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「クラウス、どこまで行くの?」


「もうすぐですよ」


 クラウスは、いつものように、王城で馬車を預けると、私のほうを振り向かずに、何度も同じ返事をしながら、王都の端の方に、どんどん向かって行く。


 グリューは、私の部屋で撫でられ続けるのに、相当、飽きていたのか、楽しそうに私たちの周りを、走り回っている。


 貴族が暮らす街を超え、エドワードと買い物をした露店のある街を超え、衛兵の詰所を超える度に、薄暗い感じになっていく。露店のある街を超えると、いよいよ、今まで一歩も入ったことのない場所だ。


 建物も道も汚れてきて、粗末な服を着ている住民が多くなってきた。みんな、私たちが通るたび、慌てて家に飛び込み、ドアも窓も閉める。家に入れない人たちは、道の端に小さくなって布を被っている。


「なんだか、あまり歓迎されていないようだけど……」


 住民の様子に、不安になって、クラウスに問いかける。


「そうでしょうね」


 クラウスは、想定済みだ、とでもいうように、そう言うと、気にせず進む。不安が、ますます募る。


 ……

 …………

「さあ、着きましたよ」


 クラウスは、やっと立ち止まると、そう言った。立ち止まった場所は、狭い路地裏で、薄暗く、今にも犯罪が起きそうだ。グリューも、警戒の呻き声を出している。


「ここは?」


 一通り、周りを見渡し、特になにもないことを確認すると、クラウスに尋ねた。


「……ここは、私が、ザリア伯爵に拾われた場所です」


 クラウスは、暗い表情で話し出す。


「え? そうなの? ……クラウスは、ずっとザリア家にいたんだと、思ってたわ」


 考えたこともなかった。……設定は、どうだったっけ? ロラン王子以外、攻略していなかったから、ちょっと記憶に無い。


「……その頃、オレは、ここで、1人で生きていました。大抵は、腹を空かせて、誰かの食べ物を盗んで」


 クラウスは、暗い顔で、話し始める。


「……あの日は、失敗しましてね。パンを1つ盗んだら、相手に追いつかれて、殴られて、蹴られて……パン1つのために、死ぬんだな、なんて思ったら、ちょっとおかしくなってきましてね。笑ったら、また蹴られて……本当に死ぬところでしたね」


 クラウスは、自嘲する。


「そのとき、なんでかザリア伯爵がいらしてね。……後から聞いたら、この辺の改善ができないかって視察して回ってたらしいんですけど、……相手に金貨1枚渡して、行くところもないオレを拾ってくれたんです。……家に、小さい子がいるから、遊び相手にちょうどいいってね」


「10年前、オレが8歳、ルクレツィアお嬢様が4歳のときです。……お嬢様は、小さかったから、覚えてないですよね?」


 クラウスは、暗い表情のまま聞いてくる。そうだったんだ。あまりに壮絶な子供時代に、声も出ない。……だけど、この街では、それが普通なのかもしれない。見えていなかった現実を見せつけられ、頭を殴られた気がした。


「オレは、ザリア伯爵に、命を救われました。こんなオレに、大事なお嬢様に仕えるという、仕事まで与えてくれて。……だから、なにがあってもお嬢様を、ザリア家を裏切るなんてこと、あり得ない」


 クラウスは、強い眼差しで私を見つめてきた。

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