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第十章 終わりよければすべてOK④


 婚礼のあと、神殿の周りに集まった人々への挨拶、そして国王への謁見と祝賀の晩餐会。

 めまぐるしい行事をすべて終えて、二人は新居となった元ペオーニア大公家別邸に戻った。王宮に泊まらなかったのは二人とも人の多いところに疲れたせいだった。

「本当ならこれにパレードと神殿でのお披露目やらともっと忙しかったし、夜会を開くだのと……それはもう……。断れた自分を全力で褒めてるところだよ」

 ヒカリはそう言って苦笑していた。

「そうね」

 後日内輪だけで茶会か食事会をとは言われているが、その出席者が国王一家と魔族の魔王夫妻というだけでもずいぶんだろう。

 今日の式に参加した関係者の中に異形の魔族やヒカリにそっくりの若い女性がいたことが噂になっていた。リナはヒカリの実姉だという触れ込みで出席していた。

 先代聖女に似ていると言う者もいたが、すでに神殿にあった歴代聖女の肖像や彫像は失われているし、今後は聖女など必要ないからと作り直させる予定もないらしい。だから噂は続くだろうけれど、誰も彼女が先代聖女だとは断言できないだろう。

 リナは今後は魔王の妻として交流するつもりらしい。瘴気が強くて人が住めないあの森全域を魔族の国家とするのを目指すのだとか。

 ヒカリは魔法庁の業務を中心にして、神殿には大きな行事のみ参加する。仕事を少しずつ減らしたいと言っていた。そもそも彼は仕事しすぎだとデルフィーナは自分のことを棚に上げて思う。

 この先のことを考えられるようになったのはいいことだけれど、デルフィーナは少し不安になることもある。彼は心の底から納得しているのだろうかと。

「ヒカリはこれでよかったと思う? 向こうにはもう未練はない?」

「……両親の墓参りができないことくらいかな。結婚の報告もできなかったし」

 ヒカリは即答した。彼の両親の墓所は異界にある。それだけが心残りらしい。唯一の家族である姉はこの世界にいる。不自由なことはあるかもしれないけれど、彼はそれを苦にはしていない。

「いつか召喚魔法の逆が出来るようになったら、あちらにデルフィーナを連れていってあちこち案内するよ」

 ヒカリはそう言いながらデルフィーナに手を差し伸べた。

「それはとても楽しみだわ」

 デルフィーナはそう言ってその手を取った。

 きっとこれからの人生の方が長いのだ。彼が異界で受けた傷もすべて癒やして楽しく過ごせるようになるはずだ。

「……その……そろそろ寝室に行く?」

 ヒカリがぽつりと問いかけてきた。デルフィーナはわずかに頬を染めた彼に頷いた。

 彼の育った場所と私が育った場所は全く違うけれど、今日から家族になるのよ。

 私たちなら最強の家族になれるはずだわ。


『……の二人は、共謀して被害者の男性を呼び出して海に突き落とした様子が防犯カメラに映っていた。職場では被害者の男性に対して度々暴言を吐く様子が目撃されており、警察によると……』

 まばゆい光がひっきりなしに起きて、二人の男女が拘束されて建物に入っていく。

 何これ。

 服装も建物も見たことがない様式で、大きな金属の箱のようなものが馬も引いていないのに走っている光景。

 ……これって異界の風景なのかしら? どうして彼らは光を浴びせられているの?

『被害者の男性が会社宛に提出した書類と記憶媒体に、犯人が業務のアイデアを盗用した証拠が入っており、彼らが今までも他の社員の業績を奪っていたことが判明した。それが知られることを恐れて被害者の口封じを図ったのではないかと……』

 画面が切り替わって、鮮明な絵姿が映し出される。書かれている文字は読めないし、少し年若いが間違いなくその人物がヒカリだとデルフィーナは気づいた。

『被害者の本多光さんは優秀なデザイナーだったことから犯人はそれを妬んでおり、彼を利用しようとしていたのだろうと関係者からの証言もあった。本多さんの所持品や血痕は発見されたものの、本多さんは未だに発見されていない。警察は殺人未遂事件として調査を継続している』

 ……もしかして、ヒカリを陥れようとした人たちは官憲に捕まったのかしら。これが本当ならヒカリ以外の人も救われたということよね? 彼も安心するのではないのかしら。

 二人は布を被せられていて顔は見えなかったが、ヒカリに酷いことをした人たちの顔など見たくもなかったので、デルフィーナはそれ以上気にしなかった。

 異界ではヒカリは亡くなったものとされているらしい。映像に手すり越しに断崖が映し出されていて、確かにあんな高さから落ちて命があるとは思えなかった。

 よかったわね、ヒカリ。きっと彼らには女神様の罰が当たるわ。それとも異界の神様かしら。

 安堵しているとその光景は白く遠ざかっていった。


「……君も見たの? テレビのニュースみたいな夢」

 翌日、起きた瞬間から使用人たちから「奥方様」呼ばわりされて気恥ずかしくなったデルフィーナは夢で見た光景をうっかり口にしてしまった。

 ヒカリはそれを聞いて驚いていた。

「テレビというのがなんなのかわからないけれど、まるでその場にいるような動く景色が目の前で切り替わるの。それで、ヒカリに悪いことした人たちが捕まってるのを見たわ」

「それじゃ夢じゃなかったのかな。まあ、泣き寝入りはしたくなかったから証拠は会社に届くようにしといたんだけど。ざまあ、ってやつだね」

 ヒカリはそう言って微笑んでいた。

「何それ?」

「仕返しに成功した……とかそんな感じかな? ああ、そうだ。ちょっと待ってくれる?」

 そう言ってからヒカリは奥の部屋から大きな包みを持ってきた。

「見てほしいものがあって、気に入ってくれるといいんだけど」

 中に入っていたのは額縁に入った絵だった。魔法庁の制服を着て椅子に腰掛けたデルフィーナの姿が描かれていて、その膝の上にステファノと作ったあの造花がある。背景はきっと一緒に過ごしていた官舎だろう。

 私ってこんな穏やかな顔していたかしら。ヒカリといるときだから?

 破滅の魔女だの白炎の魔女だの言われている時はきっとこんな顔してないわ。同僚が見たら誰これ? とか茶化されそう。

 それともヒカリにはこんな風に見えていたのかしら。

 ほんの少し前のことなのに、懐かしく思えてデルフィーナは感動した。

「これ、ヒカリが描いたの?」

「そうだよ。仕事の合間に描いてたんだ。どうかな?」

 デルフィーナがよく見るこちらの絵画とは雰囲気が違うけれど、技術があるのは素人目にもわかる。

「すごいわ。本職の画家みたいね。どこかに飾っていい?」

「そのつもりだよ。エリゼオや他の人たちも描きたいから、いずれは壁中に飾りたいんだ。でも、最初は絶対君を描こうと思ってた」

 ヒカリはそう言って絵に目をやる。

「君に会えなかったら僕は野垂れ死にしてたかもしれない。……君は一番の恩人で、一番大切な人だから。両親の事故からずっと絵を描く気になれなかったのに、君に会ってから描きたくなった」

 彼は家族を事故で亡くして、絵を描くのを辞めてしまったらしい。初めて王都に行った時に画材を買いに行ったのは、彼の心が立ち直ってきた証拠だったのか。

 自分がそんなすごいことをしたとは思えない。当たり前のことを当たり前にこなしていただけなのに。

 ……でも、幸せそうなヒカリを見ていると、胸が熱くなる。

「……嬉しいわ。でも、私は絵心がないから、何をお返しにしたらいいかしら」

 デルフィーナはそう願って夫に歩み寄った。

「それじゃ、奥様。今日一日二人で何もせずにだらだら過ごす自由をいただけませんか?」

 ヒカリは完璧な貴族男性のお辞儀をしてみせると、悪戯っぽく微笑む。

 今日から三日間の結婚休暇を二人は取得している。

「そうね。新婚のこの時期に押しかけてくるような無粋な人もいないでしょうし。来たらこんがり焼いてしまいましょう?」

 デルフィーナの言葉にヒカリは小さく吹き出した。

 歩み寄ってきてふわりとデルフィーナを抱き寄せると軽いキスをくれた。

「異界では、そういう人には『馬に蹴られてしまえ』って言うんだよ」

「あら、それはそれで酷いわね」

 デルフィーナはうっかり笑ってしまった。

 異界にも無粋を窘める言葉があるらしい。

 大切な人との時間を邪魔されたくないのはどこの人も一緒なのかもしれない。

 不条理なことばかりでずっと気を張り詰めて生きてきたこの私が、あんな優しい絵になるなんて思いもしなかった。きっとヒカリに会ったからだわ。

 ヒカリが見る世界が、この先ずっとこの絵の雰囲気のように柔らかく穏やかで静かであればいい。


 この世界が誰かの描いた物語だとしても、これからは私たちの物語になるのだから。

 



ひとまずこれで完結です。お付き合いありがとうございました。

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