(35)騙されてるの?
伊武騎碧と伊豆海陽の決闘から、数日が経った。
分からなくなってしまっている、私がいた。今の活動が正しいのか、間違っているのか。先週出逢ったハシガミレイという若い命毘師、その護衛にいた女建毘師、そして直毘師の伊武騎、この三人のコトバが引っかかっていた。
NS……正直、本体を知らない。本部がどこにあり、どんな組織なのか、それさえも把握していない。ただ憎き犯罪者に復讐出来ればと思い、従ってきた。被害者の苦痛を和らげることが出来れば、と考えていた。
(連続殺人……大量殺戮……何なの? 彼女らはNSに対して警戒心、いいえ強い敵対心を持っているわ。……私の知らない、組織……)
何人もの処理を行なってきた私。確かに事情を知らない人からすれば、私の活動は連続殺人、そうなるのかもしれない。私以外の奉術師を含めれば、その処理人数は何倍にもなる。でも、彼女らはそれだけのことで言っているように感じなかった。
ふと、若い命毘師のコトバを思い出す。
(国民を殺している? 確か、そう言ってたような……)
全く理解出来ていなかった。奉術師による復讐代行活動は、殺人犯だけだ。
(もしかして、NSは他でも殺人活動しているの?)
警察だけでなく、政治団体や司法組織も協力している、と聞いている。今頃になって真剣に考え始めた。思っている以上に、この組織は大きく、強力なのかもしれない。
『利用されているだけ』
彼女――端上レイのコトバが脳裏を過る。
(私、NSに、操られてる? 騙されてるの?)
組織に対する不安が膨れ上がっていく。不信も同様に。でも、調べようがない。陽に訊ねることも躊躇う。彼は警察関係者の養父を持つ。組織に近い人物だ。
(陽も、私を、騙しているの?)
とてつもなく落ち込んでいく私がいた。もし陽が組織の一員として全てを理解し、行動しているとすれば、私はただ利用されているに過ぎない。そう思うと辛くなってきた。
私が処理し、命毘師によって蘇生した兵庫県議会議員の回道は、再び亡くなった。そのニュースが飛び込んできたのは、直毘師二人の決闘の二日後だ。
決闘の日は、そのまま陽と共に対象者のいる徳島刑務所へ向かい、闇儡を遂行している。その後、疲労していた陽を名古屋まで送って行った。その際、彼は回道について何も触れていない。
回道に対して別の奉術師が、NSの通達で動いたと察する。仕方がない……処理に失敗したことになった私に、同対象者に対する再度の依頼はない。何故なら、依頼人の再闇喰はあり得ない。つまり、直毘師によって浮遊する幽禍での処理と予想出来るからだ。
モヤモヤした気持ちが数日続く中、別のことを考え始める。
(陽も、利用されているとしたら……)
私と同じように、彼も組織に騙され、利用されている可能性も否定出来ない。
(彼には訊けない。でも誰に訊けば……どうすればいいの?)
インターネットで調べても、組織のことなど出て来るはずもない。組織専用のSNSで誰かに訊ねても応えないだろうし、その内容は組織がチェックしているだろう。
(そもそも、ネス……ダークネスってどういう意味なんだろう?)
その辺りから疑問を抱くようになっていた。その程度なら、陽とコンビを組む日にでも訊ねようと思ったが、その日は暫くなかった。
これまでと違った孤独感を何日も味わいながら、私は一般の生活を過ごす。




