面会者
それからというもの、暗殺未遂事件について調査が行われるということで、下の階を貸し切りにして聴取が行われているという。
マリエッタも呼びだされ、質問攻めに遭った。
長く続くかと思っていたものの、一時間ほどで解放される。
ディディエは病み上がりにもかかわらず、事情と状況について話しているらしい。
マリエッタも傍にいて支えたかったものの、同席は無理だと言われてしまった。
後ろ髪を引かれる思いで、スイートルームに戻ることとなったのである。
その後、マリエッタは暇を持て余す。
食材など買いに行きたかったが、外出も禁じられているという。
スイートルームの廊下やラウンジには、護衛の騎士が配備されていた。こっそり抜け出すというのも、無理な話なのである。
コンシェルジュに頼んで買ってきてもらうことも可能だろうが、ディディエは他人が買ってきた食材でさえ警戒するだろう。
しばらく食事は森から持ってきたもので賄うしかない。
コンシェルジュが暇つぶしとして窓から見える範囲で街を紹介してくれるというので、マリエッタはメルヴ・トゥリーと一緒に窓を覗き込む。
ちなみにグリージャは、コンシェルジュがやってきた時点でどこかに隠れてしまった。
「では、ご紹介しますね」
宿は街を一望できる位置にあるので、そこもかしこも見渡せるようだ。
目立っている大きな建物は大劇場で、人気の演目が毎日上演されているらしい。
天幕が連なっているエリアは市場で、毎日新鮮な食材が売られているのだとか。
他にも広い公園や豊富な魔法書を取りそろえた図書館、ハウトゥ大国の歴史を学べる博物館など、一日では回りきれないほどさまざまな施設があるようだ。
「外出許可さえ下りれば、ご案内できるのですが。もう一度、掛け合ってみましょうか? 状況が変わっているかもしれませんし」
「ううん大丈夫、ありがとう」
「他、何かご要望などありますでしょうか?」
「いいえ、ないわ」
「承知しました。何かありましたら、いつでもお呼びくださいね」
コンシェルジュは一礼し部屋から去ったが、すぐに戻ってくる。
「どうしたの?」
「いえ、その、面会を望まれている方がいらっしゃるようで」
「面会? どなたかしら?」
「ランゲンブルグ公爵家のゾフィアお嬢様みたいです」
いったいなぜ? と思ったものの、もしかしたらディディエのお見舞いにやってきて、断られたのかもしれない。
「わかったわ。お通しして」
「かしこまりました」
扉がぱたんと音を立てて閉まったあと、グリージャがマリエッタの前に躍り出る。
『ちょっとマリエッタ、ランゲンブルグ公爵家のご令嬢と面会するなんて、どういうつもりですの?』
「どういうって、せっかく来たから、会ってみようと思って」
『あなた、あの娘に命を狙われている可能性があることを、忘れましたの!?』
「でも、ゾフィア嬢も聴取を受けていたでしょうから、今の時間帯に動き回れるということは、犯人の疑いはないのでは?」
『罪なんて、お金さえあれば、いくらでももみ消すことができますのよ!』
グリージャの言うとおり、王太子もディディエの暗殺を画策していたものの、罪には問われなかった。
ゾフィアも父親であるランゲンブルグ公爵が罪を不問にするよう、動いた可能性もあるのだ。
『今からでも間に合いますわ、面会を拒否したほうがよいかと』
「いいえ、大丈夫。会うわ」
『どうして?』
グリージャはこれまで聞いたことがないような低い声で問いかける。
「ディー様は、自分達以外、疑ってかかるように言っていたの」
『ええ、あの騎士の言うことは間違っていませんわ』
「でも、わたくしは自分達以外の人達も信じたい」
『は!?』
マリエッタの主張を聞いたグリージャは、目が点となる。
『信じる? 今、信じると言いましたか?』
「ええ、言ったわ」
『あなた、自分が何を言ったのか、わかっていますの?』
「もちろんよ」
別に闇雲に信じるわけではないと説明する。
「わたくしみたいな人間は、疑うよりも信じた先に真実が見えるような気がしてならなくって」
『信じた先に、真実が見える、ですって?』
「ええ」
『意味がわからないわ』
「他人を疑って何か探るほど、器用ではないという意味なの」
『ああ……。たしかに、言われてみればそうかもしれないですね』
マリエッタは腹芸は得意ではない。無理してボロが出るよりは、普段通りに振る舞ったほうがいいのではないか、と考えたのだ。
「ゾフィア嬢と話して、彼女が何を考えているのか、聞いてみるから」
『逆に探られるようなおっちょこちょいを、働かないように注意してくださいね』
「ええ、わかったわ」
メルヴ・トゥリーにも同席をお願いすると『イイヨ』と言ってくれた。
「グリージャはだめよね?」
『まあ、あなたが心配ですし、ソファに座って監視するくらいはできますけれど』
「ありがとう、グリージャ!」
グリージャと会話をしているうちに、ゾフィアがコンシェルジュの案内でやってきたようだ。
ゾフィアはコンシェルジュの背中に隠れるようにして登場する。
そんな彼女にマリエッタは声をかけた。
「ごきげんよう、ゾフィア嬢。こちらにおかけになって」
「え、ええ」
コンシェルジュは頭を下げ、いなくなる。
それを確認してから、ゾフィアはソファに腰掛けた。
マリエッタは紅茶を淹れ、ゾフィアに差しだす。
「温かいうちに召し上がれ」
「え、ええ」
俯いていたゾフィアが顔をあげると、メルヴ・トゥリーと目が合ったようでギョッとする。
「なっ、なんなの、その植物は?」
『メルヴ・トゥリーのこと?』
「喋ったわ!!」
『さわがしい娘ですこと!』
「猫もいる!! というか、猫も喋った!!」
メルヴ・トゥリーとグリージャの存在で、ゾフィアの緊張が解けたらしい。
「なんなの、どうして宿に変な生き物を連れ込んでいるのよ!」
「グリージャとメルヴ・トゥリーはわたくしのお友達なの」
「葉っぱと猫が友達ですって!?」
「ええ!」
ゾフィアは一気に捲し立てるように話したからか、ゼーハーと肩で息をしていた。
喉が渇いたからか、マリエッタが淹れた紅茶を飲む。
「え、おいしい! これなんのお茶なの? 香りも甘くて、初めて飲んだわ」
「コットンキャンディ草から作ったお茶よ」
「初めて聞くお茶だわ」
「クリスタリザーシーの森で採れる薬草の一種なの。メルヴ・トゥリーと一緒に摘んで、グリージャに見守られながら煎って茶葉にしたのよ」
「森で……? その辺の葉っぱで作ったお茶ってこと?」
「ええ」
「しかもあなたが摘んで、作ったと?」
「そうなの!」
ゾフィアは呆れた表情を浮かべつつも、甘い香りに抗えなかったからか、コットンキャンディ茶を飲み干していた。




