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第23話 奴隷商人

 

「まいった。少しは計画性が必要だったみたいだ」


 俺は今、野宿なるものをしている。今はもう真夜中だ。満点の星空の下で俺は平原で一人焚火を(おこ)している。幸いなことに辺りに魔物の気配は感じない。


 《おいエノム。その王都に行ってどうするんじゃ? そんな召喚状なんて物は捨ててしまえばいいじゃろ》

「いや、そういったことをすると誰かに迷惑が掛かると悪いからそれはダメだ。俺も最初は無視しようと思ったけどさ。でもそんなことしたらタリナムの街の人達やシリウスが責任を取らされるかもしれないだろ? これは従うしかないんだよ」


 (はた)から見れば俺は頭のイカレた変人に見えるだろう。

 今、俺が話しかけてるのは『剣』だ。

 星明りの下、焚火の火がパチパチと音を立てている。そしてそこには真っ黒の髪と真っ黒の衣装を纏い、片手に持った不恰好な赤黒い剣に向かって独り言を言っている俺がいる。


 《ふん、まぁいいわい。俺様はお前がどうやって俺様を聖剣レーヴァテインにするのかを楽しみながら気長に待つわい》

「ああ、折角だから道中を楽しもうよ。俺は王都や王城を見てみたいしさ。それにシャロンって姫様がとんでもなく美人らしいぞ」

 《俺様が人族の女子(おなご)に興味あると思うか? まあ、それなりに人族の文化を知りたいとは思うがの。その姫に会ってどうするんじゃ? 奪うのか?》

「はあ!? レーヴァ何言ってんの、そんな分けないだろ!? 他の人の前で絶対に言うなよ、俺捕まっちゃうから!」

 《俺様の『声』が聴こえるのは【心眼】のスキルを持ったお前だけじゃろ。まあ、お前がどんなことをやろうが俺様には関係ない。姫を(さら)おうが王都に攻め入ろうがの》

「おいレーヴァ、物騒なことばっか言うの止めてよ」


 俺の相棒、魔剣レーヴァテイン。なんと意志ある伝説の魔剣だ。そしてその力は計り知れない程だ。

 ちょっと性格は難点だけどそれはそれで俺に合っていると思う。


「おっ、美味そうに焼けたぞ」

 俺は焚火で夜食を炙っている。タリナムの街で買ってきた丸パンを半分に切り、その上に干し肉とチーズ、玉ねぎのような野菜を載せたお手製ピザだ。香ばしい匂いとチーズの溶け具合が凄い美味そうだ。


「異世界にピザって食べ物あんのかな? なかったらピザ屋始めれば流行りそうだけどな」


 俺はタリナムの冒険者ギルドでオークの牙2本を銀貨6枚で買い取って貰った。そしてその銀貨で食糧や旅に必要な物を揃えた。何せ王都までは徒歩で3日は掛かるらしい。


 タリナムの街の自治会長が「早く行け早く行け」ってうるさいから殆んど準備らしいことはしていない。

 しかもこの街道を真っ直ぐ行けば王都に着くからって早々に出発させられてしまった。


「お、美味しい! ムグムグ。あー、最高に美味い! サバイバルにはやっぱり星空と焚火とピザは欠かせないな、ムグムグ」


 もう食料も余りないけど明日には王都に着きそうだ。

 まあ、いざとなればその辺の魔物で食べられそうなのを狩って食べるしかない。俺は魔物を食べることに関してはダンジョン生活で慣れてるからもう全然抵抗がない。


「あー、お腹一杯だよ。もう寝るぞ、レーヴァ」


 俺はレーヴァを鞘に戻しゴロンと横になった。星空を見上げる、美しく幻想的だ。この世界の夜空には青く光る月と赤く光る月がある。


「これ見るとやっぱり異世界なんだよな。王様かぁ、本当にいるんだもんな。いつもなにやってんだろ」


 俺を何のために呼び寄せるんだろうな。考えても分らないけど考えてしまう。


「!?」

 その時だ、夜空の下で俺に近づく気配を感じた。


【気配】のスキル、地味だけど凄い役に立つ。この感じだと気配は二つ。危険度は低そうだぞ。

 ちなみに俺はゴブリンロードとの戦いを終えた時、レベルが19まで上がっていた。


 正直、もう大抵の魔物には負ける気がしない。レーヴァの【魔剣の加護】のお陰もあるけどね。俺は横になりながらその二つの気配が近づいてくるのを待った。

 そして、その気配は焚火の前まで来ると俺に話しかけてきた。


「旦那、ちょっとワイらもここで焚火にあたらせて貰っていいかい? 丁度ワイらも向こうで野宿しとったんでね。この火が見えたんで来てみたんよ」

「ええ、どうぞ。俺はもう寝るつもりですけどね」


 俺は起き上がり声の主を見た。そこには神話やおとぎ話に出てくるような道化師のような格好をしたホビットと猫耳と尻尾、それに首輪をした女の子がいた。


「あの、なんですか? あなた達。明らかに普通じゃないんですけど」

「いやいや、旦那も人の事言えませんて。こんな場所に一人で、しかも真っ黒ですわ。まさに魔剣士ですやん」

「その子、どうしたの? そんなボロキレ着せてさ。それに女の子じゃないか」

「…………」


 猫の耳の少女は黙り込みじっと俺を見ている。

 俺はアルバスさんの冒険書に書かれていた多種族のことを思い出した。おそらく猫耳族の少女、しかも奴隷というやつだろうな。このホビット、ふざけた格好と態度、更にはこんな女の子(おそらく10歳くらい)に酷いことしやがって、懲らしめてやろう。


 よし、【心眼】を発動だ。 お前のような奴は信用できないからな。心を読んでやる。


「旦那、奴隷を知らないんで? ワイの奴隷をどうしようがワイの勝手ですやん。ワイは奴隷商人やってます」

(くっくっく、この田舎者のお人よしが。またクロロで稼がせて貰おうか。こういう奴はすぐに奴隷で騙される。まったくいいカモですわ)(心の声)


「!?」

 なんだって? こいつ俺を騙そうとしてるぞ。いい度胸だ。じゃあ、この女の子もグルだっていうのか?


「旦那どうしました? 奴隷が必要ならお売りいたしますよ。銀貨3枚でね」

(目が覚めたらもういない奴隷なんやけどね。それまで少しばかりの偽善に浸って下さいですわ)(心の声)


「へえ、その子いいね」

 この野郎、どうしてくれようか。お前の考えは全部読めてるんだよ。

 もちろん俺は奴隷なんていらないし、こいつをとっちめてやる。

 でもこの猫耳族の子は喋らないけど気にはなるな。よく見ると可愛いじゃないか。

 おっと、誤解しないでほしい、見たまんまの一般論を言っただけですから!





最後までお読み下さりありがとうございます。評価・ブクマをして頂けると更新の励みになります。

感想はどんなことでもありがたいです。


先日感想を頂きテンションとやる気が漲ってきました、ありがとうございました!

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