誰が王子を殺したか13
王国を震撼させたジョーンズ王子殺害事件から、半年が経過した。慎重に、かつ迅速に進められた裁判が、先日やっと結審した。事件後の諸々で浮き足立っていた王都も、徐々に平時の落ち着きを取り戻しつつある。
高位貴族の子女が複数関わるうえに動機が恋愛絡みということで、あちこちから横槍が入ったらしいが、裁判は全て公聴裁判となった。一切を詳らかにせよ、との王家の強硬な後押しがあったらしい。それを証明するように、審議の場には必ず国王や王妃や王太子といった王族の臨席があり、関係者は緊張で胃薬が手放せなくなったそうだ。
そんな重大事件の裁判だ、注目を集めるに決まっている。王族が誤って殺されたという概要に加え、事件の背後にあったドロドロの愛憎劇が人々の興味を引き、裁判の傍聴券を求めて連日長蛇の列ができた。傍聴席は常に満員御礼、王族の警護のための騎士兵士も詰めかけている。そんな場所で裁かれるのは、それだけで拷問のようなものだった。
バイオレット嬢は、本人が公聴裁判を希望していたこともあってか、粛々と裁判に臨んだ。彼女は婚約者への愛情と裏切られた悲しみ、それが憎しみへと変わってゆく過程を切々と語り、聴衆の涙を誘った。
被害者の家族である王族も彼女には同情的だった。特に王妃様が減刑をと口添えされたことが決め手となり、バイオレット嬢は王族を害した罰としては異例に軽い、修道院行きとなった。
逆に最も重い刑罰を受けることになったのはメリッサだ。彼女は裁判の場でも反省の色は無く、それどころか臨席する王太子に向けて媚を売るような言動を繰り返した。自分は何もしていない、だから助けてほしいと王太子に名指しで訴え続けたメリッサは、却って反感を買い、舌を切り取られ生涯強制労働施設で働くことが義務付けられた。
デイルとダグラスは、毒杯を賜ることとなった。ジョーンズ王子の命を奪ったのと同じものが用意されるらしい。本当なら自分が飲むはずだったのだと、デイルは処分を受け入れていたが、ダグラスは最後まで納得出来ないようだった。どうしてオットーは助かるのに、自分は死ななければならないのかと。
そう、わたしは死罪になるべきところを減刑され、公爵家からの廃嫡となった。ローズマリーがわたしの学園での様子を、婚約者がわたしの王城での様子を証言し、減刑を求めてくれたからだ。
わたしの婚約者は末席とはいえ王族に名を連ねていて、自分が半分罪を背負う、だから罰も半々にとまで言ってくれた。そのおかげで、わたしは命を繋いだが、婚約者は王族籍から離れることとなった。更に、貴族ですらなくなったわたしに嫁いでくれるという。わたしは一生、未来の妻とローズマリーに頭が上がらないだろう。
そのローズマリーはというと。
「グラント、この書類は今日までだって言ったでしょ!」
公爵家の令嬢とは思えない怒鳴り声を上げ、書類の束をグラントの顔面に叩きつけていた。執務室の長椅子に寝転んでいたグラントは、うっと呻いて慌てて起き上がる。
ジョーンズ王子が亡くなったことで、婚約者だったローズマリーの立場は宙に浮いた。元々婚約は破棄される予定だったが、その後を考える暇もなく事件が起こり、事後処理やら証言やらで司法局に出入りしているうちに、グラントの秘書のような立ち位置になってしまったという。
書類仕事が苦手で重要書類を溜め込みがちなグラントに、平役人達は苦労させられていたらしい。そこに、王族であるグラントに遠慮なく仕事をさせられる高位貴族の令嬢、自身も優秀で人柄も良く、おまけに美人のローズマリーが来てくれた。これを逃がす手はない。
一丸となった役人達に懇願され、泣きつかれ、土下座までされたローズマリーは断りきれず、司法局に正式採用された。公爵令嬢なのだから働く必要はないのだが、出来る女のローズマリーはここからが違う。苦労すること確実な職場環境を改善すべく、わたしを司法局に捩じ込んだ。おかげでわたしは司法局長官室付きの書記官として、今日から働くこととなった。
彼女には本当に、感謝してもしきれない。
「オットー、私が外しているあいだ、グラントが逃げないように見張ってて」
「逃げないようにって、子どもじゃないんだから」
「そうよね。子どもじゃないんだから、逃げずに仕事するのは当然よね。子どもじゃないんだから」
ローズマリーにジロリと睨まれて、グラントは無言で肩を竦めた。これは前科があるのだろうか。司法局のトップが?
事件捜査の時には、あんなにキビキビと部下に指示を出し、優秀さを醸し出していたのに。




