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24、神社

子供の頃、近所の神社に足繁く通った。そこは地方か人の集まるような立派な大社ではなく、こじんまりとしていた。


 神様を信じてはいないし、あやかしの類と出くわした経験もない。ただ、豊かな緑を見ていると心が落ち着くのだ。


 親と喧嘩した時や受験で伸び悩んでいた時には、特に世話になった。こっそりお菓子を持ち込んでは長居する。日暮れを迎える頃には、日常へと戻る気分になっていた。


「何年ぶりだろ、ここに来るのも」


 草木の生い茂る中にポツリと見える鳥居。くぐれば緩やかな上り坂で、奥に本殿がある。


 そこで何か「おかえり」「ひさしぶり」という声は聞こえない。ただ、幼い頃と同じ光景を目にしただけだった。


「変わらないな、ここも……」


 陽に焼けて色褪せたベンチに腰掛けた。人の気配はないが、ホウキではいた跡が新しい。手入れは今も続いている事が嬉しく思う。


 そんな懐かしさに緩んだ心は、徐々に沈んでいった。


「オレは、どうするべきだったのかな」


 先日、遠距離恋愛の恋人と別れた。お互いに悪くは無かったと思うし、未練もある。ただ巡り合わせだけが悪かったとしか言えなかった。


「結局は、またここに逃げ込んだのか」 


 低い笑いが込み上げてきた。この先も変わらない、変われない。静けさに慰められては無機質な日常へ帰っていく。自分にはそれがお似合いなのだろう。


「なんだ、あれ?」


 ふと、視界に引っかかりを覚えて、足を向けてみる。そこには、レンガで仕切られた小さな花壇が出来ていた。


 かすかに胸がざわつく。土足で荒らされた気分だ。それも、看板の不格好な文字を見ると、気持ちも落ち着いた。


「近所の幼稚園か。いつの間にこんな事を?」


 まだ芽吹きを迎えてはいない。湿った土を眺めていると、ジワジワと熱いものが胸に染み込んでいった。


「そうだよな。変わらないものなんて、たぶん無い」


 同じままであるはずがない。そう感じた瞬間にはスマホを手にとって、メッセージを送った。


「もう一度だけ話せないかな?」


 返事を待たずにスマホをしまう。そして鼻から強く息を吸い込んだ。土と草木の濃い薫りが、心まで澄み渡るようだった。


「また世話になったね。助かったよ」


 次に取り出したのはペットボトルだ。封を切ると、炭酸が弾けて飛沫が散った。そして喉を鳴らしながら一気に飲む。


 呼吸を忘れるほどの爽快感が全身を貫いた。口を離した時、大きな息をついた。格別に感じた。


 神社で飲むジンジャーエールは――。



ー完ー

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