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難易度ナイトメア! クズ勇者に嵌められた俺はついに本気を出すときがきた 悪役令嬢と塔を攻略しよう!  作者: 野良うさぎ(うさこ)


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メイドの大切なもの

 

 メイドは構えた。

 身体は自然体で隙のない構えだ。手はぶらりと下げていてどんな動きでも対応出来るだろ。


 待ってくれている。


 メイドか……

 初めて見た時から親近感はあった。胸が大きくて可愛くて、無愛想で意外と優しくて……


 アリスとメイドと一緒に塔にいる時やカフェでお茶している時間が本当に楽しかった。

 あの時間があって今の自分があるのだろう。


 異世界に来て取り戻した俺自身の何か。

 まだまだ俺は欠けているだろう。

 それを少しでも埋めてくれたアリスとメイド。


 最大級の敬意を払いたい。


「……メイド、どうしても戦わなきゃ駄目なのか?」



 メイドは俺に殺気を放ってきた。


「ふん、私はNPCだ。仕方ない……」




 俺はアリスに手で下がれと合図する。


「アリス、ここは俺に任せてくれ」


『ハルキ様! メイド様は強敵ですわ。 二人で戦わな……ハルキ様? だ、大丈夫ですか?』


 アリスは俺の顔を見て止まった。

 うさぎ顔が悲しそうになってる。

 どうした?





 俺は覚悟を決めて構えた。


 メイドの口元に笑みが湧く。

 珍しいものを見た。


「ふん……いい顔になったな。初めてあったときは、自分が無くてただ流されていただけのお前が……そんな人間的な表情をするとな……」


 俺はどんな顔をしてるんだ?


 でもメイドがいい顔になったと、言っているんだからいい顔だろう。



「……メイド」



「さあ行くぞ」


 俺とメイドの戦いが始まる。






 メイドがゆっくり動き出す。

 ごく自然な歩き方。

 まるで殺意が無い。


 手がぶれたと思った瞬間、俺の目の前にナイフが存在していた。


 ――大丈夫だ。


 当たる瞬間に合わせて、盾を生成した。

 ナイフが盾に突き刺さる。

 ひどく重い衝撃。踏ん張る。


 メイドは一瞬で間合いを詰めてくる。

 拳と蹴りの連撃が来る。

 俺は盾を新たに生成して、メイドの高速の連撃を防ぐ。

 一つ一つが致命傷の一撃だ。

 突き、掌底、回し蹴り、前蹴り、一つ一つ盾で受ける。


 ――俺は笑っているみたいだ。

 

 でも視界がぼやけている。


 メイドも笑っている。

 まるで自分の子供の成長を喜んでいるみたいだ。


 じゃあメイド……見せるよ……


 俺は刀を抜かない、剣も生成しない。

 拳をゆるく握る。


 メイドが俺の攻撃を察知した瞬間、俺は拳を放った。



 ――道場で初めてメイドから教わった技。

 ん、あれ……?



 足で腰で肩で力を拳に伝える。

 その速度は音速を越える。当たる瞬間に拳をにぎり衝撃を余すことなく伝える。


 メイドは即座に両腕をクロスして防御をしたが、メイドの腕を破壊して、胸を越えて背中に衝撃が伝わった。


 必殺の一撃。


 メイドは吹き飛ばされる。

 踏ん張ろうとした足で地面がえぐれ、玉座に激突した。


 メイドは動かなくなった……

 




「……ありがとう……本当にありがとう」




 ――あれ俺泣いてるの? 

 いつから?



 俺はメイドに近づく。

 メイドは一歩も動けない瀕死状態だ。

 俺は絶対メイドを殺したくなかった。だから死なないように攻撃をしたから大丈夫なはずだ……


 ――大丈夫なはずだ……


 でも、胸に不安が渦巻く。


 アリスもトコトコ近づく。


 メイドは瀕死の状態なのに目にいつもと違う光がある。

 苦しそうに喋り始めた……



「――あぁ……やっと自我がもどった……」



「ハルキ……ハルキくん、強さが戻ってきたね……最後にあえて嬉しいよ……NPCを殺せるのはプレイヤーだけなんだ……NPCはただの残滓なの……」



「ハルキくん……本当にありがとう……私の大切なひと……ふふ、やっぱり優しいね。最後の攻撃はちゃんと死なない様に手加減してくれたんだね? ……でも私は思い出しちゃったから、もう消えなきゃいけないの」



 ――メイド? 何を言っている。



「ハルキくんは……君はまだ全部……思い出していないよ……塔を……攻略して……思い出して……」



 メイドの身体が薄くなっていく。俺はメイドの手を握りしめる。

 ――待て、待て! 俺を置いていくな!



「死なないで…大丈夫……私の知ってるハルキくんはもっと強いんだから……」



 アリスがメイドに抱きつく。

 メイドがアリスを優しく撫でる。


「きゅぅ……」


 メイドが目を見開いた。


「ピンクちゃん……アリスちゃん……あなた……この感覚はそういうことなのね……あぁ、神様ありがとう……」


 メイドが最後のチカラを振り絞ってアリスを抱きしめる。


「大丈夫……絶対また……あえる……よ……わたしはただの残滓……本物に……」


 メイドが光になり始めた。その光がアリスの中へ消えていく。


 メイド? 


「まて! おい! まて!!!」


 俺は虚空を掴む。

 そこには何も無い。玉座だけがある。


 メイドは消えた。



「うおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」



 俺は生まれてこのかた感じたことの無い悲しみに襲われた。

 今までモンスターだから殺すのが普通だった。

 この世界は殺す事に対して価値観が低すぎる。

 俺がおかしかったのか。


 俺は人を殺してしまった。

 大切な人を殺してしまった。それが救いと言ってくれた。でも……


 後悔と悲しみが沸き起ころうとしている時に、急激に頭痛が起こった。


「がっ! くっ! なんだ、この映像は! なんなんだ! ――あ……ゆみ姉?……」


 



 …………




 俺とメイドが一緒にいる。


「ハルキくん! 道場行くよ!」

 


 俺とメイドとピンクうさぎが塔を攻略している。

 

「このうさぎ超可愛い! 連れてこ!」


「名前は……ピンクちゃん! 可愛いでしょ!」



 仲睦まじそうに3人で攻略している。


 ある時は俺はメイドを助け、ゆみ姉も俺を助け……



 巨大な影が俺達を襲っている。

 そいつは恐ろしく強い。


 「私がハルキくんを守る!」

 「きゅー!」

 

 俺達は必死に戦っている。


 俺が死に、ゆみ姉が死ぬ。


 ピンクは下層に落ちた。



 …………




 頭痛が止まる。

 俺の視界がぼやける。

 うまく感情を制御出来ない。



 アリスは俺の頭を小さい腕で抱きしめてくれた。

 その小さい身体にすがって俺は泣き続けた。


 泣く止むまでアリスは俺を抱きしめてくれた。

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