17、トロル
原野を颯爽と走るトロルの集団があった。
少し遅れた位置に、一匹のトロルが走っていた。走り方は仲間と比べて不格好で、息も絶え絶えだった。
先頭を行くトロルロードが怒鳴った。
「遅いぞアカハナ、おいてくぞ!」
「す、すみませぇ〜〜ん」
その叱責に、他のトロルたちはニヤニヤ笑った。
叱られた鈍足のトロルは、周りからアカハナと呼ばれた。いつも鼻先が赤く腫れていたからだ。ぼんやりした性格も相まって、仲間だけでなく子供から笑われる事もしばしば。
「先を急ぐぞ!」
アカハナを待たずに、トロルロードは仲間を引き連れて走った。
宵のうちに『天満高原』に辿り着きたかった。そこには黄金アゲハという希少種が、一夜だけ現れる。金色の鱗粉が万病に効くと言われ、流行病の兆候が見られる彼の村には、是が非でも必要なものだった。
やがて彼らは天満高原に辿り着いた――。
まばゆい光がフワリと浮かんでいる。アゲハ蝶が1羽だけ、夜空を舞っていた。青い月の下で、ちらちらと降り注ぐ金色の鱗粉――さながら流星のようだ。皆が息を飲む、特に若いトロルは見とれてしまい、我を失った。
そこでトロルロードが命じた。「かかれ!」
網を片手に走り出すトロル達。彼らも必死だ、身のこなしも素早かった。しかしアゲハは華麗にかわして宙空に逃れた。
その機を待ち受けたトロルロードが、風のように走り、跳んだ。しかし僅かに及ばず、手のひらは虚空を切る。
アゲハは羽ばたきながら遠のいていく――近くの森の方へと消えた。
「何としてでも見つけ出せ!」
一斉に森の中を捜索した。しかし鬱蒼と茂る木々が邪魔をして、アゲハどころか鱗粉すら見当たらない。
「夜が明けたら、いよいよ見つけられんぞ!」
皆が焦りに苛立つ。そこへ、ようやくアカハナが追いついた。
「今、何してるんですか?」
誰も相手をしなかった。アゲハ探しに躍起だ。
「ちょっと、休ませてもらおう……」
アカハナは木の幹にもたれかかって、荒い息を整えた。右に左に行き交う仲間たちは血眼で、揃いも揃って悪鬼のような形相だ。
「おっかないよ皆して……おや?」
眼の前がふと明るくなって、手を伸ばした。
「おいで」と呼びかけた。その光は、探るようにアカハナの頭上を泳いだ。
「怖がってるの? 悪いことなんてしないよ。村に招待したいだけ」
口調はどこまでも優しく、穏やかだった。
するとその光は、迷いを見せたものの、やがてアカハナの指先に降りた。羽を静かに閉じる姿には、疲労らしきものが感じられた。
「ねぇ、隊長」
「うるさい、些末なことは後にしろ!」
「金ピカのアゲハを見つけましたけど」
「そんなもの後に……本当か!?」
こうして黄金アゲハを竹籠に捕まえると、村に連れ帰った。村人たちはもちろん大喜び。
特にアカハナの大活躍は皆で称えた。親しみも込めて、このように語り継がれた。
トロくさいトロルが村を救ってくれた――と。
ー完ー




