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(12)父らしき男

 

 初めて父らしき男自身から、私との距離を縮めてきた。上着の内ポケットから手帳を取り出し、挟んであった一枚の紙を見せてくれた。手渡されたのは、写真。

 男の横に、赤ん坊を抱いている女性が立っている。若々しき頃の母の姿だった。瞬間、私の許しなしに、一筋の涙が頬を濡らした。

 しかし涙を拭き、すぐに相対あいたいした。今はこの祖父、父と名乗る二人に対する不安と怒りを収めたいからだ。


 それを察したのか、初めて聞かせる湊孝博の渋い声。


「お母さんの事件は新聞で知っていました。ただ、お母さんとの約束で耶都希の前に出ることができなかったのです。今回の依頼人の名前が“三浦耶都希”であることに驚きました。私は父と相談し、もし私の子なら“力”を備えているかもしれない、その時は依頼を受けることができない……耶都希はさらに闇に冒されるだろうと……。

 私は居ても立ってもいられませんでした。何日も悩みました。……そして耶都希の代わりに、私が依頼人になると決めたのです。私に力はありません。力のない私が依頼することは問題ないのです。先祖代々隔世遺伝が多く、父から耶都希に受け継がれたことになったわけです。

 今日は父と相談し、耶都希に会うためについて来ました。お母さんも許してくれる……そう思ったからです」


 穏やかに話す父と名乗る男のその言葉は、私の怒りを少しだが鎮めてくれた。母の仇を、復讐を、彼が行なってくれる。覚悟してここに来、決意してこの場にいる私の目的が達せられるのだ。


 多少落ち着いたこともあり、何気なく訊ねてみた。あり触れた質問かもしれない。


「なぜ、母と別れたのですか?」


 母の娘の立場として知っておきたかった。自分の寿命を減らしてまで、母の復讐をしてくれるという父を名乗る男。十五年前に別れているのだから、心身共に赤の他人のはずである。


「お母さんと結婚する当時、私の家系のことは伝えていました。もちろん、可能性の話しであって、絶対ではないということも……納得済みで一緒になりました。しかし、耶都希が産まれ、大きくなるにつれ、お母さんは耶都希の未来を想い、『普通の女の子として人生を送って欲しい』と願うようになりました。まだ力があるかどうかも分かりませんでしたが、私はお母さんの想いを受け入れました。

 私と一緒にいることで、力の存在を知り、危険な目に会う可能性を考えれば、みなと家との縁を断ち切ることがベストだと判断したのです。それが別れるキッカケです。私たちは愛し合っていました。ですが、耶都希のことがとても大切だったのです。

 別れる時、お母さんからお願いされていることがあります。お母さんに何かあった場合、あるいは耶都希が力の存在を知り、耶都希自身がその道を選ぶ場合は、私の方で預かり、守って欲しいということでした。

 ……ただ私は、……こんな日が本当に来るとは、思ってもいなかったのです」


 微動たりともせず、黙って耳を傾ける私。素直に応えてくれた彼の話しが終わっても、その場に相応ふさわしい言葉を見つけることが出来なかった。


 日没まで時間があったが、曇っているせいもあって徐々に減光していく神社境内。

 無言が続く三人だったが、先に源翠げんすい氏から提案してくる。


「耶都希さん、あなた自身の道は自分でよくお考えなさい。特に急ぐことではありません。今回のお母さんの件は、こちらに任せて頂けますか? 犯人は四人いますが、主犯の一人に絞ります。主犯は刑務所内にいますので二日以内には処理できます。それまでは冷静になってお待ちください。そして……」


 少し間を置かれた。


「……もし、耶都希さん自身がこの力を活かす生き方を選択するのであれば、いつでも孝博に電話ください」


 タイミングよく手渡された、孝博氏の携帯電話が記されたメモ。


「かける時は、必ず公衆電話からかけてください」


 それを私が受け取ると、孝博氏が続けた。


「もしこの道を選ぶなら、覚悟しておいてください。とてつもなく嫌な思い、苦しい経験をしなければなりません。人の死に大きく関わります。それに、依頼人の闇を扱うことになります。闇は人を病気にし、自分を痛めつけます。時には他人の生命をも侵す、大きなエネルギーを持っています。その闇を一旦、自分の中に閉じ込めなければならないため、強靭な精神が必要とされます。鍛錬しなければなりません。

 だからお母さんは『耶都希を普通の女の子にしたい』と願ったのです」


(お母さん)


 祖父と名乗った源翠氏と、父かもしれない孝博氏のコトバを完全ではないが理解し、それに従うことにした。


 


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