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秩序

果胡が町へ抜ければ、ちょうどエーベルハルトとリタは帰るところだったのか、大して探すこともなく二人を見つけることができた。尤も、探していたのはリタだけであって、むしろエーベルハルトがいると少々都合が悪いのだが、今はどうしたってリタとセットになっていることは分かっている。

リタの姿を目にした果胡は、彼に見つけてもらうために飛び跳ねたり手を振ってみたりする。不用意に近付いて話しかけようものなら、周りを取り囲む警備兵達が黙っちゃいない。衆人環視の中だ。リタも庇うことはできないだろう。

幸いにもあれだけ群がっていた人達は殆ど捌けてしまっていて、離れた位置からでも目立つ行動をする人間がいれば嫌でも目に入る。一定距離を保ってさえいれば、見つかったとしても警備兵たちに捕まることはない。

ジャンプだけではさすがに意識を奪えず、気付いてほしいと願いを込めて盆踊りをしてみたりソーラン節を踊ってみたりした。変な目で見られはしたけれど、リタの目を奪えたことにも成功したので結果オーライだ。

声の届かない距離ではなかったけれど、少なくなったとはいえ周りに人がいるこの場で話せることでもない。『何してんだお前』という表情をするリタに果胡は『ちょっと報告が』という顔で返してやった。上手く伝わったのか、リタは『何だ』と眉を寄せる。内容を伝えるにはさすがに表情だけでは難しいところがあるので、ジェスチャーを加えてみた。


『ロッテが、託宣の間で、今一人。アルフが、追いました、けど、心配です。私も行ってきます』

『そのくらい、アルフ一人でも、充分だろ。お前一人じゃ、返ってお前の方が危ないだろ!』

『確かめたい、ことが、あるんです。詳しい、ことは、後で言いますが、神に確かめたいことが、ある!』


リタの目が僅かに見開き、すぐに眉間の皺を深くしたのは、果胡がしたいことが伝わったからに他ならない。意外にもジェスチャーは割と実用的だ。

リタの返事が返ってこない。盛大に不満そうな顔をしているだけで、良いとも悪いとも分かったも分からないも読み取れなかった。リタの意は分からないけれど、何にせよ彼はこのまま城までエーベルハルトに付き添わなければならない。それを待っていられるほど果胡は気が長い方ではないし、そのつもりならわざわざここまでやってこない。前回のことがあったので、リタにはちゃんと報告をしてから神の元へ行こうと思ったのだ。その思考があっただけ褒めてもらいたいと顔が語っている。


『とにかく、私先に行ってます、から!リタも後で、来て、下さい、ね!』

「おい馬鹿、待っ…」


しゅた、と言いたいことだけ言った果胡は、礼儀正しく敬礼をして走り去っていく。思わずリタが声に出して止めようとしたけれど、その場を離れるわけにもいかず、伸ばした手をそのまま額に押し当てて頭を抱えた。


「リタ?どうかしたか?」

「……いえ……、なんでも」


急に声を上げたリタにエーベルハルトが首を傾げたが、まさかお前の娘の魂どうにかしろよとは言えず、疲れた様子で城に帰る道に足を進めた。


「陛下、ちょっと急ぎますよ。野暮用を思い出しました」

「ほう。国王の護衛よりも大事な野暮用と?」

「そうですね。比べることはできないですが、もしあなたが俺の立場なら、同じように思うくらいには大事です」


愛していただろう。愛娘を。




「そうか」




片時も離れたくないくらい、ずっと。




「その想いは大切にせんといかんな!」




大切だったはずだろう。何よりも。


あれがその魂を持っているとこの人に知らせたら、困る人が出てくるのだろうか。

愛したものを忘れていることを圧しても守らなければならない秩序とは、一体何なのか。










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