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ブルーエンペラー ―魔力なしの剣士と無双の青―  作者: カントウしょうゆ
第零章 歯車の邂逅

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第一話 明けの明星Ⅲ 絶望の再来


「ハァッハァッ……」


 息を切らしながら、リアは木々の間を駆け抜ける。時折後方を確認しながら、月明かりを頼りに前へ、前へと進む。


 次第に足取りは重くなり、ついには膝に手をついて止まってしまった。

 

――食料はない。けど武器を手に入れられた。途中モンスターでも狩って食料は調達しよう

 

 リアの手にはデトの物置から拝借した青い剣が握られている。

 深呼吸をし、荒い息を整える。

 

――とりあえずこの森を抜けださないと。あの男も追ってくるかもしれないし、早く安心できる環境に身を置きたい。

 

 リアは剣をベルトに差し、歩き出した。夢中で走っていた時には感じなかった体の痛みがリアを襲うが構うことなく歩を進める。


 木々は風で揺れているがそのざわめきは実に静かなもので、土を踏む音にかき消される。先の見通せない暗い森を彼女は一人、ただひたすらに歩き続けた。


 するとリアは肌全体にピリつく感覚を覚えた。

 

――今何かを潜り抜けたような……

 

 一瞬の肌に感じた違和感に一度歩みを止めたリア。しかしその小さな感覚をかき消すような不快感、否、殺気を背に感じ取った。

 顔は強張り、汗が頬を伝い、全身が硬直した。


 息が詰まるような重い空気。

 リアは気配に覚えがあった。覚えがあった故に恐怖が襲う。恐怖を抑えつけ、後ろを振り向く。


 赤い目が彼女を見下ろしていた。

 突然に黒光りした大きな腕が振り下ろされる。


 リアはその場から跳び、迫りくる黒い物体を間一髪で避けた。

 黒い腕の勢いは止まらず、音を立てて地面にぶつかる。

 着地したリアはその豪腕の持ち主を睨みつけた。


「コイツ、どこから……」


 彼女の目に映っていたのは黒光りした巨体と赤い眼を持つ〝あの〟地龍であった。

 小さな翼を広げ、大地を踏みしめるその姿は、リアに堂々たる生命の威厳を感じさせる。


 リアは迷うことなく剣を抜いた。

 

――殺す必要はない。片足だけでも使えないようにすれば逃げるチャンスができるはず。二度目はそう簡単にはやられはしない

 

 前回とは違いリアは正気を保っているが、剣を握る手は震えている。


「グルル……」


 唸る地龍、一歩踏み出したのを皮切りにリアへと攻撃を仕掛け始めた。


 迫りくる鋭い爪を避けるが、リアが剣を振る暇もなく逆の腕が襲い掛かってくる。


 剣で軌道を反らす。が、しかし、頬にかすり血しぶきが舞う。


 攻撃の手は止まない。その巨体からはおよそ想像できない速さでリアを圧倒する。


 空を切る音と甲高い金属音、そして地を踏む音が混じりあい、戦闘は加速する。


 じりじりと後方へと押され、体勢を整えようと距離をとったリアは、無数の氷晶が空中に現れるのを見た。


――魔法を使えるのか⁉


 徐々に大きくなる氷はとがり、成長の止まったものは彼女に先端を向ける。リアのいる位置が全氷塊の焦点となったとき青白く透き通った利器は、放たれた。


 無数の氷塊が、意志を持つかのようにリアめがけて殺到した。

 次々に迫りくる氷塊を全速力で切り払う。一太刀ずつが風を切り裂く鋭い一閃。残像をつくるほどのスピードで剣が舞う。


 しかし、夜目では限界があった。数弾の氷が太刀筋の網目を潜り抜け、リアの身体に命中した。その度に血が流れ、痛みを伴うが彼女は腕を振るうことをやめることができない。


 浮いていた弾が尽きてきたころ、リアは満身創痍ながらも口を塞いだ地龍の胸部と頬が膨れ上がっているのを横目で確認した。

 

――なにか……来る‼

 

 地龍が開口した瞬間、眩い光がリアの視界を包んだ。それはそのドラゴンの〝息〟であった。だがそれは息と呼んでは形容できない、破壊的なエネルギーの光線だった。


 輝く空気砲は轟音を響かせた。衝撃が空気中に伝わり周囲を揺らす。

 冷えた夜には似つかわしくない熱さを纏い、草木を焼き払うその息吹の先のリアは……

 いなかった。


 彼女は地龍の左方から距離を縮めていた。


 間一髪でその軌道から抜け出したリアは強く握りしめた剣を構え、地龍の足を狙う。

 未だ残る熱をじりじりと感じながらリアは地龍の足元へと到達した。

 

――〝龍の息吹〟は強力……故に、前後に隙ができる‼

 

 左足から右足へと体重を流し、大地を強く踏みしめる。


 軽くしなやかに、それでいて豪快に剣を振るった。


 電撃のように重い抵抗が刃先から筋肉へ伝わる。


 リアの目は見開き、青ざめた。

 研ぎ澄まされていたはずの刀身は、折れた。


 刹那、強い衝撃とともに彼女の視界は歪んだ。気が付くと世界は横倒しになりぼやけていた。

 鞭のようにしなやかな黒い尾に突き飛ばされたリアは、勢いよく木にぶつかり、根元に力なく転がってしまった。

 

――ああ、クソ……

 

 力はもう入らない。起き上がることさえ、できない。


 朦朧とした意識の中、土を踏む振動にリアは揺られていた。

 奴が近づいてくる。

 

――こんなものか、私の生は

 

 月明が黒く大きな手のひらで覆われた。


 影が、降ろされる。

 

 ***


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