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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・一章 思いがけない招待状

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ディディエを助ける方法

  グリージャの一喝で、マリエッタは今すべきことを思い出した。

 両手で頬をパン! と叩いて気合いを入れると、鑑定魔法でディディエの状態を調べた。


「――見定めよ、識別鑑定アイデンテンファイ!」


 名:ディディエ・ヴァルク・リオン=クリスタリザーシー

 年齢:二十二

 その他:猛毒蛇の神経毒による中毒状態(※解毒剤を飲まなければ、数時間以内に死ぬ)


「――っ!!」


 この世に存在する、たちの悪い猛毒の一つだった。

 解毒剤は生きた猛毒蛇から作ると本で読んだ覚えがあった。

 その猛毒蛇はここから遠く離れた湿地帯にのみ生息し、簡単に見つけるものではない。

 このままではディディエが死んでしまう。


「お医者様を呼んで!!」


 ゾフィアがそう叫んだが、マリエッタが制止する。


「お待ちになって、ゾフィア嬢。この毒はお医者様がどうこうできるものではないの」

「何を言っているの!? 馬鹿なことを言わないでくれる!?」


 猛毒蛇を捕獲する余裕なんてない。

 マリエッタはダメ元で、浄化魔法を発動させてみた。


「――けがれを退け、浄化せよ(ピュリフィケイション)!」


 聖なる輝きがディディエの体を包み込んだものの、苦しそうな息づかいが一瞬だけよくなっただけで、解毒作用があるわけではなかったようだ。

 早くどうにかしないと、ディディエの命を猛毒が蝕んでしまう。

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ――!

 ふいに、メルヴ・トゥリーの姿が脳裏に甦る。

 ここでハッと閃いた。


「そうだわ!!」


 ハウトゥ大国の国内にいながら解毒させる方法を、マリエッタは思いついたのだ。


「世界樹の大精霊にお願いするわ」

「世界樹、ですって?」

「ええ」


 ゾフィアだけでなく、王太子やランゲンブルグ公爵も何を言っているのか理解に苦しむような表情で、マリエッタを見つめていた。

 唯一、リードだけはマリエッタのやりたいことを汲んでくれたようで、すぐさま動いて、苦しげな様子で肩を上下させているディディエの体を支える。

 マリエッタは宿まで転移できる魔法札を使って、ディディエとリード共々転移させた。

 メルヴ・トゥリーはラウンジで、蜂蜜水を飲んでいるところだった。


『ワア、オ帰リナサ……ドウシタノ!?』

「ディー様が飲んだお酒の猛毒が盛られていたの! メルヴ・トゥリー、葉っぱを分けてくれる?」

『モチロン!!』


 世界樹の大精霊であるメルヴ・トゥリーの葉っぱは、どんな病気をも癒やす万能薬である。もしかしたら毒にも有効かと思い、一縷の望みをかけてやってきたのだ。

 メルヴ・トゥリーは自ら葉っぱを引っこ抜くと、マリエッタに手渡してきた。

 このままでは口にしにくいだろうと思って、魔法で飲みやすくする。


「――湧き出ろ、水よ(ヴァーテル)


 魔法で作った水球に、メルヴ・トゥリーの葉っぱを入れる。

 続けて風系の魔法を発動させた。


「――鋭く巻き上がれ、竜巻よトルネード


 水球の中に小さな竜巻が生まれ、メルヴ・トゥリーの葉っぱを細かく切り刻んだ。

 水球ごとディディエの口元に運び、飲むように促す。

 意識がわずかにあるディディエの口に含ませた。

 すると、ディディエの真っ青な顔色に赤みが差し、呼吸も整ってくる。

 マリエッタは再度、鑑定魔法でディディエの状態を調べた。


「――見定めよ、識別鑑定アイデンテンファイ!」


 名:ディディエ・ヴァルク・リオン=クリスタリザーシー

 年齢:二十二

 その他:小康状態


 毒の表示が消えていて、マリエッタはホッと胸を撫で下ろす。


『ヨクナッタ?』

「ええ、メルヴ・トゥリー、ありがとう」

『ヨカッター!』


 ディディエの手を握っていると、「マリエッタ?」と返ってくる。


「ディー様、もう苦しくない?」

「おかげさまで……」

「メルヴ・トゥリーの葉っぱで、解毒してもらったの」

「そう、だったのですね」


 血をたくさん失ったので、しばらく休んでいたほうがいいだろう。


「お医者さんを呼んだほうがいい?」

「いいえ、おそらく王宮の侍医たやってくるでしょうから、必要ありません」


 もしも王太子が毒を盛っていたとしたら、その侍医も手の内の者である可能性がある。

 そんな医者の診断なんて信じることはできないだろう。


「ディディエ、歩けるだろうか?」

「ええ」


 ディディエは立ち上がったものの、少しふらついていた。

 リードとマリエッタで支える。メルヴ・トゥリーも蔓を伸ばし、ディディエを背後から支えていた。

 コンシェルジュに着替えを手伝ってもらえば――とマリエッタは思いかけたものの、今は誰の手も借りたくないだろう。

 ディディエの寝間着を持ってきて、着替えを手伝う。

 その前に、体に付着した血を拭ったほうがいいだろう。タオルを温かい湯に浸して絞ったもので、ディディエの顔や胸元を優しく拭いた。


「マリエッタ、すみません。このようなことをさせてしまって」

「大丈夫よ、気にしないで」


 リードが着替えを手伝うとのことで、マリエッタは元気になる薬草茶を淹れることにした。


 マリエッタの影から、グリージャが姿を現す。


『酷い目に遭いましたね』

「ええ、本当に……」


 あんなふうに苦しむディディエを、マリエッタは見たくなかった。

 幸いにもメルヴ・トゥリーがいたから助かったものの……。


「リード様は王太子殿下の仕業に違いないとおっしゃっていたけれど、そもそもディー様が座っていたのは、わたくしがもともと座るべきだった席で……」

『あなたの命を狙っていた可能性もあるわね』

「でも、いったい誰がわたくしの命を狙っていたのかしら?」

『そんなの決まっているでしょう? あの女に決まっています!』

「あの女?」

『あなたに散々嫌がらせをしようとしていた、ランゲンブルグ公爵令嬢ですわ!』


 ディディエが倒れて、激しく動転していたゾフィアが、マリエッタの命を狙うのだろうか? 小首を傾げ、考えてしまう。


『どうせ、使用人に頼んで仕込んでいた毒の命令を、変更し忘れていたのでしょう』

「うーーーん」


 そう指摘され、マリエッタは考え込んでしまった。

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