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終わらずの雨

  4月4日、しとしとと小雨が降っている。

  昼の授業を終えたばかりの霧島 蒼は、レストラン街を、あてもなく歩いている。

  大学の食堂前、広場のそばに立つ並木の陰で、蒼が傘を手に、広場の方を向いている。口が、わずかに動いている。

  雨に濡れた地面が、ぼんやりと景色を映している。時折、電動自転車が通り過ぎていく。

  どれくらい時間が経ったのか、わからない。

  ――そのとき。

  いきなり、自転車がバランスを崩して。

  地面を擦る、シャーッという音が響いた。

  空は低く、重い。蒼は食事を済ませて、足早に喫茶店へ向かった。道の途中、両脇に並ぶ木々が光を覆い隠し、どんどん暗くなっていく。足元すら、よく見えない。

  雨水と朽葉が混じり合い、ぐちゃりとした音が足元から響いた。遠くに、かすかな光が見える。その中に、人影が立っていた。雨が降っているのに、服は、濡れていない。

  「薫、ここにいたんだ」

  薫は、何も言わずに立っていた。

  目だけが、こちらを見ている。

  「この雨、どう思う?」

  「ああ...雨が」

  不意に問いが投げかけられた。

  「4日からずっと降り続いているこの雨、空気が重く沈んでいて......首まで締め付けられるようだ。雨に覆われたこの学校、ここにいるのが、息苦しい」

  「......逃げられたくないよ」

  「え......?」

    薫が蒼の顔にそっと顔を寄せる。

上目遣いで、優しげな両目で見つめてくる。

  「外よりは、ここは無機質だけど...安全だ。まるで母の羊水に満たされた子宮みたいに。」

  両手を差し出されて、十指を絡めてぎゅっと握り締めた。

  左手を握るのは右手、右手を握るのは左手。

  「生まれ落ちた折に、最初に泣き叫ぶのは――

苦難の始まりなんだ。」

  何気なく――両手に強い力が込められ、肩の上まで強引に引き上げられる。腹の奥が、抜ける。

気づけば、衣服はじっとりと濡れている。

そして――薫の姿は、いつの間にか目の前から消えていた。

  目を覚ます。

  全身に不快と疲労を纏わりつき、シートは汗で湿っている。

  暗い寝室の中に携帯を探し、床に落ちたそれに手を伸ばし、届こうとした瞬間――

左手首からの痛みが呼吸と動作を鈍らせる。

  「4月4日、金曜日、14時44分」

窓の外に目をやる、雨が降っている。

  弟は、まだ学校にいるはずだ。

  ――会いに行かなければいけない。


  幼い頃から、父の酒癖による影響を避けるため、母に連れられて各地を転々としていた。子供のために、母は日々働き詰めで、生活は苦しかった。でも、弟がそばにいるから、どこか安心できた。

 弟と同じ大学に合格し、近くのアパートで一緒に暮らし始めた。

  ここ数日、飲み物以外ほとんど口にしていない。無理に飲み込もうとすると、胃がむかつき、吐き気が腹の底から喉元へとこみ上げてくる。こらえきれず吐き出しそうになる。

  冷蔵庫の扉を開けると、かすかな音とともに灯りがともり、真っ白な光が庫内からこぼれた。

  「......ピーナッツミルクか」

  まだ数口ほどしか飲んでいないのに、不快感が再びこみ上げ、思わず口元を押さえた。

  ふらつく足取り、リビングへ帰りながら、何の前触れもなく、テレビが自動的につく。

  「4月4日午前7時ごろ、市内の電話ボックスで男性の遺体が発見されました。遺体は仰向けの状態で、喉、肺、心臓、肝臓、胃、腹部に39もの刺し傷が確認されています。臓器の一部が体外に露出しており、死因は大量出血による失血死とみられています。」

  顎にかかる黒髪、蒼白い顔、瘦せ細った体。

  ――蒼に、似ていた。


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