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第6話「夜の塾」

 きっと私はどこへもむかえない。

後をついてくる気配もないけれど、しかし、かといってそれが百パーセント信じられるかと言えばそんなわけがない。


 夜の道、さんざんあがいて、転がって、蹴躓いて、それはそれは崖から転がる石のようにかけてきたのだが、しかし、そのせいでやはり迷子は継続中。


 夜は怖い。勘も鈍れば視界も暗い。

ふらふらとさまよう光に導かれて、そこが天国だったという話もあるくらい。

まぁ、比喩だと怖くない、とてもいいお話だったのだが。


 下見のつもりでさんざん今まで回ってきた。本当に下見でしかなかった。

戻し方も得られなければ、そういえば、ゆうかがいっていた「精神的に追い詰められている。」とは、あのきなりのような状態を指すのだろうか。

 さすれば、あーやや、さっき巡り会った敵意むき出しのゆりなは、追い詰められているようには見えなかった。

少しの希望、というかかなえたい夢みたいなものは見受けられたが。


 そう、誰にでも夢はあるはずだ。

そうしなければストレスを感じ鬱になってしまうかもしれない。

しかし。夢をもてばそれはそれで精神にダメージを与える。こんなことで損害を食らっていていいわけがないのだが、しかし、それが人間。

 いつの間にか夢が消えているとすれば、それは、「現実に対して」という言葉がつくのではないだろうか。


 そう、しかし全員に当てはめられる共通点が、今のところわからない。

生きている、ということか、死にかけの人は今のところいなかった。

つまりは残りの図書館、そこにいることになる、それときなりがりるちゃといっていた、あれもいるのだろう。


 日が沈みあたりが少し涼しくなる。

しかし湿気は収まることもなく、そう、夏の夜は蒸し暑い。

日が昇っているときよりは幾分かまし、というだけなのだが。


 空を見上げると、満天の星。

昔の人は空の星を目印に方角を決めていたときいたけれど、だとすれば、方角を知ればいつかたどり着けるのだろうとおもう。

 しかし、そうでなくても山は上から見れば円状。回ればいつかどこかにたどりつき、しかし、それは先ほどの所にもいつかたどり着いてしまうということの表し。


 それを忘れさせるかのようなきれいさ。

いままで星なんてこんなにまじまじと見たことがなかった。

ゆうかといたときでさえ、「きれいな星だね。」という言葉一つで終わってしまったのだ。

 それは無関心のせいか、まぁ、しかし親友と眺めるのもいいのだが、一人で眺める方が物思いにふけることができる、ゆっくりと自分の時間を有効利用できる。


「・・・・・・。」


 長めすぎて首が痛むのに気がつく。


 もう、足を進めよう。私の時間は一日二十四時間ある。

有効に。他の人のおおよそ二倍を使わないと、せっかく与えられたものは大切に、大切に。


 山頂、迷子になって、なおかつ方向を定められるとしたらそこしかないだろう。

はるよが機嫌を直してくれさえいれば、それも無理な話かもしれないが。

再び顔を合わせただけで蹴り飛ばされて木っ端みじんでは無駄な骨折りどころか、無駄な死とあざ笑われてしまうかもしれないが。


 まず、向かいたいのは図書館。

そこに必ず死にかけの人がいる。

それを助けることが最優先。パンを二つほど持っていった方がいいのだろうか。

 そうすればあのきなりのくれたパンをありがたく受け取っておくべきだった。


 図書館はたしか私がたどった塾へ行く道のしばらく先。

塾は山頂にあるのだが、その山頂を通り過ぎて、そのさらに降りていったところにある。

 普段は使わない、先生が本を塾内におけなくなって作った、小さな書物庫みたいなものだ。

まぁ自由に出入り読みOK、ただし持ち帰り不可だったから、本の虫も多かったのではないだろうか。


 そんなことを考えながらぼちぼちと山頂へ向かう。

塾へ行く以外のこの山の道を通らなかったから、まぁ、そのころは安全第一に、勉強する時間やら駄弁る時間やらがいとおしすぎて、探検をすることなんてなかったから。



 星明かりのもと、たどり着く。

蝉の鳴き声も、草木や岩石のはばかりもあったが、そんなところで屈するわたしではない。


 いつもと変わらぬ塾、ただし明かりは消え、どこか肝試しに入りそうな建物のような雰囲気を漂わせる。

つた、先生の謎の趣味であるそれがそうだ。


 ちさともはるよも眠るように横になり、やはり人間は本来ならば眠らなければならないのだろう。

その無防備なすがたは、まだ幼い中学生だということを意識させる。


 そう、私も本来ならば眠るべきなのだろうけれど、なぜか眠くなれない。

第二の趣味を奪われた瞬間か。

夜を眺める時間が増えてうれしいことはうれしいのだが。


 中に入ると、しん、と静まりかえって、ただちさとの寝息がすーすーとかすかに耳に入るだけで。

私の足音が申し訳ないようになり、少しだけ謝罪の気持ちを浮かべたり。


 先生はどこかへ行ってしまったのか、ここにはいない。

地下、あそこにいる可能性は非常に高い。悪魔でもここは先生の家。そこが寝床だとよく聞いたことも事実。


 ちさとの横を静かに通り抜ける。

音のない部屋を静かに、ギィ、ギィ、とかすかにもきしむ音がしないように、慎重に一歩ずつを踏み出す。


 こんな静かな教室は、ここで、昼あんなに騒がしいとは思えない。

騒がしい、いや、先生の声が騒がしいというのであれば、それは間違いではないかもしれない。

聞き慣れない言葉をずっと発しられていることを騒がしくないなんて思わないから。


 何度も書いて消して書いて消してと跡のついた黒板。

白く粉が舞っているような気がして。かつての教室の雰囲気。

 騒がしいのに、先生とわやわやと教えられたことを使って議論してああだこうだ言い合って。

覚えられる量が少ないなんて気にせずに、受験のことなんか終わりもしないのに頭から消えていて。

あのときは本当に楽しかったのだ。時間は一番価値のあるものとはこういうことなんだなぁと思う。


 かつての話。もう戻ることはない。

仲間はそこらの土になってしまった。残った少数も戻る意思があるのはごく少数。



 地下への階段を見つける。

階段、というか先生がいつも行く奥の部屋にドアがあって、そこを開けたら階段だっただけだ。


 始めてはいるかもしれない。

先生は生徒がここに入るのを禁止していて、決してはいることはなかった。

破ることもなければ、まぁ、破ろうと思う悪い子はどこにもいなかった。

 私生活をのぞき見るのはよくないし、何より、入れるときがない。

先生はお買い物の時以外、この塾外に行かなかったから。


 ひたひたと、裸足でもない靴の音、しかし、どこか水を切るような音がして。

暗い、何も見えない地下、涼しく、今にはもってこいだろうか。


 ひやりと、階段を踏み外しそうになって汗をかく。

足下すら見えなければ、その先は足下よりも黒。

何かを見ようとすれば、それは意味のないことだと捨てられるだけ。


見えない、というのはこうもつらいものなのかと実感して、そしてどうしようもないことに文句を漏らす。

コウモリが、クモが、どこかに潜んでいても、つぶしてしまっても、この暗さでわかる事なんてないのだろう。


 トンネル、そう、連想させるのはトンネル。ホラーとか、肝試しとかに使うようなトンネル。

ただし懐中電灯はないのだけれども。少ない光を集めようとしても、そもそも見つからないのだけれども。

 怖さ半減か、倍増か。想像力が高ければ、この世にあらざるものを想像しておびえているところか。



 急に階段がなくなって、がくっと体が崩れる感覚に陥る。

その先はおそらく平ら。こけて角のなければ、それ以外はあり得ないという推測。

 これほど大きな階段があると言われたら。長い階段の休憩時点だと言われたら。

まぁその議論は脳内で繰り広げられるほど、たいした問題ではない。


 すぅすぅと、呼吸、りさこ先生の寝息。

ドアもなければ壁もない。

床はコンクリートで冷たいし、先生がここでばったりと隣で眠っていても、全然驚かない。


 ぽつりと、一つ明かりが見えた気がして、元へと駆けつける。

角で遮られていた光、転んで初めて見えた光。

 赤く点滅するその光の下へたどり着くと、電気はまだ通っているのか、蛍光ランプの電源が見える。


 壁にひっつくそれを指で軽く押す。

ひんやりと、冷たい感触、暗がりに目が慣れれば見えると思ったのだが、見えることはなさそうで、その光は必然的に貴重なものとかす。


 しかし、それはただの光に過ぎなくて、蛍光ランプがつくことはなかった。

明かりがつかなければ、光が消えることもない。

指でふさげば、それが私の目に届かなくなるだけ。


ただ、感覚で上にスイッチがあることを覚える。

気配、というか、何か物質があるなと言う、空気の重みが少し遮られたかな、というかんじ。

私の体がどういうふうに感じ取っているかなんてわからないけれど。


 ポチッと、軽い気持ちで押す。

何も考えずに、ためらわずにスイッチを押す。

そうすると、どかんっと、頭の中で爆音が鳴り響き、がらがらと天井が崩れだして、私は呆然と何もできずに立ちすくむ。


 そんなことはなく、ちかちかと幾度か点滅した後、白い光がこの部屋を、階段を照らし出す。


 急な明るさに目を細め、まるでマグネシウムの燃焼を目の前に持ってこられた気分のなか、しかし、しばらくたつとそれすらなれてくる。

ちりちりと、今にも切れそうな電気を前に覚える感覚は不安、なのだけれど。


 広い空間、階段から直にあるこの部屋は、地下牢みたいな雰囲気の四角い部屋で、柵はないけれど、飾り立てられてもいなかった。

 あるのは机、資料、ベッド、その上の寝返りを打つも起きそうもない先生、本棚、なんかわからん瓶やら蓋つきの皿やら散乱した床だ。


 まるで研究室、塾の地下にあるというよりは、理科室だとか、実験室だとか、そういう所の話のような。

資料も通して、何を書いてあるのかわからず、いや、きちんと日本語で書かれているそれは、しかし、何をさして何を言っているのかわからない。

 十中八九ウィルス、そうでなければ塾の問題、もしくはもっと他にもあるのかもしれない。


 資料をあさる。先生はまだまだ起きる気配もなく、爆睡中。

爆睡、よくこれだけ明るいところで眠れるものだ。よほど疲れていたことがうかがえるだろうか。

まぁ、起きるとどうなるかと言われても、ここから立ち退く予定は今のところない。

 そう、先生は危害を加える事をしない。生徒に暴力を加えない精神か、何だか知らないけれど。

しかし、今日の昼頃に話したあたりでは、の話だが。


 難しい漢字や、聞き慣れないカタカナ文字、さらには所々英語まで入っている。

もう読むのは限界だろうと悟る。何一つ私にこの資料を解読することはできない。

決して多くはない、単純なものであるというのに。


 ふと、資料の隣の写真に目をやる。

古ぼけ、黄ばんだ写真立て、そのなかに、いまだ色あせないきれいな写真が一枚。

 たまたま目に入っただけ、しかし、その写真は私の視線を奪うことくらいたやすい。


 塾のみんなの集合写真。

せっかくだから撮ろうと誰かが言い出して。もう三年前になるのか。

私の先輩のうちの誰かだったか、もう卒業していないのだけれど。


 埃のかぶった写真に、ふっと息を吹きかける。

塵が舞い、辺り一面が煙くなったところで、咳き込んだ後再び目を向ける。


 こんな記念に埃をかぶせるなんて少しいやだったから。

きれいに取れた埃も、しかし、白く、まだ白くべたついた埃や、細かい塵は吹き飛ぶことはなかった。



 仕方なく拾い上げる。

べたつくのはいやだったけれども、この際仕方がない。

蛍光灯は相変わらずちかちかしているし、起きる気配もないし。

何をするにも許されてしまうのではないだろうか。


 写真たてを開き、中の写真を取り出す。

守られて、埃もかぶることなく大切に扱われたそれは、折り目一つないきれいなまま。

大切に、大切に。


 しかし、写真は複数重なっていて、集合写真、授業の様子を周りの誰かが撮ったもの、そして、ゆうかと私と先生の写真。

 そして、はらりと、その写真と写真の間から、ポストカードのようなもの、一瞬写真と思ったのだが、どうやら違うようだ。


 そこには、鉛筆のようなもので、あの先生の黒板に書いていた文字が殴り書きされていた。

力任せに書いたような、幼い子が鉛筆を握ったときのような。

 でも、なんとなく優しい。先生が書いたことを想像すると、必死に私たち生徒を思って潜ませたように思えてくる。



 そっと写真を元の位置に戻す。なぜか慎重に、さんざん音やら明かりやら漏らしてきた末なのに。

しかし写真立てがきれいになったこと以外は、元の状態に戻ったのではないかと言うくらい正確に。

決して気づかれることはないのだろうけれど。


 そして私はゆっくりと利沙子先生の元へ顔を寄せる。

膝を折って、ベッドの前にかがみ込む。

眠っているときは本性、心がこの世でないどこかへ飛んで行ってしまっているから。

心も本性のうちだというならば、むしろ心が本性だと言えばそれはただの肉体の生理現象だというのだろうが。


 うん、いつものままだ。

授業を受けていた、あのときのままだ。


 そっと、額に並ぶ前髪をなでる。

さらさらと、さらさらと、少しべたついてはいるのだが。

しかし、それで手をのけるのなら、先生への愛は虚無だろう。


 優しく、優しく。

少し先生の口から声が漏れて、驚き手を止める。

 そう、私は何をやっていたのだろう。

起こしてしまっては意味がない、ましてや立ち入り禁止区域に踏み込んだ足をみせ、そのドアを開いた手でなでられているなど、いいはずがない。


 私はゆっくりと立ち上がると、階段の方へ急ぎ足で戻る。

気持ち早めに、しかし音を立てることなく。

そして一気に駆け上がる。一個飛ばし、よく学校でして、学校の担任に怒られたものだ。

 しかし、今は誰もとがめない。

今は自由で、だがしかし、閉じ込められているのだ。



 夜、駆け上がれば、そこには動く影が一つ。

 先生は起きることなく、電気を消す音にすら気づかなかった。

なおかつ、その影が先生というのならば、私に残像を見せるか、影分身をするか、テレポートをするか、しかし、ウィルスを作り出すのであれば、それは可能なのかもしれない。


 しかし、あれは先生ではない。ちさとだ。

眠っていたはずの千里が、夢から覚めて窓の外を放心状態で眺めている。

ただただ、じっと、月明かりに照らされて。


「眠れないの?」

「・・・そうですね。星空はきれいです。」

「木々に埋もれて所々見えないけどね。」

「それも、きれいです。」


 ちさとはにっこりとほほえむと、小さくため息をつく。

ウィルスにおかされた今、しかし感性を失うことはなくて。

きれいだとか、かわいいだとか、美しいだとか、感動的に厳かで、きらびやかな、それは神様のような。

 そう、私が今のちさとに対して抱いた感情も、おそらくきれい、という、ウィルスに屈しないものなのだろう。


「よるに照らされてると、なんでもきれいに見える。」

「・・・そうですか?そうですね。・・・しかし、きれいでも何もないんです。」

「・・・?」

「青い光できれいに見えても、しかし、私の望みを叶えてくれるわけでもないし、感動するだけで、何もないんです。」

「落ち着くよ。行動がしやすくなる。」

「違うんです。行動したって、私がどうこうできる範囲じゃないんです。」


 ちさとは、本当に何もできないかのように机の上に沈む。


 少しかみ合わなくなり、口をつぐんだら、それはそれで会話が途切れてしまって。

何かを切り出そうと必死に言葉を探して。


 ふとつぶやいた言葉、みんなが一緒なら、という言葉。

ちさとがためて耐えた思いのかけら、抱えきれなくなってこぼしてしまって。


 もしかしたら、ちさとはもう一度みんなと一緒に授業をできることをのぞんで、それ以外のことを頭から消してしまって、少しかみ合わなかっただけかもしれない。


 みんなと授業、それはみんながいないとできなくて、誰かがどうやったって絶対にできない、いわば無理ゲー。

かなうこともなく、おそらく私もこの無理ゲーをクリアできなければ、そのまま死んでいくのだろう。


「あ、これなんてかいてある?」


 ふと思い出して、ポストカードを、殴り書きされた文字を目の前に差し出す。

こっそりと、しまう前に抜き出してきたカード、先生には悪いけれど、しかし、気づくこともない。


 ちさとは目の前に出されたカードをのぞき込む。

じっと、それは授業に集中するときのちさとのように、何もいわずに、ただただ。

 頭の中で照らし合わせる文字と、すると、授業のあの文字、なおかつ、さらに推測できることは、あそこに仕込んだのは言語障害の後。


 そして、解読し終わったのか、ちさとはふふっと、しあわせそうに笑う。

しあわせそうに、楽しそうに、私の知らない文字で喜ばせられる。


 他人から見れば、私に言わせればそれは不可解きわまりない現象、しかし、先生の愛は伝わる。

やはり、先生はわざと生徒を苦しめようとしたわけじゃないのかもしれない。

解読が正しい、それなしではいえないことだけれど。


「なんて書いてあったの?」

「ひゃっ!?・・・あ。」


 ちさとはまるで急に話しかけられたみたいに飛び跳ねる。

まるでポストカードだけが相手だったみたいに、それが私の手から出されたことを忘れているみたいに。


 寛大な心である私には、傷をつけない行動だけれど。

集中力はたびたび、人類の中でランクをつけるなら、結構上の方。


 しかしちさとは、にこりと笑っては、ほほえむみたいにしあわせそうに目を細めては、「ひみつです」と口元に一本指を当てるだけ。

内容を教えないとでも言うように。しかし、しあわせそうに。


 きっとこれは、どうしようもなくうれしいことで、他人に言えば逃げてしまうとでも思っているのかもしれない。

朗報を言いふらすと、だんだんうれしさがなくなっていって、それがちさとはいやなのかもしれない。

 悪魔で、ひそかに。他人に分け与える喜びを、独り占めするかのように。

事実はすぐそこにあって、消えることはしないけれども。



 ポストカードは預けたまま、私は外に出る。

夜星が、この余のものではないくらい輝いていて、神秘的な光景に見とれて。

何を思ったか手を目の前でかざして見るも、目に届く光が遮られるだけ。


 ちさとは再びポストカードに目を落とし、にまにまと笑い、はるよはぐったりと眠っている。

先生もあの状態のまま、まさか階段を上がってくるなんて事はないだろう。


 図書館に向かおう。

とんだ無駄足を踏んでしまった。

結局資料もわからなければ、見つけたのは解読すら伝えてもらえない文字。

 まぁ、強いて言えば先生の害が減ったくらいか。


 足を塾の裏道へと向ける。

近道、というか、虫や蛇がよく出て、誰もがこの道を好かなかったのだが。

怖いもの見たさでとおる人が多数。肝試しにもよさげだろう。

 木々の影で月明かりもちょうど遮られては、一寸先に潜れば視界も失われてしまう。

なぜ今通るかというと、興味、気分。それだけでしかない。


 独特の臭いに鼻を詰まらせては、一歩、一歩と踏み外さないように進む。

どこかぬかるんでいて、あまりよくない所、そう、スリルを求めなければつまらないという気分でなければ、こんな所通るわけがない。


 二人、誰が生き残っているかはわからない。

思い当たる節などありもしなければ、知っている人だとも思わない。

 友達はゆうかだけだったし、ゆうか、だけ、ちさともか。

数限られていて、そういえばどこか友人関係には恵まれていなかったのかもしれない。

今に自業自得が当てはまりそうだが。



 闇が晴れ、明かりが目をくらませるほどになった頃、薄く暗い図書館が目の前に現れる。

図書館、書物庫といった方が正しいくらい、何の設備も整えられていなければ、中にあるのは、本と棚、そして踏み台くらいだろうか。

 本当に粗末な小屋、というイメージ。木製なのは変わりなく、しかし、風通しは窓際に本棚がない分よかった。


 ウィルスの侵入でもなお図書館にいる、つまり、本の虫の誰かの可能性が高いのだろうか。

ただそこにあった建物に住み着いただけかもしれないけれど、私の推理は正しいと思う。

 しかし、誰が本棚にいて、誰が外に遊びに行って、誰が誰としゃべっていたかなんて知らない事実が、あざ笑うかのように私を見下してくる気がして、というか、その事実を変えられない事実が、過去を変えられない事が私にとってはとても不利でしかない。

嘆くより行動した方が数倍の価値を認められるが。


 ふと、視界に何かが飛び込む。

ちらちらと、中で動く不思議な光る影、図書館の中だろうか。

曇った窓が邪魔をして、しかし、幻覚と収めてしまってはいけないような動き。

 確実に、誰かが、もしくは動く生物が存在する。

窓を閉じて風が吹き込むこともなければ、ましてや本が勝手に動くはずもない。


 中に入る決意をする。

もともとその気、人がいるならば好都合。


 人数を数えれば、11人のうちの一人は私、山頂のはるよ、ちさと、りさこ先生で合計4人、きなり、あーや、りゅうすけで7、りるちゃもいれたら8人、ゆりなとみゆきで合計10人で、残りは一人。

 りるちゃの可能性もあれば、むしろ、残りの一人の方が可能性は高いだろう。

他の可能性は断じて低い。塾内は先ほど確認済み、あの三人がここまで移動することも考えなければ、ゆりな達がここまで負ってくる可能性も、しかも図書館の中で光を動かす必要なんてないはず。


 とりあえず、中に入ればわかる話。

いずれ入るのにここでこんな適当な考察をしていても意味がない。


 蝉の鳴き声に賑やかな夜に、みんな眠る静かな夜に。

 少し感傷的な気分に浸りつつ、しかし何一つ変化しないことに、その場の足踏みに呆れつつ、しかし、一歩一歩と近づけている気がして、このまま行けば何もとがめられないような気がして。


 そして、その体を持って図書館のドア淵をくぐり抜けるのだった。

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