第173話 底辺テイマーはすべての軍艦の最後を知る
俺たちが、船に近づこうとすると、何の警告もなく矢が振り注いできた。
マガミの奇襲ですでに臨戦態勢になっているのだ。舟が近づいてくれば、攻撃するのも無理もない。
俺はハットンからもらった右腕を薄く広げ、マルビィと俺を守るように展開する。
普通の矢が、魔獣の身体で作った盾に効くはずもない。
「マルビィ、ヴァレリーに呼びかけろ」
「分かった。ヴァレリー! ヴァレリーはいるかい。僕だ! 君の恋人のマルビィだ!」
恋人! マルビィとヴァレリーと言う男が? いや、ヴァレリーと言う男のような名前の女性かもしれない。俺は、驚きの声をぐっと飲みこんだ。
しかし、俺の希望は打ちひしがれた。
船から顔を出したのは、紛れもなく男性だった。
同性愛か。まあ、俺に関係ない話だからいいが。
何処の国か分からないが、一目でわかる軍服をきっちりと着た男が叫んだ。
「マルビィ! これはどういうことだ! イエティたちは、お前が抑えておくと言っていたじゃないか! それなのにあの狼たちはなんだ!?」
「そのことで、話が……」
「お前が、ヴァレリーか!」
俺は右腕を伸ばして、ヴァレリーの身体に巻き付けると、思いっきり引っ張った。
不意を突いたからか。驚くほどあっさり俺たちの船に落ちてきた。
「シェリル、目標は果たした。舟を沈めて良いぞ」
俺がそう言うと、それに呼応するようjにマガミが襲った船が沈んだ。
それを見たヴァレリーが怒りを含んだ声で言った。
「お前たちは何者だ。何が目的た。我々がボルフ帝国海軍と知っての狼藉か」
「悪いが、質問に答えるのはそっちの方だ。ブラックドラゴンを倒すと言っているようだが、何のためにそんなことを計画している?」
「軍事機密を話すとでも思っているのか?」
「別に、あんたが話す必要はない」
「なに、どういう……」
俺はヴァレリーの言葉を待たずに、左の大砲を船に放つ。
威力は抑え気味に。
水色の魔力砲はヴァレリーが乗っていた船を貫いた。
自分の船を攻撃されたヴァレリーは怒りの声を上げた。
「何をする!」
「何をって、船を沈めてるんだよ」
俺はヴァレリーの顔を見ることもせず、左腕を動かして、船を真っ二つにする。
悲鳴と水音とともに船は、冷たい海に沈んでいった。
それを見届けると、俺はヴァレリーにしがみついているマルビィを見て言った。
「さあ、村に戻ってくれ」
「あ、はい!……でも、他の二人は?」
初めは俺を馬鹿にしていたマルビィは、怯えた声を上げた。
まあ、普通は軍艦三隻相手に俺たちがどうにかできるとは思わかっただろう。巨狼一匹と男女二人で。かつて魔獣の陸の王と言われたシェリルがいるとは、思わなかっただろう。
シェリルの強さを目の当たりにして怯えるのも仕方がない。
「怯えなくても大丈夫だ。シェリルは味方には何もしないぞ」
「いや、そう言う意味じゃなくて……」
マルビィが言い終わる前に、船が大きく揺れ、二人の巨狼が船に降り立った。
それは同時にすべての軍艦が沈んだことを意味する。
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