誰が王子を殺したか12
「ええっ、なんであたし達が共犯なのよ!?」
メリッサが大声で反応したため、僕が異論を唱える声はかき消された。言いたい事は同じだったので、僕もグラントに抗議の目を向ける。
「さっきから説明してるよね。どうして理解出来ないかなー。あのね、王族の飲食物を毒味するのは、王族の周りにいる人間の義務なの。君達はそれを怠ったんだから、罪に問われるのは当然でしょ。それに君、メリッサ・ホープには、毒入り紅茶を淹れた罪もある」
「あたしが毒を入れたわけじゃないわ!」
「うん、だから毒入り紅茶を淹れた罪って言ったじゃないか。そもそも君が、適当な紅茶の淹れ方をしなければ、ジョーンズ王子が死ぬことはなかった」
「適当な?ああ、さっきデイルが言っていたティーカップを温めるってのの事?そんなの知らなかったんだから、しょうがないじゃない!」
毒味の件はともかく、正しい紅茶の淹れ方を知らなかった事を罪に問うのは、完全な言い掛かりだ。メリッサが可哀想だ。
けれどグラントは情け容赦なく断罪する。
「本当に知らなかったのか?君は以前、飲食店で働いていたことがある。紅茶と菓子を楽しむ店だったね。そこでは紅茶を淹れる際、ティーカップを温めるよう指導していると、店主が証言している」
「そうだった?でも、知っていたとしても、うっかり忘れちゃうことだってあるじゃない」
メリッサは悪びれもせずに言う。
「そうだね。でもこんな証言もある。事件の日の午後、別棟に入ってゆくバイオレット嬢を、君がこっそり見ていたと」
「だったら何?」
「君はバイオレット嬢が何をしたか知っていた。知っていて、わざとティーカップを温める行程を省いた。そんな仮説も立つよね」
この時のメリッサの顔を、僕は一生忘れられないだろう。彼女は温度の無い、口が裂けた蛇のような笑みを浮かべていた。
「ただの仮説でしょ?証明なんて出来ないわよね」
メリッサは知っていた。バイオレットのした事も、正しい紅茶の淹れ方も。グラントの仮説は事実なのだと、僕は彼女の勝ち誇った顔から理解した。その証明が不可能なことも。
メリッサの罪を立証出来なければ、メリッサを罰する事も出来ない。さぞ口惜しいだろうとグラントを仰ぎ見る。背の高い彼は、相変わらず頭をガリガリ掻きながら、冷めた目でメリッサを見下ろしていた。
「俺の仮説は証明出来ない。でも証明する必要も無い」
「はぁ?疑いだけで罪に問うっていうの?」
「何度も言ってるじゃないか。毒味をしなかった、ただその一点だけで、王族を害した罪に問えるんだよ。君達は毒味をしていないと、先の事情聴取でも認めている。もっと早くに拘束することも出来たんだ」
「ならどうして」
「バイオレット嬢を逮捕するための、証拠固めのためだよ。彼女の犯行を立証する手立てが無かったからね。君達を泳がせておけば、また毒殺を企ててくれるかもしれないと思って」
つまり僕達は、バイオレットを釣るための餌にされたわけだ。
「それって酷いわ!下手したらあたし達、死んでたじゃない!」
「君にだけは言われたくないなー。ちゃんと見張ってたし、親切なローズマリー嬢が忠告もしてたじゃないか。身の回りにお気をつけくださいって」
卒業式の日に、ローズマリー嬢に言われた言葉だ。僕はそれを、余計な事はするなという脅迫と受け取ったが、実際は言葉どおり、僕達の身を案じるものだったのか。
「それにね、どうせ君達は良くて死罪、悪くすると拷問のうえ死ぬまで強制労働だ。前倒しで罰を受けても構わないだろう」
「良くて死罪って」
「王族の命が失われたんだ。命をもって償うほか無いだろう」
「そんな……」
とうとう観念したのか、メリッサが力なく膝を折る。
僕はとっくに心が折れていた。死罪と聞いても、恐怖も感じられないほどに。
僕はどこで間違えたんだろうか。ローズマリー嬢の言葉が、今さら思い出される。
『余計なことを考えるよりも、婚約者のバイオレット様のことをお考えなさいませ』
あの言葉を真摯に受け止め、バイオレットときちんと向き合うべきだった。たとえ手遅れだったとしても。
「そろそろ良いかな?いちいち説明するのも疲れたんだけど」
首をコキコキ鳴らしながら、グラントが心底面倒そうに促す。
「それに君達と話してると、苛々して首を絞めたくなってくる。さすがに私刑は不味いよね、甥っ子を死に追いやった罪人だとしても」
「甥っ子?」
「あれ、俺さっき名乗ったよね。グラント・ストレングスって。貴族なのに王族の顔だけでなく名前すら知らないの?」
グラントが僕を覗き込む。彼の目はジョーンズ王子と同じ、紺碧の空の色だった。
「俺は国王陛下の異母弟だ。ジョーンズは馬鹿な子だったけど、ほら、馬鹿な子ほど可愛いって言うだろう?可愛い甥っ子を死なせたんだ、きっちり罰を受けてもらうよ」




