11-22 ゾオルSOS④
「司令官、魔軍はゾオル西方50キロの地点に猛攻撃をはじめました!」
「ついに始まったか!」
犬族の通信担当将校の報告にナーガラジャ司令官 がうめくような声を出す。
「魔軍の侵略軍の攻撃は激しいそうですが、空は低く垂れこめた雲、地上は濃霧でよく確認できないとのことです。敵はかなりの数の戦車部隊を先頭にした歩兵軍団でもってわが軍のガドゥンガン将軍の防衛線を突破し、ゾオル方向目指して進軍しているとのことです!」
通信担当将校は緊迫した顔で報告する。
「魔軍の推定兵力は?」
「攻撃の範囲と火力から推定して、20万以上だろうとのことです!」
「それは確かなのですか?」
司令官が長く太い尾をブルンっとふって報告に来た将校に聞く。
「はい。確かであります!」
「よし、わかった。ガドゥンガン将軍には引き続き戦況を報告するように伝えてくれ。」
「それと、司令部ではすでに援軍を向かわせていると伝えてくれたまえ!」
「はっ、了解しました!」
通信担当将校はもどって行った。
「まったく、魔軍も今回の作戦は、ずいぶん用意周到に計画しているようです。イーストランジア戦役の時とはやり方がまったく違います。」
「ジャバリュー参謀長は、あの時、獣人族軍の代表参謀として参加されたのでしたよね?」
「はい。あの時とくらべて、明らかに魔軍の戦いが巧妙になっています。これは我々同様、魔軍の参謀部にも優秀な参謀が新たに加わったのだと思います。」
「そうでしょうね... テジュア将軍の3師団が西部戦線で危うく全滅させられかけたのも、魔軍の巧妙な作戦にはまってしまったからでしたからね...」
テジュア将軍の部隊を全滅から救ったのは、ジャバリュー将軍だった。
彼は真夜中であったにも関わらず、勇者王国のレオに緊急連絡をし、ドコデモゲートの特別使用許可を得て、自ら救援軍を率いてテジュア将軍の部隊の救出に赴き、これを救い出したのだった。
「ナーガラジャ司令官、最新の情報が確実であれば、南へ向けて移動中のガドゥンガン将軍指揮下の5個師団をすぐに西方に向かわせなければなりません。それとゾオル西南部に防衛陣を張っているガヴァーロ将軍の兵力の中から3個師団をガドゥンガン将軍の増援に向かわせましょう」
「ゾオルの南に配置しているカーマデーヌ将軍(牛頭将軍)の軍は西に動かさないでも大丈夫ですか?」
「一応、いつでも移動できるように準備させておきます。そしてドコデモゲートをいつでも使わせてもらえるように、それとエルフ魔術師部隊を至急、ゾオル西部に送ってくれるように勇者王国軍司令部に要請しておきます!」
「すぐにそうしてください、ジャバリュー参謀長!」
ホワイトドラゴン偵察隊が発見した魔軍の飛行輸送船団の目的地は、その針路からラガルだと思われ、獣人族国軍の総司令部は、最強のガドゥンガン将軍の第七総軍を急遽ラガル方面に移動させたのだが、ラガルに展開し、防衛線を構築しようと準備していた時、飛行輸送船団は急に針路を変更し、ゾオル西方50キロに侵略部隊を降下させたのだ。
また、魔軍はそれに先立って、数百隻の飛行巡洋艦や快速飛行船による猛攻撃を獣人族国軍へしたのだった。
魔軍の飛行輸送船団も飛行巡洋艦艦隊も、たれこめた雨雲に姿をうまく隠しているため、獣人族軍も標的の位置がわからず、一方的に攻撃されるだけとなっていた。
かくして、ゴルゴーン将軍の魔軍第六軍は首都ゾオルからわずか50キロの近距離に、侵略部隊の第一陣60万の魔軍兵士と5千両の戦車および補給用車両を無事に降ろすことに成功し、主力の30万をゾオルへ向かって進軍させ、残りの20万をそれぞれ5部隊に分け、それぞれをゾオルの近郊に配置されていた獣人族軍を制圧するために攻撃を開始した。
もちろん、魔軍の侵攻部隊は、上空からの飛行巡洋艦と快速飛行船による猛攻撃の援護のもとで、ゾオルに向けて進撃を開始した。
* * *
「レオ、ジャバリュー将軍から、仙人隊とリョースアールヴ隊に出動要請が来ているわ!」
「で、状況はゾオル西方50キロに魔軍の攻略部隊が到着、展開中というわけか!」
「獣人族国軍では、魔軍の正確な兵力を把握できていないみたいだけど、たぶん、魔軍は少なくても40万から50万は投入していると思うわ」
「もっと多いんじゃないの、モモ?」
「えっ、どうしてそう考えるの、イザベル?」
「だって、私たちがジーマラ・ゴカラ演習場で見た飛行輸送船の数は、500隻以上はあったわ。
獣人族国軍が、ゾオルから近い北部や東部に200万ほどの兵力を備えていることは魔軍も知っていると思うの。
だから、ゾオル攻略は速度を重視した作戦で来ると思うし、魔軍もゾオル攻略でモタモタしていたら包囲されるって知っているはずだから、短期間で100万、200万の魔軍兵力をゾオルを中心として投入してくると見た方が、戦略的にも優れているでしょう?」
「たしかに、イザベルさんの考えは理にかなっているし、魔軍もイーストランジア戦役後3年過ぎているので、かなりの大軍を準備してこの作戦を実施したと考えるのが妥当だと思います。」
「私もイザベルさんの考えに同意します。イーデル主席参謀の言っていることはもっともだと思います。」
イーデルがイザベルの考えに同意し、バルキュス司令官も同じ考えであることを示した。
「なるほど... ということは、今、ゾオルの西から迫っている兵力はモモが言ったくらいかも知れないが、おそらくすぐに同じくらいの大兵力をもつ第二陣が到着すると見た方がいいね」
「オレもカイオの言う通りだと思う。だとすれば、今、第一陣を運んで来た飛行輸送船団を使って第二陣をもって来る公算が強いな...」
レオが結論付ける。
「モモ、『秘密兵器T』の手配はどうなっている?」
「ガラガスの兵器廠の滑走路に準備完了で待機中です!」
「よし!じゃあ、『秘密兵器T』の実戦投入だ!(フィンラちゃん、たのむよ!)」
(はい!)
ナンバ市郊外にあるナンバ・ラボの敷地内に作られた滑走路の脇で、轟々とエンジン音をたててプロペラを回しているのはナンバ・ラボとドワーフ兵器廠が2年かけて共同開発したレシプロエンジンを搭載した戦闘機ND-T3だった。
全長9.80メートル、全幅12.8メートルの双発戦闘機は、600馬力のガソリンエンジン2基で最高速度516Kmに達することができる。武装は15ミリ機関銃4門と100ミリ飛翔弾20発。乗員は1名だ。
陽はかなり傾いている。ナンバ市ではもう夕方だ。
すでに滑走路にはいっている隊長機の操縦席で操縦桿をしっかりと握って“発進!”の命令を今か、今か、と待っているのは、勇者国空軍のコラット・キムリック少佐だ。
キムリック少佐はネコ族で、勇者王国が成立されたときに、獣人族軍のヤンガーたち突撃隊やガネーシャたちリザードマン兵士たちとともに勇者王国軍に移籍した獣人族将校の一人だ。
ネコ族や犬族は身体が人族並みに小さく、その上、反射神経も優れていることから戦車兵や戦闘機搭乗員に最適なのだ。
キムリック少佐の前方、300メートルのところにはフィンラがいた。
フィンラはリョースアールヴの一員で、ゲート能力にすぐれているためにこの任務をまかされたのだ。
滑走路は千メートルあるが、ND-T3戦闘機は200メートルもあれば離陸できる。
キムリック少佐がフィンラを見ていると、フィンラの手前、少佐から200メートルほどのところの空間に揺らぎが生じたのが見えた。
揺らぎの直径は100メートルほどある。その揺らぎはまるで池に石を投げたかのように大きく揺らいだと思った次の瞬間に淡いオレンジ色の光を放ちはじめた。
そして、強く一瞬光ると、そこには陽光に輝くばかりの青空が現われた。
《キムリック戦闘隊、発進せよ!キムリック戦闘隊、発進せよ!》
ついに待ちに待った、航空管制塔からの命令がマソキを通して届く。
《こちらキムリック戦闘隊、発進開始する!》
少佐もマソキを通して返事をすると、スロットルをいっぱいに引き、エンジンの出力を上げ、踏んでいたブレーキペダルを離すと操縦桿をいっぱいに前に押す。
ND-T3戦闘機はどんどん加速し、時速150 kmに達したとき戦闘機はフワッと離陸した。
そのまま開いたゲートの中に突っ込む。
そこは獣人族国の首都ゾオルの上空だった。
午前10時のゾオルの上空は青空だったが、西方の空は黒い雲に覆われているのが見える。
操縦桿を引き、車輪を収納し、後ろをふり返ると、2番機、3番機と次々にゲートを通って続いているのが見える。
十数分後、100機のND-T3戦闘機は堂々たる編隊を組んで、魔軍の飛行船団に向かって行った。
向かう先には真っ黒な雲が立ちこめており、このままではどこに魔軍の飛行船があるかわからない。
《司令部、こちら キムリック戦闘隊。ただいま全機無事にゲートを通過。ゾオル上空に到着。針路を西にとって魔軍飛行船団向けて飛行中!》
《こちら司令部、キムリック戦闘隊 はそのまま西へ向かってください。すぐに雲を払います!》
ゾオル西方20キロの地点にある小高い丘の上にアウロラ、ミッチェラとアルウェンが立って西の方を見ていた。勇者王国からミッチェラのゲート魔法で来たのだ。
西の方からはすさまじい爆発音が止むことなく聞こえてくる。
そして魔軍の飛行船を隠している黒い雲がモクモクとこちらへ伸びてくる。
「じゃあ、ミッチェラちゃん、無効化魔法を発動させて!」
「はい、アウロラ隊長!」
ミッチェラが細く白い手を西の方に向けると、まるでキャンバスにあった青空の上に墨色の刷毛で塗ったようだった黒雲が、たちまち消えていく。
そして、そこに現れたのは2隻の双胴の巨大な飛行船と10隻の大型飛行船と数えきれないほどの数の快速戦闘船だった。高度は3千メートルちょっとだ。
コラット・キムリック少佐は、奇跡を見ているような気になった。
あと10分も飛べば黒雲の中に突入する、というときに、まるで墨を水で流したように空を覆っていた黒雲がなくなってしまったのだ。
そして雲があった場所には、信じられないほど巨大な双胴の飛行船と大きな飛行船と小型の飛行船が現われたのだ。
巨大な飛行船は10隻あり、地上の獣人族軍に向けて猛攻を加えている。
双胴の巨大な飛行船からは、次々と小型の飛行船が発着している。
《司令部、こちら キムリック戦闘隊。雲が払われ魔軍飛行船団が見えました。これより攻撃を開始します!》
《こちら司令部。了解!健闘を祈る!》
キムリック少佐はマソキのチャンネルを変える。
《全機へ告ぐ。全機へ告ぐ。訓練通りにやるんだ。
私と第1中隊は、前方右の巨大双胴飛行船を攻撃。スクークム大尉の第2中隊は、
前方左の巨大双胴飛行船を攻撃。シャンテイリー中尉の第3中隊とセイシェルワ中尉の第4中隊は
目標を自由に選んで攻撃。格闘戦以外は敵の機銃の射程外から攻撃すること。思う存分に暴れろ!突入ー!》
《《《《《《《《《《おーう!》》》》》》》》》》》
キムリック少佐はフルスロットルで高度をあげながらやや右旋回する。
敵船団より高空から攻撃するのだ。
ちらっと後ろを見ると彼の中隊の36機が彼に続いて上昇している。
正面下方を見ると、魔軍の快速戦闘船が数十機、こちらへ向かって来るが上昇力、速度もND-T3戦闘機とはくらべものにならないほど遅い。
4千メートルまで上昇したところで、ふたたび機首を巨大な双胴飛行船に向ける。
距離は約2千メートル。十分に100ミリ飛翔弾の射程距離だ。操縦桿を調整し、双胴飛行船が照準器の真ん中に来るようにする。
双胴飛行船の甲板からは、次々と快速戦闘船が離陸し、こちらに向かっている。
双胴飛行船とその周囲にいる巨大な単胴の飛行船からは、ひっきりなしに機銃射撃が行われているのが見えるが、射程外なので問題ない。
キムリック少佐は、飛翔弾発射装置のカバーを上げ、ボタンを押した。
シュバババババ―――――!
一斉に10発の飛翔弾が主翼の下から飛び出していく。
機体がぐっと軽くなったのを感じてキムリック少佐は機首を返し方向転換する。
後続のND-T3戦闘機も一斉に飛翔弾を発射し、続いて方向転換する。
少佐はすぐに次のターゲットを決める。
双胴飛行船の右を飛行している単胴の巨大飛行船を狙って、残っていた飛翔弾を発射する。
キムリック少佐の左前方に見える巨大な双胴飛行船に中隊が発射した300発の飛翔弾が吸い込まれて行ったと思った瞬間、大爆発が起こった。
巨大な双胴飛行船は、紅蓮の炎をまき散らして四つに割れて燃えながら落ちて行った。
ND-T3戦闘機は、重量があり、空気抵抗を増していた翼下の飛翔弾20発をすべて発射したことで、ND-T3戦闘機は身軽になり、魔軍の快速戦闘船相手に格闘戦を行えるのにベストになる。
「そんなバカな!『ヴィヤカラ・マハンナーガ』』が墜とされた?!」
旗艦の飛行巡洋艦の艦橋にいたゴルゴーン軍団長は唖然として燃えながら分散しつつ落ちていく飛行輸送戦艦を見ていた。
あとを追うように、もう一隻の飛行輸送戦艦も大爆発を起こし、巨大な双胴の船体を四散しながら燃えて落ちていく。
ほかの魔軍将校たちも唖然として見ている。
ほんの15分ほど前に、ゾオルの方から高速の飛行物体の集団が現われ、こちらに向かって来ていると報告があったばかりだ。
しかし、飛行船団は厭忌の者たちが作り出した雨雲で姿を隠して敵に発見されることなくゾオル郊外キロの目的地に到着した。
魔軍飛行船団は、ゾオル攻略部隊を降ろしたあと、飛行船のほとんどはアンターカ半島で待機している攻略部隊第二陣を乗せるために帰途についたところだった。
“マズい。これはマズい...”
状況を見てゴルゴーン軍団長は考えた。
ゴルゴーン軍団長のゾオル侵攻軍の主力は、攻略部隊の掩護をする“空飛ぶ巨山”と呼ばれる飛行輸送戦艦『ヴィヤカラ・マハンナーガ』2隻と“空飛ぶ要塞”と呼ばれる『ドゥルガ・ナーガ』飛行巡洋艦10隻だ。それに空飛ぶ艦隊の護衛および地上攻撃用に、200隻の快速飛行戦闘船『ラーヴァ』が2隻の『ヴィヤカラ・マハンナーガ』に搭載されている。
それが、大船団を隠していた雨雲が急速に消えたと思ったら、ゴマ粒のようなモノの集団が近づいて来て‐その速度は恐るべきものだった‐上空から飛行艦隊を攻撃したのだ。
敵の編隊から数百の白い糸のようなものが魔軍の飛行艦隊目がけて発射された―
と思ったら、2隻の飛行輸送戦艦『ヴィヤカラ・マハンナーガ』が大爆発し燃えながら墜落した。
続いて『ドゥルガ・ナーガ』飛行巡洋艦が2隻爆発して落下していった。
「このままでは、飛行艦隊は全滅するぞ! 『ラーヴァ』は太刀打ちできないのか?」
ゴルゴーン軍団長がそばにいる参謀や将校たちに聞く。
「はっ。『ラーヴァ』では歯が立たないようで、もうすでに30隻ほどが撃墜させられているとのことです!」
「いかん、このままではじきにこの旗艦も攻撃される!至急、地上に降下する。ほかの艦にも連絡しろ、いそげー!」




