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帰送シリーズ  作者: 流浪
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7/20

『師事(下)』

 喫茶カントリーの扉が背中で閉まり、ベルが短く鳴った。

 店内に残してきた温度と匂いが、ひと息ぶんだけ残る。口の中には、まだコーヒーの苦みが居座っていた。

 外の空気は、さっきまでとは別物だった。

 頬の表面が締まるように冷え、代わりにアスファルトの乾いた匂いと、どこかの換気扇が吐く油の匂いが鼻に混じる。

 先輩は、迷いなく歩き出す。

 茶色いコートの背中は細く、白いマフラーだけが夜の街で目印みたいに浮いて見えた。人の流れから自然に外れ、明るい通りを避けて裏道へ入っていく。

 俺は半歩後ろをついていきながら、自分の足取りが徐々に従順になっているのを自覚していた。

 嘘だ。とっさに作った怪談だ。祠だって、話を繋ぐための道具だったはずだ。

 なのに俺は――「場所を覚えてる」と、頷いてしまった。

 先輩が振り返らないまま言う。

「祠……だったね」

 確認の声のはずなのに、それは物語に点を打つ合図みたいに聞こえた。

「場所、説明できる?」

 追いつこうとしても歩幅が合わない。急げば急ぐほど、むしろ遅れていくような。

「……駅のほうじゃなくて、もう少し外れです。コンビニの帰り、まっすぐ帰らないで少し歩いてて……」

 口にしながら、自分で自分の逃げ道を作っているのが分かった。

 “帰り道”じゃない。“遠回りした帰り道”だ。そういうことにしておこう。

「住宅が減ってくるあたりに、細い道があって。その先に、小さい祠がありました」

「細い道」

 先輩が小さく繰り返す。

「はい。車は入りにくそうな道で……街灯もあんまりなくて。俺も、ちゃんと覚えてるわけじゃないんですけど……」

 覚えていない、という言い訳を先に混ぜる。

 それなのに、頭の奥には昼間見た祠の形が、なぜか鮮明に残っていた。

 先輩は歩きながら、淡々と続ける。

「いい。そのまま。焦らなくていいよ」

 それから、呼吸の取り方だけを指示するみたいに言った。

「息、合わせて。吸って――吐いて」

 言われた瞬間、呼吸が勝手に揃う。

 揃った途端、足の裏が重くなる。吸いつくほどじゃない。ただ、踏み出す“決心”が一拍遅れて、体が言葉の後ろを歩くようになる。

「吐くたび、余計なことが消える。今は、道順だけ」

 余計なこと。

 嘘をついた罪悪感も、引き返したい焦りも、その一言でまとめて“余計”に分類され、心の外へ押し出される気がした。

 角をいくつか曲がった。住宅の灯りが点々と続き、窓越しに夕飯の気配がちらつく。普段なら安心できるはずの生活の輪郭が、今夜はどこか薄い。はっきりしているのは、先輩の声だけだった。

「その祠に、何が出た?」

「……黒い靄。手の形が……」

 口にした瞬間、指先が勝手に縮む。

 作り話のはずなのに、その“手”が皮膚の内側から連想を引っぱってくる。掌がじっとりして、冷えていく。

「左手だったね」

 先輩の声が、ほんの少し低くなる。

「左は、よくない」

 喫茶店での説明が、頭の中でもう一度、綺麗に並び直される。

 右手の握手が何のためにあるのか。左手がどう扱われてきたのか。

 俺が適当に吐いた“設定”が、先輩の理屈に骨組みを与えられていく。

 嘘に、根が生える。

 根が生えた嘘は、現実に迫る。

 先輩が、ふいに立ち止まった。

「ここ?」

 短く問われる。

 その声を聞くより先に、俺の足が止まっていた。

 細道の入口だった。車が入れないほど狭く、コンクリート塀が続いている。街灯はあるのに、光が奥まで届かず、陰だけが濃い。遠い車の連続音が、低いうなりで響いていた。

 見覚えがある、と思った。

 思った瞬間、喉の奥がわずかに詰まる。さっき手を合わせたときと同じ、湿った空気の重さが、ここにもある気がした。

 俺はうなずく。

「……この先です」

 指で示すと、指先が震えていた。まっすぐにならない。

 先輩は横目も使わずに言う。

「大丈夫。怖いなら、怖いままでいい」

 慰めじゃない。許可だった。

 怖がっていい、と言われた途端、怖さが輪郭を持って、そこに中身が詰まり始める。

「目を閉じて」

「……え?」

「閉じて。大丈夫。私がいる」

 言われてまぶたが落ちる。

 暗くなると、音が増える。自分の呼吸、靴底の擦れる音、遠い車のうなり。雑多なはずの音が、先輩の声にだけ従って整列していく。

「深呼吸。吸って――吐いて」

「吐くたび、さっきのベルが遠くなる」

 ベル。

 喫茶店の扉の、あの短い音。思い出した瞬間、意識が一段落ち着くのが分かった。落ち着く、というより、浅いところの思考が沈んでいく。

「思い出す。夜中の一時。空腹。眠気」

「歩いてる。袋が揺れる。指先が冷える」

「その先に、祠がある」

 今日の午後に見つけた、あの祠。

 その姿が今、暗闇の中で“前からそこにあったもの”として立ち上がってくる。

「目、開けて」

 言われて、ゆっくり目を開く。

 祠は、そこにあった。

 小さな屋根板がわずかに反り、釘の頭が黒く錆びている。木肌には薄い筋が走り、剥げた札が貼られていた。

 ――おかしい。

 嘘だったはずなのに、その手触りが現実のものになっていく。

 先輩が祠の前で止まる。俺も一拍遅れて並ぶ。

 さっき整っていたはずの呼吸が、勝手に浅くなる。

 先輩が、音を落として囁いた。

「靴ひも、ほどけてるね」

 足元を見ると、靴ひもがほどけていた。

 しゃがんで結び直す。指先がうまく動かない。

 体勢を戻すと、先輩が言った。

「来るよ」

 言葉がスッと体に染み込んでいく。

「出るよ。……左から」

 左。

 その単語だけで視線が誘導される。体の主導権が、少しずつ奪われるみたいに。

 影と影の間が、じわりと黒くなる。

 ただの陰影じゃない。黒が“増えていく”。

 ――何かが、違う。

 逃げるはずの黒が、今夜は逃げない。

 黒は残り、形を作り始める。

「……浮かび上がる」

 先輩が呟いた。

 鼓膜が拾った音を、脳が勝手に情報に組み直す。

 靄が指を真似る。数が合わない。曲がり方も、人間のそれじゃない。

 なのに――手だと分かる。分かった瞬間、掌の汗が冷える。

「ほら。見えるでしょ」

 先輩の声が、押す。

 押されているのは背中じゃない。視線だ。

 体は動かないのに、意識だけが一歩ずつ近づいていく。体の外側だけが、先に進んでしまうような感覚。

 黒い手が差し出されている。握手の形。

 祖父の声が頭を掠めた。

 ――夜に道で、知らん手が出てきても、握ったらあかんぞ。

 ――握手は人間の約束や。向こうと約束したら、連れていかれる。

 喉が鳴った。唾が粘つく。飲み込むと、針が刺さったみたいに痛い。

「息、吐いて」

 先輩は優しくも厳しくもなく、ただ指示した。

 吐いた息が胸から抜ける。抜けた分だけ軽くなるはずなのに、膝の裏が固まり、足首が重くなる。立っているだけなのに、立つための力が“借り上げられていく”みたいに使えなくなる。

 ――動けない。

 黒い手が、近い。

 距離感だけで迫る。鼻の奥に、湿った布みたいな匂いが混じる。

 逃げたい。下がりたい。

 そう思った瞬間、先輩が言う。

「止まっていい。止まって」

 止まっていい、が、止まれ、になる。

 体がその言葉に従う。従うことで、足の自由が消える。

「そう。動かなくていい。動かない」

 言われるほど、動けなくなる。

 自分が自分の身体に命令を送れない。命令の優先順位が、先輩の声に上書きされていく。

「握らない。君は握らない」

 囁きは命令になる。命令は逃げ道を塞ぐ。

「でも、視た。視てしまったから、生まれる」

 輪郭が濃くなる。

 俺が視線でなぞってしまうからだ。視線が線を引き、線に情報が乗る。皮膚の質感、爪の硬さ、節の影――“ないもの”が、“あるもの”の顔をし始める。

 喫茶店で話した俺の言葉。

 そこで先輩が与えた筋道。

 今この場で先輩が落とす言葉。

 それらが一本に繋がって、目の前に“現実”として立ってしまう。

「……やめましょう、先輩……!」

 声を出したつもりだった。

 けれど、外に出た感じがしない。喉の内側だけが震えて、音がそこで折り返したみたいに消える。

 先輩は答えない。代わりに、呼吸に沿って言う。

「吸って――吐いて」

「吐くたび、近づく」

 吐かないと苦しい。吐くと近づく。頭ではなく、体に刷り込まれる。

 二択が体を追い詰める。追い詰められるほど、拒む余裕がなくなっていく。先輩の言葉を“選べない”。

 視界の端で、別の黒が揺れる。

 ひとつじゃない。ふたつ、みっつ。

 影が増えて、端から世界を埋めていく。

 それでも俺の目は、黒い手から外れない。外せない。

「見て」

 声が、いつの間にか近い。

 気配の移動に気づけない。振り向こうとして――振り向けない。体は俺の意識の外に置かれ、視線だけが釘付けになる。

「その手はどこを掴む?」

 問いが映像を増やす。

 答えようと意識した場所ほど鮮明になる。問いは優しい顔をした命令で、命令はイメージを固定する。固定されたイメージは、現実のほうへにじり寄る。

 黒い指が、指の間に滑り込む。

 指を開かされる。握手の形に整えられる。

 俺の体が、俺の意思の外で組み替えられていく。

 その瞬間、視界がふっと引いた。

 上から見ている。祠の前に俺がいる。先輩が隣にいる。

 肩は強張り、指は半端に開き、顔は青い。滑稽なくらい分かりやすく怯えている。

 それを少し離れた場所から眺めている“俺”がいる。

 体の外側に意識が浮く。軽い。怖いのに、どこか楽だ。

 そこへ先輩の声が落ちてくる。

「戻っておいで」

 短い一言で、意識が落ちる。

 落ちるというより、元の体へ押し戻される。

 押し戻された瞬間、黒い手がすぐ目の前にある。

 ――もうダメだ。

 頭の中で、はっきりそう思った。

 握られる。約束させられる。連れていかれる。

 視界が白く滲み、輪郭だけになっていく。音が遠い。祠も街も、線みたいに薄い。

 そのとき、先輩が小さく息を吐いた。

 そして、耳の奥へ落とすみたいに囁く。

「おわり」

 短く小さな言葉。

 なのに、世界がそこで断ち切れた。

 匂いが薄くなり、黒がふっと消え、音が戻る。

 遠い車の連続音、どこかの室外機の低いうなり、犬の一声。全部が“現実の音”に戻った。

 目の前に黒い手はいない。

 祠はただの木箱で、影は影だ。腕にも手にも、何も付いていない。残っているのは汗と、うるさいくらいの心拍音だけだった。

 膝が抜けそうになって、俺は半歩よろけた。倒れなかったのが不思議なくらい、体が重い。

 先輩が、少し離れた位置で俺を見ている。

「……戻ったね」

 平坦な声だった。

 それがいちばん怖い。さっきまでの地獄が、先輩にとっては何でもないことなのだと分かってしまう。

「せ、先輩……今の……」

 俺は祠と自分の手と先輩の顔を交互に見た。噛み合わない。確かに“あった”感触が、どこにも残っていない。

 先輩は、俺の混乱が落ち着くのを待っていたみたいに言った。

「催眠だよ」

「……さいみん?」

 裏返った、情けない声が出た。

 先輩は小さく頷く。

「暗い場所。夜。寝不足。さっきまでしていた怪談。恐怖心。ストレス」

「そこに言葉を置く。呼吸を合わせる。視線を誘導する」

「質問で形を作らせる。あとは、背中を押すだけ」

「――それだけで、人は“視る”」

 喉の奥がひりついた。否定したいのに、思い当たることばかりだ。

 息を合わせろと言われた。目を閉じろと言われた。思い出せと言われた。左からと言われた。止まれと言われた。戻ってこいと言われた。

 俺はその通りに視た。

 正確には、視せられた。

 先輩は俺の目をまっすぐ見て、続ける。

「君、嘘をついたでしょう」

 その言葉で、心臓が冷たくなる。

「君の話はあまりにも具体的だった。具体的過ぎた」

「祠の木の感じ。道の幅。足元。結び直す癖。そのどれもが、現実の質感を持ってしまっていた」

「嘘に、現実を混ぜた。でしょう?」

 胸が痛い。言い返せない。

 混ぜたのは今日見た祠の記憶だ。混ぜたのは祖父の言葉だ。混ぜたのは、あの夜の恐怖だ。

 先輩は声を少し落とす。

「危ないのは、嘘そのものじゃない」

「嘘に筋を通すこと」

「筋が通ると、誰でも信じる。信じたものは、形になる」

「嘘が……?」

「嘘が形になると、“現象”になる」

「本物が寄ってくることもあるし、人が寄せることもある」

「どっちにしても、君は巻き込まれる」

 先輩は少しだけ語気を強めた。

 背中が冷えた。

 もし俺が、もっと上手く嘘を語れていたら。筋を通して、面白がって誰かに広めていたら。

 その“形”は俺の手を離れて歩き始めたかもしれない。『葬列』のように。

 先輩が俺を見る。

「だから今日みたいに一度、思い知らせる必要があった」

 思い知らせる。

 あの黒い手は先輩が作った幻だった。それでも俺は本気で終わると思った。

 もし本物だったら――考えたくもない。

「……すみませんでした」

 とっさに頭が下がった。

 先輩はうなずきもしないし、否定もしない。けれど、肩の線だけがわずかに緩んだ気がした。

「もう一つ」

「君は『左手』って言った」

「はい」

「言い切った。迷わなかった」

「だから、そう“決まった”」

 息をのむ。確かに俺は自分で左と言った。

 言った瞬間、世界がその方向へ寄った。寄って、固定されたのか……。

 先輩はマフラーの端を整えるみたいに指先を動かしながら言う。

「言葉は指向性を持つ」

「向けた方向に、思考が寄る。思考が寄ると、感覚が寄る」

「感覚が寄ると、現実がその形に歪む」

 その言葉で、ようやく理解した。

 この人は怖い。

 怪異よりも、人の意識を“怪異のかたち”へ変えられることが怖い。

 なのに、目が離せない。

 俺は変な笑いが出そうになるのを飲み込んで言った。

「先輩は、なんでそんなに平然としていられるんですか」

 先輩は表情を変えない。ただ遠くを見る。ここにない何かを思い出すように。

「『祈りは神を変えず、祈るものを変える』……私も、たぶん同じ」

 意味は分からなかった。まだ、そのときは。

 けれど、その言葉を置いた先輩が、少しだけ遠く見えた。

 俺は先輩の横顔を見た。

 街灯の光が頬の線だけを白くして、他は夜に溶けている。近くにいるのに、触れられない距離がある。

 昼間のことが、嫌なくらい鮮明に蘇った。

 小川先輩が、笑い声を混ぜて言った。

「そういうのって、怖いでしょ?」

 笑いながら言うくせに、目は笑っていなかった。

 他の先輩たちも、そうだった。

 自分と違うものを視る他者を恐れ、拒んでいる。

 気味が悪い。関わりたくない。

 誰も口にしない。口にしないまま、先輩の周りだけが深く切り離されていく。

 そのとき、祖父との記憶が思い起こされる。

 父の遺影の前。二人で手を合わせたとき。祖父は優しく言った。

『政親は変わったもんを見てたみたいでな。……結局わしには、何が何だかわからんかった』

『いつか、宗介も視ることになるかもな』

『けんどなぁ、視えても、視えんでも、一人じゃないぞ』

 そこで祖父は俺のことを優しく抱きしめた。

『ジーちゃんがおるからな。お前は、一人ぼっちにはならんでな』

 その包容に幼いながらに俺は安心した。

 大好きだった祖父の匂いが蘇り、目頭が熱くなる。

『宗介。視えることを畏れるな。いずれ向き合うことになる』

 祖父は、父の孤独を知っていたんだと思う。

 視える人間が、視えるせいで一人になっていくのを――見送ってきたんだろう。

 だから言った。畏れるな、と。その運命に。

 俺にはあの時、祖父がいた。いてくれた。

 けれど先輩はどうだろう。

 今、目の前にいる先輩が、どこか寂しそうに見えた。

 そこで気づいた。この人は孤独なのだと。世界の中で一人ぼっちなのだと。

 俺は息を吸って、吐いた。

 さっきみたいに言葉に操られるためじゃない。自分で、言葉を紡ぐために。

「……先輩」

 今、この人から逃げてはいけない。

 それは自分自身から逃げることと同義だ。

 あの日の祖父を裏切ることと同義だ。

 だから言った。

「教えてください。視方を、接し方を。俺、ついていきます」

 言った瞬間、背中の寒さが少しだけ引いた。

 怖さが消えたんじゃない。

 怖さの向こう側に、立つ覚悟ができた。

 先輩は何も答えないでいる。その目が冷たく俺に向けられる。

 それでも、俺は先輩を一人にしたくないと思った。

 それで、つい口から出た。

「師匠」

 先輩が一瞬止まった。

 まばたきの回数が増え、視線が揺れる。表情が追いつかない。

 それから、肩が小さく震えた。

「……ふふ」

 漏れた息が、笑い声だった。抑えた笑いがこぼれるような音。

 次の瞬間、先輩は口元を手で隠し、もう一度笑った。堪え切れない、という感じで。

 それが、俺が初めて見た、彼女の笑顔だった。

 胸の奥が、妙に熱くなる。

「……やめて。なれない呼び方」

 笑いを堪えた声で先輩は言った。

 でも、次の言葉は少しだけ柔らかい。

「まあ……いっか」

 それが、さっきの「怖いなら怖いままでいい」と同じ“許可”に聞こえた。

 俺はもう一度、確かめるように言う。

「師匠」

 先輩は呆れたみたいに息を吐き、それでも目だけはほんの少し優しくなった。

「……帰ろう。寒い」

 茶色いコートの背中が先に歩き出す。

 俺はその半歩後ろをついていった。今度は俺の意思で。

 祠の影は、ただの影だ。黒い手の形なんて、どこにもない。

 すべてが終わった――そう思いたい。

 白いマフラーが夜の中で目立つ。

 “白い天使”というあだ名が、少しだけ現実味を持った気がした。

 怖さが消えたわけじゃない。

 それでも俺は、この人から教わりたいと思った。

 この世ならざるものと、そして――言葉と向き合う方法を。

 そうして俺は、以降この人のことを「師匠」と呼ぶことになる。

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