救出作戦開始
「時間だ」
「はい」
ハートさんがほんのり光る “神の託宣” を高々と掲げた。
「この私に “神の託宣” が発行された! 逆らうものは神の名の下に断罪される! 道を開けろ!」
全聖騎士を後ろに従え隣国の国境警備隊の前でハートさんが叫ぶと、隠れていた警備兵達が「神の託宣?! どういうことだ?」と口にしながら怪訝な顔で姿を次々と現した。
凄い人数だな。第一王子はここにどれだけの人員を回したんだ。
我々は周囲を警戒しながらゆっくりと国境を越えて馬を進めると、道を塞いでいた警備兵がノロノロと不満そうに避けていく。道を開けるというより、仕方なく退いているといった感じだ。
周囲はピリピリとした重苦しい雰囲気に包まれて静まり返っている。
何を言われて集められたのか分からないが、向こうは私達を侵略者だと思ってるような雰囲気だ。
「警戒を怠るな」
「はい」
警備兵達の殆どが抜き身の剣を持ったまま、鞘に納める素振りもない。
魔法を放つ気配があまりないのが幸いだ。剣士が多いのかもな。
それにしても、こうも殺気だらけでは襲って来る者の気配が読めないな。
教会に縁のない下の者にとっては “神の託宣” よりも自国の王子の言葉の方が上なのか。
遠距離からの攻撃を警戒していると、目の端に何かが横切った。
「うりゃああああ!」「おりゃああ!」「死ねええ!」「うおおおお!」
突如、最前列の警備兵の数名が同時に剣を振り上げる。
その瞬間、彼らの頭がゴトゴトと音を立てて転げ落ちた。
彼らの首のない身体だけが、喘ぐように数歩進んで重なるように倒れ込んでいく。
ハートさんが風魔法を放ったんだ。見えなかった。
相変わらずの速さと威力とコントロールだな。勝てる気がしない。
絶句した警備兵達が立ち竦んだまま、茫然と倒れた死体を眺めていた。
フン。ハートさんはS級だぞ。舐めやがって。
「武器を捨てろ。そうでなければ……」
ガシャン、ガシャン、ガシャン。
ハートさんが言い終わらないうちに全員が武器をその場に投げ捨てる。
その目を見ると、もう戦意のあるものはいなかった。
ハートさんがしばらく威圧するかように辺りを見回すと、警備兵達は委縮し顔を伏せる。
それを確認したハートさんが満足そうに私を見た。
「テッドは俺の護衛に回れ」
「はい」
ハートさんが馬を進め始めると、先程とは違ってサーっと綺麗に道が開いていく。
“神の託宣” の前では隣国の兵士だろうが神の名の下に断罪される。
圧倒的な実力差も、先ほどのハートさんの一撃で十分に伝わったのだ。
「遅れるなよ」
ハートさんは私に向かってそう言うと、前だけを見て走り出す。
私も含めて聖騎士達も、その背中を必死に追った。
まるで『付いて来れる者だけ付いて来い』と言われているようだった。
進む先に現れた魔獣は、事前に私が後ろから水魔法で排除する。
それを見たハートさんが振り返ってニヤリと笑う。
ハートさんの馬のスピードを一瞬たりとも落とさせるものか。
護衛に回った私を舐めないで下さいね。
山間部を抜けた頃には日が落ちて、気が付くと闇にまみれていた。
私達はハートさんの背中だけを見てひたすらに走り続ける。
いくつもの森を抜けてしばらく走ると煌々とする王都が遠目に見えて来た。
抗戦する気か? 警戒レベルを最大に上げた松明の数が不安を煽る。
「ハートさん!」
「ああ、一気に行くぞ!」
そのまま王都の外壁門近くまで馬を走らせると、ハートさんがほんのり光る “神の託宣” を掲げた。
「この私に “神の託宣” が発行された。逆らうものは神の名の下に断罪される。門を開けろ」
門番は待ってましたと言わんばかりに敬礼すると、キビキビと門を開ける。
待機していた隣国の聖騎士が教会の旗を掲げて王都の中を先導してくれた。
民は神官達によって既に制圧されている状態だ。
徐々に見えてくる城壁は、既に教会の旗を掲げた大勢の隣国の聖騎士達に囲まれており、その光景は圧巻だった。
ははは。本気で王城を落とす気か。
確かに囲んでくれと手紙に書いたけれど、実際に見ると迫力が凄いな。
「第二の聖女直轄部隊だけ後に続け! 残りは城壁を囲んで待機しろ!」
各部隊の団長がハートさんの元を離れて散っていく。
こちらが引き連れてきた聖騎士団が続々と王都に入ると、あっという間に城壁を取り囲んでいった。
圧倒的な数の暴力に笑うしかない。
ハートさんは第二聖騎士団に囲まれて、城壁門の前で “神の託宣” を掲げた。
「お待ちしておりました! 門を開けろ!」
門衛が叫ぶと門が開き、門衛達に見送られながら城壁門を抜ける。
最早言葉はいらなかった。
隣国の城壁門がこんなにも簡単に開くのか。
しばらく走ると王城が見えて来た。
近付くだけで城門は開き、そのまま城に向かって少し走る。
視線の先に緊張感のない三人の人影が見えてきた。
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