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「ッ! ロランさま!」


 フードのついた外套を外すと、そこにはロラン王子がいた。


「このような格好ですまぬ。王子の立場で、いち伯爵家を訪ねるのも、なかなか難しくてな」


 ロラン王子は、律儀に頭を下げる。


「そんな、謝らないでください。私こそ、無理を言って、申し訳ありませんでした。……今、ダイニングルームで、皆でお茶をしていましたの。よければ、ロランさまも一緒にいかがですか?」


 誘ってみるが、ロラン王子は静かに首を振った。


「いや、今日は、ルクレツィアに話があって来たのだ。コホン、……その、婚約者の件でな」


 ロラン王子は、若干、居心地が悪そうにしている。そういえば、すっかり忘れていたが、婚約者候補としての1年も、もうすぐ終わろうとしているのだった。


「あ、……すみません。色々あって、すっかり頭から抜け落ちておりました」


 正直にそう言うと、ロラン王子は、驚愕の表情で叫んだ。


「忘れていた、だと! ……こちらは、日々悩んでいたというのに、どういうことだ!」


 ロラン王子の剣幕に、びっくりしながらも、言い訳を試みる。


「申し訳ありません……捕縛騒動ですっかり忘れていただけで、……全然考えてなかったわけでは……」


「ふむ。……確かに、ルクレツィアには、こたびの件、災難であったな」


 しどろもどろの言い訳だったが、ロラン王子は、怒りをおさめてくれたようだ。


「それで、婚約者の件は、どうなさるおつもりですか?」


 言われるまでは忘れていたが、言われると結論が気になる。ロラン王子に、直球で尋ねる。


「ふむ。……そうだな。まずは、私から話すべきであろうな」


 ロラン王子が、居住まいを正すのを見て、私も自然と姿勢が伸びた。


「この1年近く、ルクレツィアを側で見ていたが、最初の印象とは違い、懸命に努力する姿は、好ましいものであった。……噂だけで、私の隣に立つ資格が無いなどと断じた私こそ、配慮に欠けておったな。改めて、謝ろう」


 ロラン王子はそう言うと、深く頭を下げた。私は慌てて、声をかける。


「ロランさま、どうぞ頭を上げてください! ……私の努力を見ていただけて、嬉しいです。でも、ロランさまに言われるまで、わがままだったのは確かですから」


 私がそう言うと、ロラン王子は、やっと頭を上げた。


「うむ。それでだな、……婚約者の件だが、……」


 ロラン王子は、少し言い淀むと、私にしっかりと目を合わせて言った。


「ルクレツィア、私の婚約者には、そなたより相応しいものはいないと、思う。だが、逆に、私がそなたに相応しいと思えなくなってな」


 ロラン王子は、苦笑すると、また真剣な表情に戻って言った、


「こたびの捕縛騒動では、陛下の変化に気付けなかったことも含め、私がもっと周りの様子を注視しておれば、あのような騒ぎになる前に、止められたのではないかと、反省しておるのだ」


「ルクレツィアが王城に入れば、また、悪意のあるものも出てこよう。どんな状況でも、そなたを守れるようになるまで、……私が、そなたに相応しい相手になるまで、まずは魔法学園に通う3年の間、待っていてはくれぬか?」


 ロラン王子は、そういうと、少し自信を無くしたように、弱々しい声で続けた。


「もちろん、女性に、あと3年待てと言うのは、酷だということもわかっておる。……だから、無理にとは言えぬが……」


 ロラン王子が、こんなに、私のことを考えてくれているとは、思わなかった。確かに、貴族の女性で、あと3年も婚約者が決まらないのは、珍しいかもしれない。


 でも、……私の答えは、いつだって……


「はい! ロランさま。お待ちしています!」


 全力の笑顔で、答えた。ロラン王子は、意外な答えだったのか、驚いた顔になった後、改めて、確認してくる。


「……本当に、いいのか? 3年も経てば、ルクレツィアの他の候補は、いなくなるやもしれぬぞ」


「大丈夫ですわ。いざとなれば、ずっと1人でもいいです」


 それが許されるかは分からないが、できれば、好きな人と一緒にいたい。それが、駄目なら1人でいい。


 そんな決意を込めて、ロラン王子を見つめる。……お互い、段々と気恥ずかしくなって、沈黙のまま俯いていると、応接室のドアが急に開いて、レオノール、エドワード、クラウスがなだれ込んできた。


「勝手に2人で決めないで欲しいな。全く、あと3年もかかるのか。私も、いい加減、婚約者を決めないといけない年なのだけど、仕方ないね」


 レオノールは、なぜか3年、待つ気のようだ。


「3年あれば、僕も大きく、強くなれるね。もう可愛いなんて、言わせないから」


 エドワードは、3年かかると聞いて、かえって元気になったようだ。


「まあ、オレは、どちらにしてもずっと一緒ですから。皆さん、頑張ってくださいね」


 クラウスは、1人、勝ち誇ったように呟いた。


「ふむ。……これも、試練か。よかろう。3年後に、ルクレツィアに最も相応しいものは誰か、勝負だな」


 ロラン王子は、なぜかやる気を出している。ここは、私の先ほどの決意はどこにいったのかと、怒るべきだろうか。……でも、皆の笑顔を見ていたら、なんだか楽しくなって、結局、皆と一緒に笑ってしまった。

 これにて、本編は終了となります。


 ときめきを渇望するあまり、衝動的に書き始めてしまった物語でしたが、ロラン王子を想って胸が苦しくなり、レオ様の爽やかさにときめき、いつも一緒にいてくれるクラウスを頼りに思ったり、エドワードは、もしかして、1番力強く、逞ましくなっちゃったりして? なんてことを想像してドキドキする日々は、とても楽しく濃密でした。


 何よりも根気のない私ですが、初めて書いた作品にも関わらず、思いがけず沢山の人に読んでいただく機会を得、日々、プレッシャーと書く意欲の狭間で戦いながらも、なんとか頑張ることができました。


 日々、読みに来てくださる皆さんがいなかったら、最後まで書くことは出来なかったと思います。作品を生み出す力をくれたみなさん、今日まで読んでいただき、ありがとうございました。


 もちろん、完結後に、ここまで読んでくださったみなさんにも感謝します。しばらくは気になって、覗きに来てしまうと思いますから。


 この小説が、皆さんにとって、ちょっとしたお気に入りになったとしたら、嬉しいな、なんて願いつつ。


2018年4月5日

紀乃 結也子


★2020年9月22日「身代わり悪役令嬢は今日も安寧を夢にみる」身代わり編完結。ラブコメを目指していますが、ラブはどこだ……(↓にリンク)

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