27、居間
平凡で変わりない日常。似たりよったりの毎日が過ぎるうち、しょうもない口癖ができた。
「なんか面白いことねぇかな」
あてどもなく動画を漁り、SNSをスクロール。他にやりたい事も、出かけたい場所もない。ただ時間だけが溶けていく。
今夜もきっと同じだろう、そしてこの先も退屈な日々が続くはず。そう考えていた。
その電話が鳴るまでは――。
「着信? 珍しいな……」
ろくに確かめもせず応答した。相手が部活の先輩だとしたら、コール音の数だけ叱責される。迷惑電話だったら切れば良い。応答にためらいは無かった。
電話の主は異様としか言えなかった。
――私メリーさん。今、あなたの街に着いたの。
とっさに切って、思わず笑いが吹き出してきた。どこの暇人だろうと思う。
「機械音声まで用意して、わざわざ都市伝説のマネ? バカじゃねぇの」
ふたたび着信。画面には「不明な電話番号」とある。相手は調子に乗っているらしい。ひたすら『拒否』を選択して、止まるのを待った。
だが、次に届いた通知には寒気を覚えた。SNS経由でチャットが送られたのだ。
――私、メリーさん。今あなたのマンションの前にいるの。
スマホを握る手が微かに震えた。相手のアカウントをタップしてみると『退会したユーザー』と表示された。その瞬間、背筋に冷たいものが落ちてゆく。
「おい、何だよコレは!」
思わずスマホを投げ捨てた。その間にも通知はひっきりなしに届く。
――今、マンションの階段を
――今、3階まであがって
遠目からでもわかる。スマホのホーム画面に通知がひっきりなしに更新されてゆく。
へたりこみ、震えるしかなかった。なぜオレが標的にされたのか。何かの制裁なのか、だとしたらオレに罪なんてない――いや、浮かび上がる光景に罪悪感が伴った。心当たりを見つけるたびに、声を漏らしていた。
「ごみ捨ての曜日は守るし、赤信号はちゃんと待つ。それと、借りっぱなしの50円も絶対に返す……!」
立て続けに通知を鳴らすスマホが、やがて静かになった。数をそっと数えてみる。1、2、3。
10を数えた時、ほんの僅かに気が緩んだ。
「許された……?」
だがその時だ。背後に何かがある。首筋を悪寒が駆け抜けた。
これは視線だ。誰かがすぐそばでオレを見ている。
「た、助けて……」
そんな言葉をひりだすのがやっとだった。そこで、耳元で声を聞いた。機械音声の、平たい口調だった。
――私メリーさん。今、あなたの居間にいるのブフッ。
ー完ー




