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「……幻滅しましたか?」


 言葉をなくしていると、しばらくして、クラウスが聞いてきた。


「? どこを幻滅するというの?」


 不思議に思って、聞いてみる。


「そりゃ、……盗みを働いていたこととか、……貴族の中では、どうしても目を引く、暗くて陰鬱な黒目、黒髪は、やっぱりこういうことだったのね、とか……」


「本当は、このことは、一生黙っているつもりだったんです。……お嬢様に、幻滅されたらお終いだって。もう付いてこなくていいって、言われると思って」


 説明する度に、クラウスは俯き、声も小さくなる。


「……でも、これって、お嬢様がオレのこと信じられないのと、一緒ですよね」


 クラウスは、こちらを向き、苦笑しながら言った。


「……幻滅なんて、しないわよ。……ただ、いつも私を明るくしてくれるクラウスが、そんな苦労してたなんて、考えたことも無くて……こんな、暗い場所で、パン1つのために、死ぬところだったなんて……」


 なにを話していいか分からなくて、言葉に詰まる。


「嫌なこと、話させてしまって、ごめんなさい……」


 結局、謝ることしか出来なかった。でも、……


「……でも、クラウスの黒い瞳も、黒髪も、暗いとか、陰鬱とか、思ったことないわ。黒は、全てを受け止める美しい色だもの。とても綺麗で、吸い込まれそうになるもの。……普段はバカなことを言ってるけど、なにをしても受け止めてくれる、クラウスにぴったりの色だわ」


 恵まれた環境に甘えている私には、こんなことしか言えない。


「お嬢様……」


 クラウスは、暗い顔のまま、こちらを向いた。


「クラウスを信じてない訳じゃないの。いつでも、私のことを最優先してくれてるのも分かってる。ただ、……アメリアは、特別だから。……クラウスを、みんなを、取られる気がして、怖かったの……」


 情けないが、そういうことだ。


「お嬢様! ……オレは!」


 反論しようとするクラウスの手を取り、慌てて止める。


「違うの! アメリアのこと、怖かったけど。……今も怖いけど。……もう、クラウスを取られるかも、なんて怯えたりしない。……戦いを挑んだりは、したくないけど。私は、私のできることをやるだけだわ」


 クラウスの手を、ぎゅっと握って、目を見て話す。


「クラウスは、いつでも、私の味方なのよね? これからも、ずっと、側にいてくれるわよね?」


「……お嬢様。……こんなオレでも、側にいていいですか?」


 クラウスは、自信なさげに聞いてくる。


「もちろんよ。私についてこれるのは、クラウスしかいないもの」


 私は、確信を持って、頷く。


「……仕方ないですね。……じゃあ、これからも、側にいてあげますよ」


 そう言って、私の前に跪くと、クラウスは強く私を抱きしめた。クラウスの瞳には、涙が見えた気がした。

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