ついに明らかとなる
リードは険しい表情を浮かべつつ、重く長いため息を吐く。
「まさか、騎士隊がまともに機能していないとは……!」
魔法事業も魔女の介入により、よくない方向へと動いている。
「まずは、国王陛下に報告し、エリー・ロードという魔女を拘束して」
「待ってください、お祖父様」
「ディディエ、どうした?」
「騎士隊が機能していないのはわかりましたが、私達には事情聴取を行ったのに、ランゲンブルグ公爵家の現場検証をしなかったことについて、理由が明らかとなっておりません」
ディディエがその話題を口にした途端、顔を伏せたゾフィアにマリエッタは声をかける。
「ゾフィア、おうちを調査して、何か発見できたの?」
「……」
マリエッタはゾフィアの手をそっと握ると、ハッとしたように顔を上げる。今にも泣きそうな顔をしている彼女を、勇気づけるように微笑む。
すると、ゾフィアはこくりと頷き、調査結果を話し始める。
「報告が遅くなってごめんなさい。私は……この絵をお父様の部屋で発見したの」
それは一枚の油絵だった。油絵の下部にゾフィアの母親であるジュリアという署名があった。
「これは――!?」
今の王都ディアマンテを描いたものだという。
けれども日付は二十年以上も前である。
「二十年前の王都はこの状態ではなかっただろうに、なぜ?」
リードの疑問に答えられる者はいなかった。
「裏にはメッセージも書かれていたの」
ゾフィアは絵画を裏返し、メッセージを皆に見せる。
それを、マリエッタが読み上げた。
「〝魔法で溢れた都市、私の夢〟――?」
ゾフィアの母ジュリアは産後の肥立ちが悪く、この世から去った。
描いた油絵そのままに発展した魔法都市を、見ることは叶わなかったのだ。
「これも、お父様の書斎にある金庫から発見したの」
ゾフィアが一枚の紙を広げる。
それは王都ディアマンテの魔法都市の開発について描かれた設計図面だった。
「王都ディアマンテの魔法開発を進めていたのは王太子殿下でも、アンハルト侯爵でも、魔女エリー・ロードでもなく――」
ゾフィアが振り絞るような声で言った。
「お父様だったのよ」
アンハルト侯爵、ビュッセル伯爵、ゴーン伯爵だけでなく、王太子すらも利用し、自らの計画を推し進めようとしていた。
「ゾフィア嬢、話してくださり、ありがとうございました」
「いいえ……」
これから父親らが断罪されることを考えているのか、皆の表情は暗い。
父親が犯罪者として捕まれば、家族はこれまでの暮らしも、財産も、名誉も、何もかも奪われる。
想像しているよりも、辛い暮らしが待っているだろう。
そんなことを考えているだろうと察したディディエが、令嬢らにあることを提案する。
「何もかも終わったら、皆、クリスタリザーシーにいらっしゃいませんか?」
「え?」
ゾフィアとアルマ、エマ、ローザだけでなく、マリエッタもぽかんとした表情でディディエを見る。
「クリスタリザーシーでマリエッタを支えてくれると、嬉しいのですが。そうですよね、マリエッタ?」
「え、ええ! みんな、来てくださるのであれば、とても嬉しいわ!」
それを聞いて、皆の表情が少し明るくなった。
あとは、決着を付けなければならない。
そのために、皆で大きな行動を起こすこととなった。
◇◇◇
王都ディアマンテに来てから早くも半月が経った。
早い段階で執り行う予定だった婚約披露パーティーを行うこととなった。
急遽開催が決まったパーティーだったが、国王陛下や国内の有力貴族が顔を出すとあって、大勢の貴族が集った。
マリエッタはディディエが用意してくれた美しいドレスをまとい、皆の前でお披露目となる。
貴族の間でも、ディディエは魔女と結婚するという噂が広まっていた。
ディディエは悪い魔女に騙されているのではないか、なんて悪意ある言葉を口にする者までいたのだ。
けれども、登場したマリエッタを見て、誰もが熱いため息を零す。
「ああ、なんて美しいお方なのか」
「どこぞの国の、王女様みたいだわ」
「本当に、品があって、きれい」
手のひらを返すように大絶賛したのである。
それらの声はマリエッタの耳にも届き、ひとまずホッと胸を撫で下ろす。
ディディエと共に国王陛下のもとに行き、挨拶を交わした。
初めて目にするハウトゥ大国の国王陛下は、目元が少しだけディディエに似ているとマリエッタは思う。
まさかハウトゥ大国でこのように国王相手に挨拶をする日が訪れるとは、夢にも思っていなかった。
国王陛下から「立派な娘ではないか」と言われ、安堵の気持ちが押し寄せてくる。
ジルヴィラ国で王妃教育を頑張ったことは、無駄にはならなかったのだ。
厳しく接してくれた教師達に感謝したのだった。
国王陛下に続いて、ランゲンブルグ公爵とその娘ゾフィアがやってきた。
「二人とも、本当におめでとう。次はゾフィアちゃんの番かな!」
「いやだわ、お父様。こんな場所で冗談なんかおっしゃって」
ゾフィアの言い方に棘があるのを感じたからか、ランゲンブルグ公爵は娘を振り返った。
「おやおや、ゾフィアちゃん、拗ねているのかな? 大丈夫、父上がディディエ君よりも素敵な婚約者を、探してきてあげるからね!」
「ええ、楽しみにしているわ。できることならば」
「え? ゾフィアちゃん、それってどういう――」
ランゲンブルグ公爵の言葉を最後まで聞かずに、ゾフィアはディディエとマリエッタに笑みを浮かべながら話しかける。
「ディディエ様、マリエッタ様、本当におめでとう! 今日は、お祝いの品を持ってきたの!」
付添人に持たせていた包みを、ゾフィアは受け取る。
「これは私のお母様の遺作なの。受け取ってくれるかしら?」
「ゾフィアちゃん、待って! それって――」
ランゲンブルグ公爵が制止するよりも先に、ゾフィアが包みを開いて油絵をお披露目する。
「私のお母様が二十年も前に描いた、魔法都市の絵よ!」
ゾフィアは皆が見やすいよう高く掲げた。
今の王都ディアマンテの姿を描いたかのように見える油絵を前に、皆、疑問をそれぞれ口にする。
「私のお母様は、王都ディアマンテを魔法都市にするのが夢だったみたいね」
「ゾフィアちゃん!!」
ランゲンブルグ公爵がゾフィアに詰め寄り、油絵を取り上げようとした。
けれどもゾフィアはひらりと躱して距離を取る。
「お父様、邪魔しないで。今、ディディエ様とマリエッタ様に、贈り物についてお話をしているのだから」
「ゾフィアちゃん……それはよくない、よくないよ。その絵は、お父様の宝物なんだ」
「宝物? 金庫の奥に隠すように置いていたのに?」
「ゾフィアちゃん、どうして金庫を開けられたのかな?」
「家令の弱みを握っていたからよ。もしも言うことを聞かないのであれば、晩餐会の日に起こった使用人達の不祥事を、国王陛下にお話しするってね」
「ゾフィア!!」
これまで柔和な空気を絶やさなかったランゲンブルグ公爵の表情が一変する。
怒りの形相を浮かべ、ゾフィアに手を伸ばしてきた。
けれどもその間に割って入ったのは、リードだった。
「止めろ。娘が怖がっているだろう」
「閣下! これは親子の問題なんだ!」
「親子の問題? 笑わせてくれる」
ディディエがぱちんと指を鳴らして合図を取ると、会場中に紙がばら撒かれる。
参加者達はそれを拾い上げ、なんだ? なんだ? と声をあげていた。
紙の一部は、魔法都市の開発に関わる設計図面だった。
ディディエは一歩前に出て、ランゲンブルグ公爵を追及する。
「王太子殿下のご威光を悪用し、魔法都市の開発を強引に進めていたのは、ランゲンブルグ公爵、あなただったようですね」
魔法都市の設計図には、ランゲンブルグ公爵の名前がしっかりと書かれていた。
それ以外にもアンハルト侯爵に愛人を紹介し、魔法開発に協力するよう書いた手紙や、ビュッセル伯爵の借金を肩代わりするために毒を輸入させること、さらにアンハルト侯爵を通じて裏金を届けるよう命じた手紙なども、印刷された状態でばら撒かれる。
「説明していただけますか?」
ランゲンブルグ公爵は目の前にそれらを前に、説明するようディディエは糾弾した。




