(23)パチンコ
2月22日、日曜の朝。
対象者である村井俊司に関する依頼人から得た情報をもとに、行動に移す。
村井は大抵、徒歩か電車移動のため、私の愛車を30分ほど離れた駅近パーキングに、駐車した。
アパートの見える電柱の影から見張り始めたのは、朝8時過ぎ。彼の日曜の行動パターンは、午前中はパチンコが主。情報通り、9時前にアパート二階から出てきた。入手した写真で、対象者確認。尾行の開始。
今日もお気に入りのミリタリーコートを着ている私は、フードをかぶり、電柱間隔二本分ほどの距離を保ちながら、追った。
ターゲットは駅方面に歩き、電車移動。三つ先の駅で降車。徒歩5分ほどのパチンコ店敷地に入った。既に15、6人ほど並んでいる店舗入口手前の列後ろに、立った。
(寒いのに、パチンコのために並ぶんだぁ。依存症が多いと聞いたことあるけど……何が楽しんだろう?)
パチンコに興味のない私は、そう思いながら敷地外の自販機を盾にして見張り続ける。列に並ぶ人が徐々に増えた頃、私も並んだ。闇嘔を行なうための場所の候補の一つが、パチンコ店内だからだ。
依頼人の情報では、約三、四時間パチンコをし、ランチ後、午後の行動があるとのこと。その行動パターンは、パチンコに負ければネットカフェ、勝てば風俗店……が多いらしいため、その二ヶ所での闇嘔は困難と判断。
(でも、彼女は何でこんな男と一度は結婚しようと思ったのだろうか?)
疑問だった。
対象者の日曜の夜は、場所が定まっていない。ただ、友人や知人と飲食し、0時頃まで呑むらしい。店舗にもよるが、闇嘔場所の候補になる。最終的には、酒酔いして帰宅する路上での闇嘔を、想定していた。
10時の店舗オープンと同時に、列が前に動き出す。何度も言うが、パチンコ店に入ったことすらない私は、ゲームセンターの雰囲気をイメージしていた。でも、違った。
(何でこんなに派手なの。奇麗だけど、こんな贅沢さはいらないでしょ!)
少しムっとしたのが、正直な気持ち。
遊ぶ機械がずらっと並び、その間に椅子の行列が二列。同様のセットがいくつも並んでおり、どこも同じに見えるのだから、困惑しないわけにはいかない。しばらくして、ターゲットを探した。四列目奥側の椅子に座り、縦長の機械に向かって、何やら腕を動かしている村井を発見。
彼に近づく前に、他の客のパチンコする動作で、勉強。お金を入れる所、カードを差し込む所、機械を操作する所、などなど。後は機械をガラス越しにジッと見ている。それだけの動作で、(パチンコって暇そうね……)と感じた。
私はパチンコもせず、彼の姿が見える所で遠目で見ていたが、15分もしないうちに席を立った。
(ぇっ、もう終わり?)
違った。彼はキョロキョロ機械を見つめながら、別の席に座る。
(あぁ〜、席って自由に替えられるってこと、ね!?)
しばらくして、制服を着た若い女子店員が、私を不思議そうに見ていることに気づく。
(そりゃぁ、そうよね。ここで何もしなきゃ、普通怪しむわね。……おまけに……コート、暑くなってきた……)
思い切って、その女子店員に声を掛ける。彼女は笑顔を作ったが、頬も引き攣っており、目も笑ってない。
「すみません。実は二、三時間暇つぶしでパチンコしようと思ったんですが……実は初めてで、他のお客さんを見て覚えようかと。もしお忙しくなければ、遊び方を教えて頂けませんか?」
「そうだったんですね」
安心したのか、彼女の目が笑い、優しく応えてくれる。
「大丈夫ですよ。では、先ずはコチラへ」
素人相手に一から丁寧に教えてくれる彼女。玉を買い、試し打ちまで付き合ってくれた。一通り覚えた私は、彼女にお礼を言い、そしてターゲット村井の座る同列の離れた席に座り、打ち始めた。
チラチラ彼を意識しながら、適当に打って30分ほどした時、チャンスが向こうから訪れる。村井自身から、私の席の二つ隣りに移動してきた。さらに10分ほどした時、突然私の操作する縦長四角の機械が、派手な音楽とネオンで賑やかに。何やら銀玉がドンドン、出てきた。
(何これ? 当たり?)




