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【書籍②巻6/1発売】3度目の人生は、忘れ去られていた王女様でした(旧:3度目の転生は、忘れ去られていた王女様でした)  作者:


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王族は癖が強いんです

本格的に始まった授業は思っていた以上に楽しく、午前中は座学に没頭している。


(没頭……で、合っているよね?)


その日分としてオーバンが用意していた内容を終えると、ついつい授業とは関係のない話に脱線し、それがそのまま議論へと発展すれば、なんと午後も座学の時間に。

そうなると昼食がとれず、声をかけても反応しなくなった私とオーバンの為に片手でも食べられる物を慌てて手配したのだと、後から満面の笑みのリオルガにお叱りを受けたが。


そんな日が二日も続けば周囲も順応してくるというもので、リタは前もって昼食とおやつの籠をリオルガに持たせるようになり、オーバンも手の空いた愛弟子に声をかけ、皆で色々な話をしている。

家の為の義務としてでも、一人で生活していく為の手段でもなく、ただ学ぶことが楽しいと思える日が来るとは思ってもみなかった。


――と、そうして充実しながら忙しく過ごす中で、どうしても気になっていることがあった。

そこで、年齢も経験も豊かで、この件について最も詳しく、しかも勉強という名目であれば答えてくれそうな人に尋ねてみることにした。


「おはようございます、オーバン様」


渡されていた課題を差し出しにっこりと微笑めば、授業の準備をしていたオーバンがパチパチと目を瞬いた。


「おはようございます、王女殿下。今日は、いつにもましてご機嫌ですのお」


昨日は王妃様の派閥について答えにくいであろうことまで尋ねたからか、オーバンはどこか面白がっているような表情を浮かべながら、そう口にした。


「授業がとても楽しいからだと思います」

「それはようございました。課題も……ふむ、とてもいいですの。では、覚えている範囲で結構ですので、聞かせていただけますか」

「はい」


課題として渡されていたものを暗唱すると、オーバンはとても嬉しそうに笑い、「本日の授業を始めましょう」と授業開始を告げる。

本来ならここで、課題について分からないことや疑問に思ったことを質問する時間になるのだが、私は一度も質問したことがなかった。

けれど、今日は違う。


「あの、質問してもよろしいでしょうか」

「ほお、これは珍しい……暗唱は完璧でしたし、課題も余白はありませんでしたが」


ふむ、と口角を上げたオーバンが手にしていた系譜図をテーブルに置いたので、私はその系譜図の一部を指差し、「これなのですが」と話を切り出した。


「ここに、先代王妃と書かれている方がお二人いらっしゃいます。これはどういうことなのでしょうか?その、国王陛下のお母様である先代王妃様はお亡くなりになっていると伺っていたのですが、このお二人のうち、どちらかがその方なのですか?」


私が王宮へ来たその日に、イシュラ王は「二人の姉である王女は他国へ嫁ぎ、先代国王と王妃は既に他界している」と言っていた。

だというのに、礼儀作法の先生として先代王妃様を呼び寄せたとも言っていて、ジル・ゴルジと揉めていたのを覚えている。

どういうことか分からず、もしかして私の聞き間違いだったのだろうか……?とそう思いかけていたところに渡された系譜図に、はっきりと先代王妃の名が二つ書かれていた。


「系譜図に記されている通り、先代王妃様はお二人いらっしゃいます」


オーバンはゆっくりと上体を傾け、先代王妃様が記された箇所に指を置く。


「まずこちらが、陛下のお姉君お二人のご生母であり、最初に王妃の座にあった方でございます。……男児を授かれなれなかった為に自ら王妃の座を退かれ、現在はご実家の姓に戻られ、遠方の領地でお暮しになっております」


オーバンはメレーヌ・シランドリアの名に置いていた指を滑らせ、「そして」とその隣の名へと指先を動かした。


「こちらの方が陛下のご生母でございます。もとは側室でいらっしゃいましたが、現国王陛下をお産みになった折、当時王妃であられたメレーヌ様がそのお立場をこの方へお譲りになりました。王女殿下がおっしゃっている亡くなられた先代王妃様とは、この方のことでございましょう」

「では、礼儀作法を教えてくださる先代王妃様は……」

「最初の王妃であられたメレーヌ様のことです。あの方は長く王家の務めに携わってこられ、礼儀作法に関しては誰よりも深いご経験をお持ちです」


王妃の座を追われたのではなく、自ら退いて側室へ譲った人……。

王族の婚姻は、有力貴族との結びつきや血統、同盟関係を固める為に行われるもの。だから普通は王妃の退位など国王や王妃の意思で動かせるものではない。王妃の背後には実家である有力貴族、または出身国の王家がいて、その家との結びつきや同盟が国の安定に直結しているのだから。

王妃の地位とは個人の座ではなく、契約そのもの。

王妃を退ける、あるいは王妃自身が退くということは、断絶を意味するというのに――。


「王妃の座を譲れるの?」


思わずそう小さく口にすると、それに気付いたオーバンが小さく頷き微笑んだ。


「国王陛下が許可されれば、王妃様ご自身のご判断でお立場をお譲りになることは可能でございます。この国は、陛下のご意思がそのまま法となる絶対君主制でございますからの」


本来なら王妃をそう簡単に挿げ替えることなど出来ないのに、それが可能なのはこの国が絶対君主制だから。しかもこの国では他国と違い、女性であっても王位に就くことが認められている……と、そこまで考え首を傾げる。


――女性でも王になれる国なのに、どうして王妃の座を退く必要があったのだろうか?


「オーバン様。この国では、女性でも国王になれるのですよね?それなら、国王陛下のお姉様方も、王位を狙えたということになりますよね?」


そう尋ねると、オーバンはわずかに表情を曇らせた。


「制度の上では女性が王位に就くことも可能でございます。陛下のお姉君方も、お望みであれば次期王候補としてお名前が挙がることは出来た筈でしょう」


そこでオーバンは一度言葉を切り、深く息を吐き出し、慎重に言葉を選ぶように続けた。


「しかし実際にはその道をお選びにはなりませんでした。いえ……正確には、王女殿下方に次期王候補となる資格をお捨てになるよう、先代王妃様が強くお求めになったのです」

「……先代王妃様が」

「どちらもとてもご優秀でしたが、とりわけ第一王女殿下はご聡明でして、もし継承権をお持ちのままであれば、あの方がこの国の女王となられていたのではないかと、そう思う者もおります。ご本人も、そのつもりでおられたでしょうから」

「それなら、どうして放棄させたのですか?」

「……きっと、それぞれのお考えがあったのでございましょう。何を選ぶかは、その方ご自身のご判断でございます」


何を思ってのことなのかは、本人達にしか分からないということなのだろうか。オーバンは他にも何か知っていそうな気がするけれど、きっとこれ以上は語ってくれないだろう。

どうしても知りたければ、先代王妃様本人に尋ねろと、そういうことなのだろうけど……。


「一つだけ、メレーヌ様は決して悪い方ではございません。ご自身の中に揺るぎないお考えがあるだけで、王女というだけで冷遇し、適当に扱うような方では決してありません。どうか誤解だけはなさらないよう。きっと、よき師となってくださいます。だからこそ陛下も、あの方にお任せになったのでしょうから」


でも今までの話を総合すると、王女が王位を狙うことには賛成せず、むしろ放棄するよう言ってくる恐れもあると、そういうことなのでは?


「分かりました」


そう返事をし、にっこりと笑う。

この王宮内には一癖も、二癖もある人が山ほどいて、それらの筆頭が王族である。

今さらどんな癖のある相手が現れようと驚くことはなく、目の前に立ち塞がるのであれば粉砕して進むしかない。


(どこの誰よりも、気合を入れて臨もう)


そんなことを考えながら、心の中でふん!と気合を入れた。



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