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嫌われ魔女と体が入れ替わったけれど、私は今日も元気に暮らしています!  作者: 江本マシメサ
第二部・一章 思いがけない招待状

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ゾフィアの画策

「ゾフィア嬢はいつ頃いらっしゃるのかしら?」

『来るわけありませんわ! ここのお菓子やお茶も、悪意に満ちておりますし!』

「悪意?」

『気付いていなかったのですか?』

「え、ええ、まったく」


 グリージャの『はあ~~~~~~~!』という、盛大なため息が聞こえた。


『まず、お菓子!! お酒の匂いがプンプンしていますでしょう?』

「ええ」

『酔っ払ってしまうくらい、お酒が振りかけられていますわ』

「わあ!」


 通常、お菓子に入れる酒は匂い付けする程度で、酒精を感じることはないという。

 けれどもここにあるお菓子は直接シロップに入れて染みこませたり、ジャムに入れていたりと酒の成分が満載だったという。

 かなり強い酒だったようで、マリエッタは食べなくてよかったと思う。


『これらのお菓子を二、三個でも食べていたら、お酒の匂いをぷんぷんまき散らしながら、酔っ払っていたでしょうね!』

「まあ……!」


 酒の匂いは感じていたものの、それがハウトゥ大国のお菓子だとマリエッタは思っていたのだ。


「でも、どうしてそんなことをしたのかしら?」

『あなたをべろんべろんに酔っ払った状態にさせて、晩餐会で笑い者にするつもりだったのでは?』

「そうだったのね。大変な事態になるところだったわ」


 マリエッタはゾフィアの用意した菓子を食べなくてよかった、と心の奥底から思う。


『さらに、このお茶も問題ですわ!!』

「グリージャは飲んでいないのにわかるの?」

『ええ! 鼻がよいので!』


 なんでも用意されている紅茶は、強い利尿作用をもたらすものだという。


『匂いから推測するに、通常よりも濃く作られているようです』


 今飲んだら晩餐会中に利尿作用が働き、お花摘みに走らないといけない事態になるという。


「これも、わたくしに恥をかかせようという作戦だったのかしら?」

『間違いないかと』


 晩餐会が始まるまで紅茶の一杯でも飲もうか、なんて考えていたマリエッタは、ゾッとしてしまう。


「グリージャが一緒で、よかったわ!」

『嫌な予感がしたので、ついてきた甲斐がありました』


 自分自身だけでなく、危うくディディエやリードに恥をかかせるところだった、とマリエッタは思う。


『ゾフィアとかいう女がここを訪れない理由を、よーく理解できて?』

「はい」

『やられてばかりいないで、あなたも仕返しなさいな』

「仕返し? 何かするの?」

『ええ! たとえば晩餐会の席で、お酒がたーーーっぷり入ったハウトゥ大国の伝統的なお菓子をありがとう、なんて言ってみたり』

「食べていないから、感想は言えないわ」

『そうではなくて! 嫌味ですわ!』

「嫌味だったのね」


 グリージャは本日二回目の、深く長いため息を吐く。


『あなた、本当に天然で鈍感ですのね! これも褒めていませんから』


 マリエッタがお礼を言う前に、グリージャが釘を刺しておく。


「いろいろと、気をつけないといけないわ。わたくしみたいな人を結婚相手に選んだんだ、ってディー様が思われてしまうから」

『ええ、もはや自分だけの問題ではないでしょうから』


 しっかりしなくては、とマリエッタは改めて思ったのだった。

 そろそろディディエが迎えにやってくる時間だろうか。なんて考えていたら、扉がトントントンと叩かれた。


「ディー様だわ!」


 立ち上がって扉を開こうとしたら、グリージャが待ったをかける。


『どなた?』

「ディディエ様からカードをお届けにあがりました」


 メイドの声だった。扉を開くと、カードが差し出される。


「ディー様の文字だわ」


 書かれてあったのは驚くべきものだった。


「王太子殿下がいらっしゃったの!?」


 かつてディディエの命を狙っていたという王太子がやってきたとカードにあって、マリエッタは驚く。

 ディディエからのメッセージカードには、謝罪したくてやってきたとあった。

 マリエッタを晩餐会が行われる食堂までエスコートする予定だったが、できなくなったと書かれてある。


「大変な状況だったのね」


 メイドが食堂まで案内してくれるというので、マリエッタはティールームをあとにすることとなった。


 メッセージカードには、王太子も晩餐会に参加するとあった。

 まさかここで会うとは思わなかったので、マリエッタは一歩進むごとに緊張が高まる。

 ディディエのことも心配だ。

 過去にディディエの暗殺も画策していた相手と突然会うことになるなんて、冷静ではいられないだろう。

 ディディエの心情を思うと、マリエッタは胸が苦しくなった。

 そんなことを考えているうちに、食堂に到着したようだ。

 ディディエからのメッセージカードを運んでくれたメイドとは、ここで別れる。

 給仕係が扉を開いて、マリエッタを席まで案内してくれた。

 椅子が引かれた瞬間、マリエッタはハッとなる。

 王太子が晩餐会に参加するのならば、席順も変わるのではないか、と。

 こういった晩餐会の席順にも序列があって、地位が高い者ほど主催者の近くで食べるようになっているのだ。

 給仕係が案内したのは、二番目に主催に近い席。

 王太子がやってくるのならば、ここに座るのはディディエである。


「どうかなさいましたか?」

「先ほど王太子殿下がいらっしゃると聞いたの。だから、席順が変わると思って」


 王太子が参加することを聞いていなかったようで、給仕はぽかんとした表情でマリエッタを見る。


「一度、確認に行っていただける?」


 ディディエが座るべき椅子に、マリエッタがいたら礼儀がなっていないと思われるかもしれない。

 そのため、マリエッタはひとまず座らずに確認してもらうこととなった。

 給仕係が出て行くと、マリエッタは一人部屋に残される。

 人の気配がなくなったので、グリージャが呆れたように話しかけてきた。


『貴族というのは、席順ひとつで大変ですのね』

「そうなの」


 ディディエに恥をかかせないために、行動には気をつけないといけない。

 立ったまま待っていると、話し声が聞こえてきた。


「みなさん、ここが今日の晩餐会の会場よ!!」


 そう言いながらやってきたのは、ゾフィアだった。

 勢いよく扉を開け、あとから続く者達を引き入れる。


「あら、先に誰か座っているようだけれど――」


 ここで直立不動のマリエッタと、ゾフィアの目が合う。


「あなた、どうして座っていないの?」

「王太子殿下が参加されると聞いて、席順が変わると思ったから」


 その声に反応するように、ディディエと初めて目にする男性がいた。

 どうやら彼が王太子のようだ。

 

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