41、街
渇ききった大地が視界を埋め尽くしていた。吹き付ける埃の帯びた風――タキジは頭から被るフードを強く握りしめて、言った。
「砂嵐だぞ」
連れ合いのレンが地面で丸くなる。その上からタキジが覆いかぶさった。
次の瞬間。不吉な唸声とともに暴風が押し寄せる。空は閉ざされ、真夜中のように暗くなった。
「まだだレン、伏せてろ」
タキジは這いつくばりながら願った。早く抜けてしまえ――想いが通じたか偶然か、嵐は間もなく通り過ぎていった。
その跡には見慣れた光景が広がる。大小の砂丘が段々とした丘をつくる。動くものはない。こうして眺めていると、時が止まったかのように錯覚する。傾いた鉄塔から崩れ落ちる砂の塊が、世界の無常を知らせていた。
「行くか。もうじき鳥取を抜けるはずだ」
タキジは歩もうとした、しかしレンは膝をついたままだ。
「ごめん、力が入らない」
「起こしてやる」
タキジは、掴んだ手を強く引いた。しかしレンは自身の足で立つ事ができない。タキジにもたれかかりながら倒れ込んでしまった。
華奢な肩を抱きとめ、ようやく理解する。発熱だ。真昼の鉄板のように肌が熱い。
「お前、こんなになって……!」
「私はもう、ここまでかな。だから見捨てて」
2人のもとに痛烈な日差しが襲う。今や雲ひとつない、呪わしいほどの快晴だ。
タキジはレンを見据える間も、首筋が焼けるのを感じた。それでも計算は働かなかった。水の残り、街までの距離、合理的な移動法と生存戦略――その全てが頭の外にあった。
タキジは慣れた仕草でレンに肩を貸した。
「ゴチャゴチャ抜かすな。いくぞ」
「私はもう無理だよ」
「じゃあオレもここで死ぬ。オレを殺したくなきゃ根性を見せろ」
強情なタキジに、レンも力なく笑った。そして寄り添い合いながら歩を進める。
日差しが痛烈に体を焼く。それを遮るものはない。拡大する砂地は2人の先を飲み込んでいる。この世の全てが砂に覆われたのではないか――そう感じるほどに。
「しっかりしろ、レン。もうすぐ次の街だぞ」
景色は何も変わらない。それでもタキジは励まし続けた。できれば口を閉じていたい、しかし、声をかけ続けないと不安に駆られる。何か良からぬものがレンを連れ去ってしまいそうな気がして。
死神はいるのか。砂はどこまで続くのか。2人にとって些細な事だった。意識が朦朧とする中、ささやき声を繰り返すばかりだった。
――私は見捨てて。
――嫌だね。
――タキジなら砂を越えられる。
――お前だって。
――私はもう無理。
――ふざけるな。
――置いていって。
――絶対に嫌だ。
口の渇きも忘れて、短く繰り返す。そして一歩ずつ、終わりのない砂地を歩んでいった。日が沈み、星が見えても、足取りは変わらなかった。
だがタキジは、視界に薄明るいものを見た。ホタルのような、あるいは星屑でも落ちたような細やかな輝き。
それは街の灯火、待ちに待った文明の光だった――。
ー完ー




