってみる。……これも反応なし。


(目覚まし時計は……あー、そっか)


ベッドの上部、物が置けそうなスペースに、目覚まし時計があった。……鳴った後だけど。

スヌーズ機能があるみたいだが、設定はOFF。二度寝したか、最初からか。

ここに来て、海の言っていたことが分かった。雫は尋常じゃなく、寝起きが悪い。


(見事なまでに熟睡してるな)


そして、ねこまるのぬいぐるみを抱いてる。

……これ取ってみるか? 後は頬をつねるとかだけど、

起こす為とはいえ、直接身体に触れるというのはまずい。


「もうみんな起きてるぞー」


ぬいぐるみを取ることが目的ではないから、声を出しつつ。

むんずと掴んで、一気に引き抜く。


「んー……」


こっち側に寝返りを打った。けど起きない。

どうすっかな。直接身体に触れる真似はしたくないんだが……


「んー……むにゃ……」

「って、おい!?」


何で俺の腕を掴んでんだよ!

ちょっ、待て、力強い……!


「んー……」

「うおっ!」


バランスを崩して倒れたが、ギリギリ雫に直撃することは避けられた。

で、なおもこいつは起きない。ただ、今はむしろありがたい。


(まさか、俺をねこまる代わりにしてる!?)


俺の頭部をぬいぐるみと同じように抱いているこの状況。

起きたらどうなるか、全く分からない。

……いや、若干は分かる。昨日の風呂場事件の再来だ。


(海の言ってたのは、こういうことか……)


まさか、雫に抱きつき癖があるとは思わなかった。

ここから何とかして脱出しなければならないのだが……

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