グリージャと共に
ソファでうとうとしていたマリエッタだったが、グリージャから寝台で眠るように言われる。
「もっと、グリージャとお喋りしたいのに」
『それは休んでからでもできるでしょうに』
「うん、そうよね……」
物わかりがいいマリエッタの様子にグリージャは違和感を覚えたようで、顔を覗き込む。
『あなた、何かありましたの?』
「今日? 楽しい一日だったよ」
『嘘おっしゃいな』
ランゲンブルグ公爵家で何か言われたのではないか、とズバリと指摘される。
「実は、ランゲンブルグ公爵家のゾフィア嬢に、ディー様の結婚相手として相応しいか確かめる、なんて言われて」
『まあ! なんて生意気な娘なのでしょう! 相手がスニューウの王女だと知らないとしても、失礼ですわ!』
「ふふ……」
『何がおかしくって?』
グリージャはマリエッタの頬を肉球でぐいぐい押しながら問いかける。
「わたくしの周りにいる人達は、いつもわたくしのために怒ってくれるものだと思って」
『あなたがのほほんとしているので、余計に腹が立つのです!』
「そうだったのね。いつも怒ってくれて、感謝しているわ」
『こういうとき、ごめんなさいではなく、感謝できるあなたが、羨ましくなりますわ』
「あらそう? ありがとう」
『褒めておりませんので!!』
いつもグリージャはマリエッタの感情の変化に気付き、心配してくれる。
それがどれだけありがたいことか。
「グリージャ、いつもありがとう」
『べ、別に、感謝されるようなことではありませんので!』
「それでも、嬉しかったから」
『はいはい! いいので、寝台で眠ってくださいな』
「グリージャも一緒に寝よう」
『仕方ありませんわね』
その後、マリエッタはグリージャを抱きしめ、ぐっすり眠ったのだった。
十分休憩を取ったマリエッタはランゲンブルグ公爵家で開催される晩餐会に相応しい、アイビー・グリーンのドレスを選ぶ。
もちろんドレスを一人で着ることはできないので、コンシェルジュにお願いしてメイドを派遣してもらった。
髪はきっちり結い上げてもらう。普段はハーフアップか、結わずに流しているだけなので、マリエッタは新鮮に思った。
化粧もハウトゥ大国風に施してもらう。
最後に、ディディエがマリエッタのために選んでくれた、真珠の一揃えを身につける。
メイド達はとても上質で高級な品だと絶賛していた。
美しい照りを持つ真珠は、マリエッタの肌に驚くほど馴染んだ。
魔法みたいに、あっという間に身なりが整う。
姿見に映ったマリエッタは、普段よりもずっと大人っぽく見えた。
メイド達が帰ると、グリージャがどこからともなく現れる。
「ねえ、グリージャ、わたくしの格好、どうかしら?」
くるくる回って全身を見てもらう。
グリージャはコンシェルジュが運んできた、果物を頬張りながら答えた。
『まあ、似合っているのではなくって?』
「本当!? 嬉しい!!」
グリージャから合格をもらったので、マリエッタは自信を持ってランゲンブルグ公爵家での晩餐会に挑むことになりそうだ。
『晩餐会は、私も行きますわ』
「え、グリージャも?」
『ええ。あなたを軽んじる、ランゲンブルグ公爵令嬢とやらの顔を、見ておこうと思いまして』
どうやってついてくるのか、と問いかけるよりも前に、グリージャはマリエッタの影に飛び込んで姿を消した。
『姿は見えなくとも、傍におりますので』
「グリージャはいつもそうやって、姿を隠していたのね!」
『ええ、そうですとも!』
なんて便利な能力なのか、と羨ましく思ってしまった。
「そろそろ時間ね。行かなくちゃ!」
スイートルームを出ると、ラウンジにディディエの姿を発見する。
今宵のディディエはクリスタリザーシーの騎士隊の正装姿でいた。
長いマントをなびかせながら歩く姿は、マリエッタが惚れ直すほどかっこいい。
「ディー様、本当にかっこいいわ! ああ、普段もかっこいいなのですが、今日はそれ以上に!」
「ありがとうございます。マリエッタも美しいですよ」
淡く微笑みながら言うので、マリエッタは「きゃー!」と悲鳴を上げそうになる。
そんなマリエッタとディディエの様子を、リードは微笑ましいような表情で見つめていた。
「いいな、若い人達は」
「リード様も素敵よ」
「ありがとう」
ランゲンブルグ公爵家からやってきた魔導車が待っているという。
「ではマリエッタ、行きましょうか」
「ええ」
ディディエの差しだされた手に、マリエッタは指先を重ねる。
エスコートされた状態で向かったのだった。
あっという間にランゲンブルグ公爵家に到着する。
執事とメイド達が恭しい様子で出迎えた。
晩餐会が始まるまで、男女分かれて待機するようだ。
男性陣はシガレット・ルームに案内される。
「私もディディエも、喫煙なんてしないのだが」
「お祖父様、慣習ですので」
「わかっている」
リードは渋々といった様子で、シガレット・ルームに向かったようだ。
マリエッタは女性陣が待機するという、ティー・ルームに案内された。
もしかしたらゾフィアがいるかも、なんて考えていたが、ティー・ルームには誰もいなかった。
「よかった。わたくし一人みたい」
『油断はできませんわよ』
グリージャがマリエッタの影の中から注意してくる。
『あと、人前で私に話しかけないように。独り言を言っていると勘違いされますので』
「ええ、そうね。気をつけておくわ」
テーブルには茶菓子がたっぷり用意されていた。
魔法で保温された紅茶もある。
ゾフィアからのメッセージが書かれたカードがあり、晩餐会が始まるまでたくさん食べるようにとあった。
「おいしそうなお菓子があるわ」
『マリエッタ、ここでお菓子を食べたら、晩餐会の食事が入らなくなりますわよ』
「そうだった!」
グリージャは関係ないので、食べるかと聞いてみる。
『あなたの影に向かって、クッキーを一つ落としてくれますか?』
「それでいいの?」
『ええ。一度外に出てしまったら、再度姿を隠すのに魔力を消費しますので』
「そうだったのね。わかったわ」
高級そうなジャムがサンドされたバタークッキーを手に取り、マリエッタは自身の影に落とす。
本当にこれで食べることができるのか、と思っていたら、バタークッキーは影に呑み込まれてしまった。
「まあ!」
影からサクサクサク、とクッキーを食べる音も聞こえた。
『さすが上級貴族! たっぷりお酒が効いた、おいしいお菓子ですわ!』
「そうだったのね。まだ食べる?」
『ええ』
グリージャは三枚のバタークッキーと、チョコレートタルトを一切れ平らげた。




