第十四話「戦力外通告」
「ありったけのニトロオーブが欲しいんだ」
「ダメに決まってるだろ、こんな洞窟で使ったら崩壊して、みんな死ぬわ」
そんな会話をしていたのは、ダンジョンに入って三時間後の話だ。
まず最初から説明しよう。
――――――――――――――――――――
俺たちは3人でダンジョンにやって来た。
ダンジョンに入る直前、ロザリーが俺とレオに戦力外通告をだした。
「ふむ。アルとレオは後ろにいろ」
「「……なんで?」」
「戦力外だからだ」
レオが口を挟んだが――
「いや、俺っちは一応スキルで」
「転写能力で何をするんだ。敵の顔を描いて何になる」
ロザリーにあっさりと論破された。俺も似たようなものだ。【錬金化学・極】は確かに強力なスキルだが、戦闘向きではない。爆弾を作れるが、その爆弾を安全圏から投げるのはまた別の話だ。
こうして俺とレオは、ロザリーの背中をひたすら追いかけ、戦闘らしいことは何もしなかった。というか、彼女の速度に付いていくだけで死にそうだった。
「ハァハァ……アル。俺っち帰ったら、ダンジョンみたいな狭い場所でも……楽に移動できる乗り物の設計図、書くよ……」
「ハァハァ……賛成だ。俺の時代に流行った『自転車』の仕組みなら分かるから、手伝うよ……」
俺とレオが情けない会話をしながら肩で息をしていると、先頭を行くロザリーが立ち止まり、静かに振り返った。
「ふむ、最下層に着いたみたいだ。アル、レオ見てみろ。ドラゴンだ」
――――――――――――――――――――
広い。ダンジョンの最下層は、まるで大聖堂の内部のように天井が高く、左右も果てしなく広がっていた。壁は黒い岩が剥き出しで、あちこちが青白く光っている。
そして、その中心にドラゴンがいた。
漆黒の鱗。一枚一枚が俺の胸ほどの大きさがある。それが幾千と折り重なって、山のような巨体を形作っている。頭から尾の先まで、優に三十メートルは超えるだろう。翼を畳んで鎮座するその姿は、まさにダンジョンのボスという風格があった。本物の、ドラゴンだ。
俺はその迫力に思わず一歩後退した。が隣ではレオとロザリーが小声でブツブツ言っている。
「……あのウロコの重なり方は見たことが無いよ。翼の膜の面積から飛行速度を逆算すると……うーんだけど、重さを考えると……興味深いなあ」
「ふむ、レオの言う通り興味深いな。生け捕りにして研究するべきか…………なあ、アル。飼っていいか?」
「ロザリー。そんな捨て猫を拾ってきた子供みたいな目で俺を見ても答えは一つだ。駄目だ」
ロザリーがビックリした顔をしてくるが無視だ。あんなのを飼ったら食費で破産するわ。
「冗談はさておき……ふむ。さすがの私も、まともにやり合ったら勝てそうにないな。あのドラゴン強いぞ」
俺はロザリーの横顔を見た。表情は相変わらず涼しい。だが、その目が珍しく真剣に、漆黒のドラゴンを観察していた。
「……諦めて帰る?」
「正直、私も帰りたい。あの鱗を貫く手段が今の私にはない。物理も魔法も、どちらも通りそうにないな。だがダンジョンコアは欲しい」
そしてロザリーが俺を見た。
「だからアル、ありったけのニトロオーブが欲しいんだ」
「ダメに決まってるだろ。こんな洞窟で使ったら崩壊して、みんな死ぬわ」
「崩壊しない。多分」
「根拠は?」
「爆発の反動を鱗の硬度に集中させれば理論上は――」
「理論上! 理論上で死にたくない!」
俺たちがドラゴンを遠巻きに見ながら、あーだこーだとゴチャゴチャ言い合っていると、不意に地響きのような声が響いた。
「エルフども。戦うのか戦わないのか、どっちだ?」
俺たちは飛び上がった。ドラゴンが、喋った。
「ふむ、知能のある爬虫類だったか。やはり飼いたいな」
ロザリーが感心したように顎に手をやる。その不敵な態度に、ドラゴンの瞳に怒りの色が宿った。
「ハッハッハ! 破壊の大精霊と言われた俺様を爬虫類呼びか。……死ね」
ドラゴンが大きく口を開いた。
「伏せろ!」
俺の叫びと同時に、猛烈なブレスが放たれた。俺たちは必死に地面を転がり、ギリギリでそれをかわす。背後の岩壁が溶岩のように溶けていた。
「ふむ……」
ロザリーが立ち上がり、溶けた岩壁を冷静に観察して呟いた。
「そのブレスでダンジョンが破壊できないなら、強度は十分だな。よし、大丈夫だ」
俺が何が大丈夫なんだ、と思った瞬間。ロザリーはマジックバッグから、俺が作った特大のニトロオーブを取り出した。
「ロザリー、まってくれ」
「使い方はありったけの魔力を注いで投げるんだったか?アル、レオ耳を塞ぐんだ」
ロザリーはニトロオーブにどす黒い過剰な魔力を注ぎ込み、満面の笑みでドラゴンへ向かって投げつけた。
――ドォォォォォォン!!!
視界が真っ白に染まる。凄まじい爆風が俺たちの体を木の葉のように吹き飛ばした。
背中をダンジョンの壁に強く打ち付けられ衝撃が全身を駆け巡った。身体が動かない。何とか動く頭を横に向けるとレオがピクピクしている。
するとロザリーが回復ポーションを飲みながらやって来て、俺とレオの口にもポーション流し込んだ。
「……ゲホッ、死ぬかと思った……ロザリー、魔力を込めすぎだ!!」
「アル、初めて使ったんだから加減が分からなかったんだ。アルが試し打ちさせてくれなかったからだぞ」
「ぐぬぬぬ」
ロザリーはまだニトロオーブを使用したところを見たことがなかった。再会してからしつこく試し打ちをさせてくれと言われていたが、ロザリーに使わせると危険な気がして俺が拒否していたからだ。今回はそれが裏目に出た。
「むしろ危ない目に合わせたんだから謝って欲しいくらいだよ、アル」
「ぐぬぬぬ……ごめんなさい…」
………いや、これ俺が悪いのか?
「そんなことよりアル、凄いの作ったんだな!!いやあ、私の防御魔法をあっさり貫通してくるとは思わなかったよ。ダイナマイトを超えたな。だがな………アル、あっちを見てくれ」
ロザリーが指を差す先に俺が見たのは、土煙の中に立つドラゴンの影だった。
あの大爆発を受けてなお、ドラゴンは健在。爆発で少し汚れたかなくらいで、逆に怒りは頂点に達しているみたいで身の毛もよだつ様な殺気を放っている。
「コロス」
ドラゴンの呟きに、ロザリーは口の端を吊り上げ、不敵に笑っていた。
「ふむ。仕方ない。私の奥の手を使うか」
ロザリーは懐から、一つの魔道具を取り出した。それは、昨夜開発したばかりの通信魔道具だった。レオが設計図を書いていたが、技術面で作れなかったものを俺の錬金術とイーグマルの鍛冶術で作り上げたものだ。別行動をする俺たちに必要なので急ぎ作ったものだ。ロザリーはそれでマリーに通信を行い腹の底から叫んだ。
「ふーじこーちゃーん!!!」
その瞬間、ダンジョンの空間がひび割れるように裂けた。花の香りと共に、圧倒的な神威が溢れ出してきた。
「……もう、あなた、浮気がバレてからというもの、呼び出しに過剰に反応しすぎじゃなくて?」
「ま、待たせたなロザリンド!!なんの用だ。また面倒ごとか」
呆れ顔のオシリア。そしてその背後で、冷や汗を滝のように流しながら閻魔大王が登場した。
「ふむ。仲裁を頼む。そこのドラゴン。話が通じないんだ」
どの口が言うのか。ロザリーは涼しい顔で、そう言い放ったのだった。




