21、もやし
暗い洞窟に声が響く――キリキリ働け。
もはや聞き慣れたもので、作業に支障はない。むしろ手を休めればムチが飛んでくるだろう。
岩盤の上で這いつくばる。そして掲げた両手を仰ぐようにして下ろし、また掲げる。その間、呪文も欠かしてはならない。
「目覚めよ、芽吹け。目覚めよ……」
ずらりと並ぶ黒染めのビンに、繰り返し唱える。
(こうまでして生きる意味は何だ)
この仕事は何年も続いた。憤りは、何度も吹き出してくるが、懸命に抑え込んだ。養うべき家族がいる。ならば働くしかないのだ。
やがて見張りの声が轟いた。
「作業、止め! 報告!」
オレたちはビンの中を覗き込み、ため息を漏らした。豆は豆のままで芽吹く気配がない。
そこで誰かが叫んだ。「出ました!」
その男は見張りに労われた。そして脇に控えた美しい少年から、一つまみの炒り豆を受けとる。彼は豪華な晩飯にありついたのだ。
「もやし窟を閉める! 退散しろ!」
成果のないオレは、もやしの2本だけが与えられた。家路につく足が重たい。
「おかえり兄さん!」
あばら家に戻ると、弟が出迎えてくれた。オレはもやしを2本とも突き出した。
「今日こそは炒り豆を狙ったんだが」
「気にしないで。それより兄さんの分は?」
「帰りがけに食ってしまった」
嘘だと勘付かれたようだが、貫き通した。可愛い弟のためならば、空腹は我慢できる。
そう、弟はカワイイ。肉親と言うだけで愛情が湧くのに、本当に美しい顔をしていてもう、どうしようカワイイ。
弟が、串に通したもやしを火にかけた時――突然ドアが開かれた。土足で踏み込んだ連中は上等な制服を着ていた。
「騒ぐな、中央からだ」
男がそう宣言すると、弟にねちっこい視線を向けた。
「喜べ。お前さんは統括長に見初められたぞ。御殿に来るように」
男が手を伸ばすのを、オレは遮った。
「待て、弟はまだ子供だ。代わりにオレが」
「ゴリラ男に用などあるか。さがっていろ」
弟は視線をさまよわせた。オレを見て、使いの男に目を向けて、立ち上がった――。
「兄さん、僕なら大丈夫」そう言い残して立ち去っていった。
オレは膝から崩れ落ちた。世界が反転したような目眩、頭痛が押し寄せてくる。奪われたものが多すぎた。満足な食事や寝床、自由な生き方、そして弟までも――。
「許さんぞ、腐った豚どもめ!」
床を拳で殴りつけた。囲炉裏の炭が崩れて、炎は高く燃え盛った。
火が、串刺しのもやしに燃え移り、呆気なく燃やし尽くした――。
ー完ー




