26、占い
「今日はね、スピリチュアルの闇を暴いていこうと思います!」
スマホの前で過熱気味に語る男は、辺りの様子を映した。そこは繁華街で、片隅には『占いの館』の看板が見えた。
「これから占いに行きますが、嘘八百の相談を持ちかけます。そんで相手がどこで気づくか、検証してみましょう」
それから足を運んだ。スマホはバッグにしまい、音声だけを拾う形になる。
「意外と本格的ですね」
配信者はかすかに気圧された。光源の絞られた店内にただよう濃いアロマの匂い、そしてかすかに鳴る音楽が、絶妙な空気感を生み出していた。
「あの、すみません」
受付もスタッフも見当たらず、問いかけてみる。すると不意に、背後から声が聞こえた。
「いらっしゃい。初めての方よね?」
「うわぁ!?」
配信者は腰を抜かしそうになる。出入り口付近に占い師が、気配もなく佇んでいたのだ。
「驚かせたわね。座って」
占い師の女は、厚手のローブを頭から被っていた。袖や裾にぶら下がる装飾品がカタカタと鳴った。それも雰囲気作りかと、配信者は思った。
お互いが浅い椅子に腰掛けて、向き合う。
「僕はけっこう悩んでまして。休職中なんです。この先の人生どうなるかなって」
彼は配信で成功をおさめている。すでに遊んで暮らせるだけの金を持っていたが、殊更、暗い口調を選んだ。
占い師は、カードをシャッフルさせながら問いかけた。
「カバン、置いたら?」
「えっ?」
「足元に荷物入れがあるから」
配信者はカバンを膝上に置いていた。足元では、音声をキレイに拾えるか分からない。「おかまいなく」とだけ返した。
「あなたは初回だから、出だし分を無料にしてあげるわ」
「どうも、助かります」
占い師は卓上にカードの山を起き、虚空で両手を彷徨わせた。まるで見えない何かを撫でるかのように。
(もったいぶりやがって、エセだろうが)
その手が止まると、1枚、2枚とカードを抜き取ってゆく。いずれも重苦しく、苦悶の表情の描かれたものだった。
眺めていると、胸が一瞬だけ締め付けられる。それでも所詮はくじびきだろうと、すぐに気持ちを持ち直した。
「業火の咎人、それと裸足の逃避行……。ちょっと可哀想ね」
「何かわかったんです?」
「1枚目は、罪深さにより断罪されて、焼き殺される暗示。2枚目は、身一つで都落ちする貴族の男。かなり厳しい結果かしらね」
配信者は、みぞおちでも貫かれた気分になる。焼かれて、都落ちとは――。真っ先に思い浮かべるのは炎上騒動だった。
今後何かしら不手際があり、炎上してしまえばどうか。配信収入の激減どころか、広告の違約金まで求められかねない。
静かな時が流れた。それは彼にとって冗長にも感じられた。
「具体的には、どうなるんです?」尋ねる声は、少しうわずった。
「はい。無料分はここまで。お引き取りください」
「えっ! 最後まで続けてくださいよ、お金も払いますし!」
占い師は手を止めて、押し黙った。眼深にかぶるローブの中から、鋭い眼光が光るようだった。
「お断りよ。あなたには、何か良からぬ意図が感じられるから」
配信者が、思わずカバンに触れた。そこで占い師は、ふぅっと息を吐いた。
――だからね、あなたには診断を売らない事にするわ。
ー完ー




