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6、ネコ

そのネコを、僕は気品ネコと呼んだ。


いつの頃か、近所の神社に居座るようになり、神主さんが世話している。白っぽく輝く毛並、スラリと足が長く、歩く時はアゴを持ち上げる。その仕草が珍しく思った。


「ほら、美味いやつあるよ」


僕はランドセルから猫オヤツを取り出した。封を切って見せつけてやる。


すると気品ネコは素早く跳んで、包装紙ごとオヤツを奪った。それから本殿の狭い隙間に逃げられた。


「可愛げのない奴だな」


隙間を睨んでいると、不意に背後から声をかけられた。耳慣れた声色に、その場で飛び跳ねそうになった。


「神社ネコちゃんだ。何か食べてるの?」


僕の隣にクラスメートが立つ――ピンクのランドセルが視界の端で揺れた。とたんに僕は全身が硬直した。


少し会話を重ねたけど、まったく頭に入ってこない。


「ばいばい。また明日ね」


クラスメートが、ランドセルを揺らしながら駆け去っていく。その姿が見えなくなった頃、僕は気品ネコを叱った。


「もうちょっとサービスしろって。そうすりゃ引き止められたのに」


ネコは僕の事なんて気にしていない、顔を洗う仕草で答えた。オヤツ分くらい働けよと、ため息がもれた。


大体こんな毎日だ。下校したら神社に直行、オヤツで気品ネコを釣る。そしてクラスメートの女の子と顔を合わせて、少しだけ喋る。数分にも満たない時間のために、僕は苦労させられた。


「高いんだよ、ネコのオヤツ……」


あのネコは味の好みがうるさい。カリカリなんて見向きもせず、決まったブランド以外は口にしないのだ。


だからスーパーやドラッグストアを梯子はしごして最安値を探し回る。土日には、遠い街まで自転車を漕ぐこともある。それでも小遣いに限界はあった。月の半ばだというのに、早くも全額を使い果たしてしまっていた。


「何だか、今日はロクな事がないな」


この日は朝イチから母さんに叱られた。小遣いをせびったせいだ。それから登校中に水たまりで転び、運悪くいじめっ子に目撃された。もちろんイジり倒された。返ってきたテストも散々で、ランドセルの奥に隠さざるを得なかった。


極めつけは、この雨――。神社の玉砂利も木々も、色濃く染まる。人の姿はなく、いつもより寂し気だった。


「今日はあの子も来ないよな……」


本殿の屋根の下、座り込んだ。すると気品ネコがやって来た。僕の足を念入りに嗅ぐと、その白い身体を乗せてきた。


初めての事に戸惑う僕の膝の上で――ネコがそっと寝込んだ。



ー完ー



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