月夜に囁く
いつもお読みいただきありがとうございます。
更新を引き伸ばしまくっていた小説ですが、これにて完結です!
すぐにふざけてコメディに走る頼爾にしては大人風に仕上げたつもりです。
お付き合いいただきありがとうございました!
「お嬢様、綺麗です。綺麗すぎて直視できません。美しい……女神様ってお嬢様のようなことを言うんですね。あぁ、私に学がなく、語彙力がないのをここまで悔しいと思う日がくるとは思いませんでした」
「ミーシャありがとう。でも褒めすぎよ」
「そんなことはございません。お嬢様の美しさをまだまだ表現できていないのです。私の言葉が足りないだけでございます」
学園の卒業パーティーに向けての準備を終え、はにかんだ様子のカメリアを凝視しながらミーシャは褒めちぎる。
お嬢様のドレスがあの腹黒執事の色、ブルーに黒の刺繍のドレスであったとしても。髪飾りや指輪もあの野郎がプレゼントしたものであったとしても。そんなことでお嬢様の美しさは一片たりとも損なわれることはない。
***
「楽しいですか?」
卒業パーティーの会場で、カメリアが楽しそうにしているのを見てオスカーの口角も自然に上がる。ちなみに、カメリアをエスコートするオスカーのことを親の仇の様に最後までミーシャは睨んでいた。
「えぇ。パーティーがこんなに楽しいのは久しぶりだから。そんなに浮かれているかしら?」
「浮かれているあなたもとても可愛いですよ。今日は思い切り楽しみましょう。まずは私と踊って頂けますか?」
「ええ。喜んで」
会場中の視線を集めながらカメリアは微笑む。オスカーは周囲に牽制する意味も込めて少女を抱き寄せた。
***
「くそう。絶対にあの腹黒、今頃お嬢様と三曲ぐらい続けて踊ってやがるのよ」
「そりゃあ一曲だけで終わらないっしょ。周囲に見せつけまくってるだろ」
公爵家の馬車の前で二人を待ちながら、とうとうハンカチを噛みちぎるミーシャと引いた様子でそれを見ているエイデン。
「あの野郎……没落寸前の男爵家出身のくせに今ではお嬢様の隣に堂々と立ちやがって……」
とにかくなりふり構わずオスカーを貶めたいミーシャ。
「ミーシャだってスラム出身じゃん。能力主義ってことだろ、良かったじゃないか」
エイデンにあっさり否定される。
「うぅ……はっ、もしかしてお嬢様の元婚約者もこんな気持ちだった? あの阿呆王子、最後はとにかくお嬢様を貶めようとしてたわよね……足引っ張りまくりで……あんな奴と同等にはなりたくないぃぃぃぃ」
「うん、まぁまぁ。阿呆王子とミーシャが一緒だとは言わないけどさ。お嬢様が選んだ男をあんまし悪くいうなよ、な? オスカーさん、最終的には俺達のボスになるわけだし」
どさくさに紛れてエイデンはミーシャの頭を撫でる。しばらくするとミーシャに手を叩かれるのだが、なんとも健気な男である。この二人がくっつくのはまだまだ時間がかかりそうだ。
***
ミーシャの予想通りカメリアはオスカーと三曲続けて踊り、オルレリアをはじめとする友人達と楽しく語らった後、オスカーによってバルコニーに連れ出されていた。
「まぁ、こんなに綺麗に夜空が見えるのね。知らなかったわ」
学園のバルコニーから見える星々にカメリアは感嘆の声を漏らす。そんなカメリアを後ろからオスカーはそっと抱きしめた。オルレリアと彼女の婚約者に頼んでここには誰もうっかり立ち入らないようにしてある。
「あなたの学園の思い出を良いもので終わらせたいですからね」
「ふふ、ありがとう。思い出が塗り替えられた気がするわ」
オスカーの配慮を感じ、カメリアは嬉しくなって声を少し弾ませる。オスカーはカメリアの学園時代の、主に元王子関連での辛い思い出を変えようとしてくれているのだ。
「あなたの流した涙はすべて誇りに変わります」
カメリアを抱きしめながらオスカーは囁く。頭の中で元王子を労働所でキツイ下層に落とそうかなと考えていることはおくびにも出さない。
「オスカー」
「何でしょう?」
「早く戻ってきてね。私、待つのは得意なんだけどあまり期間が長いと寂しいわ」
「すぐに戻ってきますよ。だから浮気せずに待っていてくださいね」
「もう! 当たり前でしょう」
オスカーはカメリアに自分の方を向かせて唇を奪う。
「今日の月はあの日の月によく似ています。あなたの唇を最初に奪ったあの日の月に」
学園のパーティーが終わるまでの間、二人はずっと寄り添っていた。