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第1話「現状確認は必須」

 一年前、山中塾の周辺にて、当塾の教師により謎のウイルスがばらまかれた。


 教師の名は山中莉莎子(35)。勤務中にて空気中に拡散、当時受験を控えていた中学3年生の生徒多数に感染。なお、彼女自身も感染した模様。


 ウイルスの詳細は不明。


 ウイルスに感染した者は八割方死亡、もしくは、正気を失い、感情的、攻撃的な性格となり、また、個々の形態に変化が見られる。


 ウイルスは感染力が強いとされ、感染者を隔離するという対策がとられているが、感染経路は不明。



 世間はこのようにとらえているのだろう。


 まぁ、これも勘。しかし勘はよく当たる。


 ニュース風にまとめてみたものだが、世間でこう少しずつ隠されていてもおかしくはない。

大事な部分、まぁ、表示されているのではないだろうか。


 個人的な、主観的な意見でしかないのだけれども。



 ウイルスにより形態が変化した。


 ウイルスの進入により抗体が体を変化させた。


 最適な、生き残れるような、しかし、それも個人差というか、なんというか。


 遺伝で抗体を持っている人と持っていない人がいて。

ある、ないの差で生死が決まってしまって。


 運命が、神様がさだめた、どうしようもなく平等で無秩序で不公平なものだが、やはりそれはどうしようもない。


 でも、本当にそれだけで、変化しただけで生き残った人はいるのかと言えばそうではない。


 どこの誰だかしらないのだが、賞味期限の切れた廃棄予定のパンを毎回運んでくれるのだ。

それも大量に。もちろん雨も降るし、小川も流れている。

そう、それを糧に生きている人もやはりいる。


 まぁ私はそうでもない。私の抗体により、外部からの栄養は遮断される。


 やはり、そういうのは個人差でしかない。形質が変化したのも、人によって変わっている。


 そして、もう一つ、山が丸々一個超えられない高い壁に覆われている。


 壁と言っても、鉄格子のような、そんなものなのだが。

いつ、何時どのようにして作ったかなんて知らない。


 そういえば、もともと山に立ち入らないように柵があったような気もするのだが。

道はちゃんと舗装されて、それ以外の場所に入れないようになっていたのだが。


 まぁ、閉じ込められていることには変わりない。


 しかし、それも突破できそうなものなのに、できない。

というか、なぜかみんなしない。


 鉄格子は高いから仕方がないというのもあるのかもしれない。


 でも、ぐにゃぐにゃと変形させてしまえるような力を持った子ならいたような気がするのに。


 まぁ、そのせいでこういう風に隔離される羽目、というかその子が土地の関連で来た人をぺしゃんこにしてしまったから一方的なイメージを植え付けられたのだが。


 本当に手に負えない。私たちには、どうしようも。

ため息を再びつきたいくらい、あきらめて目の前が真っ暗になってもいいくらい。


 しかし、約束を、義務を負った。抱えさせられた。


 大変な爆弾を、周りを巻き込む、みんなをあのころの楽しい日々に戻せるかどうかを。

みんなを生かすか殺すかの瀬戸際を。



「そんなに追い詰めなくていいんだよ。義務っていったけど、そうでもないんだよ。」

 声が、聞こえて。とても優しい声。甘えたくなるような。その通りに、頭を、脳を差し出してしまいたくなるような。

どこかなつかしくて、もう、そうなのかな、と、体を預けるように傾けたり。


 そしてこれがゆうかの声だと気づいて、はっと振り返る。


 もたれかかっている、というか、横に寄り添っているだけなのだけれども、動かなくなってしまった肉体に頭をさずけているのだけれど、声はどうも違う方向。


 幻聴、死んだはずの人からのメッセージかと思う。


 ただの妄想の範囲ならばまだいいのだが。

無意識、想像をしているわけではないはずなのだが、声が聞こえる。


 私も、ひどく落ち込んだものだなと自己嫌悪やらなんやらに包まれるのだが、

助けられないものは仕方がない。そう、消えてしまった者は仕方がない。



「ひどいなー。ここだよ。こ・こ!」


 再び声が聞こえる。


 頭の中に響く声。

元気な、あの頃を連想させる。


 しかし、そんなまったりしている暇などない。

こんなおかしな声が聞こえるなど前代未聞だ。


 慌ててゆうかをみるも、ゆうかは静かに眠っていて、私が動くとくずれてしまいそうなもろさで。

口も、のども、何も動かなくて。


 やはり、おかしい。悲しさ故、というのなら。もう正気なのだと、自分では思っているのだけれども。


 声は後方から聞こえるはずなのに隣にいるゆうかを見るというのも不思議な話なのだが、よくある、声の発生源と思った場所でなく、別の場所から出されていたということ。


 それではないようで。後方だと思っていたのは隣だったというわけではなくて。



「ここだってば!」


 ばっと、長く薄い髪が見えたかと思うと、ゆうかと目が合う。

ゆうかの、死に際に見た光のない目。


目が合った。目が合った。恐怖、言い表すより、驚きだ。


ひらりと揺れたかと思うと、くるりと、目がおかしくなったみたいに、視界にノイズがかかって、自分が、魂だけが違う世界に飛ばされたみたいに。

逆さづりにされたみたいに、鉄棒にぶらさがったみたいに。


ゆうかが私をのぞき込むようにしてみている。


おかしい、なんてことが私に考えられたかであろうか。


いないものがいる、そんなものは非合理的で非常識であらゆることわりを消し去って初めて出現するような、そんな、ことが。でも、脳は完全に麻痺していて、鵜呑みにする以外、何もできない。


もしかしたら、いなくなったのは夢なのかもしれない。

目が覚めて「あっ、おきたー?」みたいな例のあれなのかもしれない。


しかしいつもと違うのは、逆さ。


逆。私が逆立ちしているわけではないのだけど、重力の感覚でいえば、狂いはないのだけども。


いや、もうすでに狂っていると言われると、なにもいえないのだけれども。

狂っているから逆さに見えて、死んだ人間も見えてるんだよ、と言われても、なにもいえないのどけれども。



「何で逆さで浮いてるかって?幽霊になったからね。重力受けないんだよ。すごいよね?すごいでしょ?」


 陽気にくるりと回ってみせる。


 ゆうかは楽しげに、自慢げに口角をあげる。


 死んだから重力を受けない。

死んだから、この世にいないから、魂の存在でしかないから。


 そんなものなのか。いや、そうではない。そんなはずがない。

重力を受けないのなら、髪が逆さになるはずがない。


 どうしてもおかしい。そもそも幽霊なんて存在するはずがない、そんざいするはずがない。

そうなのだ、存在なんて、幽霊なんて、い、いないのだない・・・。


そう、やはり、これは幻影でしかないのであろうか。

幻影、幻影。


 それでもいてほしいという自分がいて、少し悲しいのだが。

悲しいというか、切ないというか。会えたうれしさも混じることはあるのだが。



「想像というのは強くて、姿はそのままでいられるんだよ。ほら、夢とか、そんなものでしょう?」


 つかつかとつついてくるその言葉。


 心を透かされているみたいで。筒抜けのような、まぁ、いつものというか。


 利己主義、ご都合主義というか、理、髪は逆さでもスカートは逆さにならない者なのだろうか。

世界が逆さ、自分を想像したときに、他人に見られることを考えたときに、どうしてもスカートやらなんやらは逆さにならないのだけれども。


 夢でも翻していることなどはなかったのだけれども。



 ゆうかは、楽しげにくるくると飛び回った後、ふと思い出したように、一回転して私の元へと戻ってくる。


 相変わらず瞳孔のないようなぼんやりした目。でも、雰囲気だけ読み取ると、とても軽くて、すごく楽しそうな、これなら死にたいとおもえてしまうような。


 にっこりとして、自慢話というか、他愛のない、明るい話のような。

もう二度と動かさないと思っていた口が、再び動いて、失望の色が無色透明に打ち負けたような。


 無色透明、にじんで消えて見えなくなって、でも実は端っこに追いやられただけなのかもしれない。

ふとあのときを思い出せば、少しだけ色が透けて見えて、無色透明から透けて見えて。



「そういえば情報。死んだときに神様から聞いた。あ、幽霊になった経由も後で話すね。

後で話すと言って話さないこともよくあるのだけれど。まぁそれはいいや。


 神様は優しくて、聞いたらなんでも答えてくれるよ。死んだ世界はみんな優しくて、

だれも悪はないんだ。悪はどこかに処罰されてしまうからね。・・・あ、全部は聞いてないよ。


 悪魔でも天使でもこれは絶対必要かなっと思ったのだけ。私なりの楽しみができたからね。

楽しみと言ってもみんなを元に戻すというのがなんか楽しく思えてきただけなのだけれどもね。


 まぁ。なんやかんや全部訊いてしまったっていうと、全部はき出せと攻められるからそのことは絶対に

秘密なんだけどね。こういう風に表示しとけば突き詰められることもないでしょう?


 そうそう。そういうふうに。何も深入りできなくなるでしょ。

知らないのだから。知っているということを知らないのだから。


 無知の知、というやつだね。・・・違うや。

知の無知?いや、違うね。なんか自己完結してるね。

まぁ、そんなことはどうでもいいのだけれども。


 再びそのきれいな黒髪に巡り会えただけでも借りを作ったと思っているけど、まさか全てが全て。教えてもらえるんだね。嘘はないと本能が言ってるし。


 教えてもらえたからにはね。話したいんだけれどね。

他の人も少し気になるって人がいて、ちょっとだけ遊戯になってしまったから、ヒントしかいえないの。


 幽霊、というか死後ってすごいんだよ。欲がなくなった、てみんな言うのに、欲だらけなの。死の危機も、食事も睡眠も、なにもないのだけれど、それに関する本能的な欲はなくなったのだけれども、違うの。


 あぁしたかった。こうしたかったという理想が飛び交ってか、無知な過去を上書きしてしまいたいのか、何かを悟ることにもう飽きてしまったのか。まぁ、人それぞれ、というのはそのままなんだね。


 でも、なぜか悪じゃないの。全てが想像の世界だから。

デメリットを全部メリットに変換してしまったような。想像で自己完結できるような。


 悪いことをしようとすると、ナイトメアに夢を見せられて洗脳されてしまうの。

というか、洗脳、といえば私もされてるのかもね。

でもそれに気づくと抗いたくなって、また洗脳されてしまうけどね。


 そう、でも悪いことじゃないの。悪いことをした気分にならせて、今度はいいことをしようって思って何かを始めるの。

別にお金なんて概念ないし、好きな物もぽんぽん作り出せてしまうしね。


 でも、密かに野望を抱えて世界を滅ぼすって根から思っている人がいたなぁ。あっはは。

そんなことできるわけがないのに。


 うん。それと。こっちで暮らすことを決めた私はつくづく馬鹿らしい。

そんなことないのになぁ。みんな哀れむんだ。


 でも神様は『よくある、よくある。』って許してくれたのだけれどね。


 そして、やっぱり幽霊の魅力は知識だよね!


 コップいっぱいしか人間の時できなかったのに幽霊になると、なんでも、井戸みたいに筒抜けの所に水を落としてるみたいなの。


 神様も賢い人、こっちでなくてあっちの賢い人がしているみたい。


 でも、それもそうなのかもね。この世界を作った理が人の方が支配しやすいのかもね。

しやすい、しにくいなんて本当は関係ないんだろうけどね。


 万能だから。なんでもできちゃうの。人間の脳で理解できないこともね。


 なんやかんや死後の話ばっかりしているね。話は、人間の要領じゃ、完璧に覚えられないよね。


 うん。だいぶ長話。向こうで時間という概念がつぶされてきたことはある。


 本題に入る前に、こうやって駄弁るの。気分の話とかしていると、なんとなく楽しくなって。

もちろん、人と巡り会うたんびにお話しているひともいるんだって。


 恥じらいがなくなって。他人だという区別が友達と何ら変わりなくて。

名前なんてなくても、なぜか知っているから。


 まぁ、それはそれとして、本題だね。本命の話をさっさとしないと、そういえば人間は短命だったね。」



 長ったらしい前置きの後、重要なことを教えてくれる。


 こちらは私に配慮したのか、箇条書き、大切なことがいくつあるかをはじめに教えてもらって、

それを覚えたら実行するだけ。


 覚えなくても、雰囲気で、感覚で、ふわふわと。

完全じゃなくても、さっきいってたとおりの幽霊なら、きっと許してくれるはず。


 幽霊の方が楽なら、死んでしまったらいいじゃないかと思うのだろうけど、私は時間に縛られたいと、思ったり、思わなかったり。

競争したり、他人を見上げたり見下げたり。スリルがなくなってしまっても、面白みがない。

食事だって、おなかを満たすだけのためにあるとは思わないし。


 まぁ、それも想像で補えてしまえるのだろう。

なんとも悲しく惨めな世界だ。


 しかし、そうも思ってないのかもしれないのだけれども。


 そして、その神様から仕入れたという情報、ゆうかから間接的に聞いた一部の情報、少しまとめてみるならば、こんな感じだろうか。


 ・山中で生きているのは私含め11人。


 ・分布は山頂の塾内に3人、川の流域に3人、2人の計5人、図書館に2人、私。


 ・いつ死んでもおかしくないような人もいる。


 ・できれば多くの人を助けてほしい。できれば11人全員。


 それほど、前の長話に比べたら息を吸う程度の、瞬きをする程度の短い話だったけれども、

何かが違う。知りたかったのはこれじゃないような。


 人数構成はまぁ、全員助けようとしたら、必要になってくるのだろうが・・・。



「悪魔でヒントだからね。ヒ・ン・ト。

生活場所とか、雰囲気とか、お得意の勘でもいいや。それをせいぜい駆使してね。


 ん?戻し方?それって答えじゃん。


 みんな元に戻れば、それこそ電話して呼び出して安全なことを知らせて確保して、


 元に戻す治療薬も個人で完成させた人がいるしね。まぁ、もっとも精神不安定状態で投入して精神崩壊とかしゃれにならないんだけどね。


 おっと、これは秘密事項。まぁ、みんなが元に戻ったらね。元に戻った時の話。」


 楽しそうで何よりです、といいたくなるような冗談じみた声。

誰かを茶化すときのような、軽い。

決してこれは必須でなくて、プラスアルファでしかないことを植え付けるような。


 生前と死後。変わることもあるのだろう。

義務、という言葉を持ち出したくらい大切なことを、遊び、玩具、そういうような言葉で片付けてしまえるようになってしまった。


 いいのか、悪いのか。



「まぁ、ヒントはしばらくしたら、言うかもね。


 もしかしたら会話していたらちらっとこぼすかもしれない。


 私は、ここにいるから。消えたりしないから。

すべてしったから、もう知るために飛び回ったりしない。


 けれども、いつでも見ているからね。困ったら来るんだよ。


 来なくてもこちらから行くけどね。迷惑がらないで受け入れる体制を作っておいてね。

あと、いつでも見てるは変態の言葉じゃないからね。いいね。」


 注意するように人差し指を立ててみせる。


 嵐のように言いたいことを言い去って、言いたくなったら戻ってくる。


 なんとも不思議な、そう、言ってしまえば迷惑。

迷惑がらないでと頼まれても迷惑なのは仕方がない。


 しかし、情報源はゆうかだ。


 ゆうかは何もかもをしっている。

何もかもをゆうかがくれるわけじゃないけれど。


 そう、ゆうかに頼らないとするならば、自分でなんとかしなければならない。

ゆうかにもう頼るわけにはいかないとおもうのならば。


 そのなんとかをゆうかは激しく推奨してきて、ヒントもくれた。

できれば私も期待に応えたい気持ちはある。


 利害の一致。もう道はひとつに決まったのだろうけれども。

なんとなくうざったらしく思えてきて仕方がない。


 意に反したい気持ちがぐらりぐらりと淵を攻めてくるみたいで。

まぁ、そうするとすればそうすればいいのだけれども。



 そう、私は今まで周りの様子は一切気にせずに生きてきた。


 知る必要もなかった。その分、一年間、何もせずに、何もないことを駄弁っていただけの日々を、

つまらなく、暇に思いながら過ごしてきたのだけれども。


 しかし、もうそうはいかない。

周りを注意深く監視しなければならない。


 少し、これからを考えよう。


 選択肢、ゆうかと話をするか、調べに行くか、何もしないか。

おそらくこの三つ。


 何もしない、という選択肢は、あの木の下で、ゆうかが死んだあのときに、とうに削除されている。

一番楽で今までとあまり変わらない道、それはゆうかと話して、こぼれをただ拾い集めること。


 けれども、私は。

それでも。


 たとえ、一人たりとも救えなくとも。


 11人全員、はさすがに難しすぎる。


 しかし、何もかもを犠牲にする形だけはとらない。とれば今と何もかわらない。しかし。


少しの願望、ゆうかの死への慈悲、哀れみ、約束だけを糧にするとするならば、しかし、そうではない。そうであってはならない。


 そうするとすれば。



 よし。決めた。


 方針をきちんと、ぶれないように固定して。


 どうせ助けられても多くて10人。

それはゆうかもわかっている。と、思う。


 あの目じゃなんとも言えないのだけれども。


 しかし、11人を出したのはそうさせないための罠、というか崖から落ちないためのロープみたいなのかもしれない。


 それを承諾して11人全員助けるとすれば、時間、制限時間は、おそらく、ここ一ヶ月もあれば長い方なのだろう。

明日死んでもおかしくない人がいると言っていた。


 そして今それが誰かを、まず、さがしもとめねばならない。



「おっ、決まったみたいだね。・・・うん。やっぱり出発するのか。

いってらっしゃい。くれぐれも、お陀仏にならないようにね。」


 私は少し頷くと、約束の木から立ち上がり、足を交互に動かした。


 さて、まずはどこへ向かおう。

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