学校へ行こう6
翌日
登校二日目、気だるげな勇騎が扉付の下駄箱を開けると、思わず口元がにやけた。
「いきなりですか、兵は拙速を尊ぶ。素晴らしい」
「何が?」
「ほらこれ」
そう言って勇騎は、今まで見せたことのない嬉しそうな笑顔でお守りをきららに見せる。
「!!あんた何やっているの!それを持ってるのを誰にも知られちゃダメだって言ったでしょ。貸しなさい。私が誰か別の人に!」
思わぬ本気の反応に驚いてしまうが、お守りを高く上げ、奪おうとする彼女を諦めさせる。
「優しいですね。きららさん。僕を守るために死神がやってくる前に引き取ってくれると。」
「これでも私は専門家よ。私なら、」
「でもダメです。万が一にでも、姫様を危険に晒しては、俺が烈火さんから殺される。」
「馬鹿言ってんじゃ、」
「それにこれは俺の望んだ状況です。いいですね。未来の世界は、」
また勇騎はきららの嫌な笑い方をする。楽しんでいるこの状況をその身に不幸が降り注ぐことをゲーム感覚で楽しんでいる。
「その昔、妖怪や幽霊は人の戒めの為に作られた。危ない場所に立ち入らないように、危険なことをしないように、そういう戒めと畏怖と、自然への敬意を込めて物語は作られる。だからその回避策も回避策も用意されている。でも都市伝説はそうじゃない。
全てじゃないけど、人の恐怖をあおってそれだけ、何処までも不可解で、不条理。
人の不安そのものが目的だからタチが悪い。
これはゲームじゃない、勇騎。恐れを持ちなさい。畏怖を持ちなさい。
そしてこの状況を楽しむのはやめなさい。」
きららは、恐れを知っている。伝聞で、経験でそれを考えられる彼女はそういう賢い子だ。
勇騎は、恐れを知っている。伝聞で十分に理解できる。だが、納得が必要だ。
理屈が必要だ。『そういうものだ』と、神様に預ける事は出来ない性質、そういう賢い子だ。
そして放課後 職員室横 生徒指導室
「で、実際ふたを開けてみたら出てきた呪いのお守りは13個。」
「キリがいい数字ですね。今度の金曜日、僕ら二人ティーン同士で、泉の近くのコテージでいちゃつきましょう。」
きららは素早く新聞紙をガムテープでまとめた棒で思いっきり殴る。
「今朝忠告したでしょうが、これは遊びじゃないのよ!」
「いったー。なんですかそれ、」
丸められた新聞紙にはマジックで怒った顔が可愛く書かれ、シールで出来られている。
「普通に叩いたら手が痛いし、ハリセンじゃ効かないでしょ。」
「つまりは俺専用愛を感じますね。」
「……」
「ちょっと、無視ですか、ひどくないですか!」
「何度も言うけど、私はあんたが嫌い。冗談でも虫唾が走る。」
「まぁ、まぁ、兎に角まずはこの状況を何とかすべきね。とりあえず明日の朝礼で、誰が入れたかを、各クラスで聞いてもらって」
「そんな事して何になるんですか、というかなんで当たり前のように先生がいるんですか」
「元クラウスメイトで教え子のピンチに先生が出て行かなくてどうするの」
「今まで弐頃の馬鹿が何やっても見て見ぬふりだった癖に。」
「あの子は面倒なのよ親も含めて、それに今はその問題じゃないでしょ。勇騎君、落ち着いてカルピス飲まないの!それお中元の!勝手に持ってこない。」
勇騎はグラスをきららの前に置き、説明書通りに作られたカルピスを献上する
「まだ何か起こるまで14日あるんでしょ。
今はなすことは、犯人捜しや呪いの実現性の有無や内容はとりあえず置いておいて、
この噂の出所がどこか、どういう性質のものか、そして何より一つしかないはずのものがどうして13個あるかを知る事でしょ。ついでに言うなら誰かに押し付ける相談など論外です。その為にこれを持っていることを二人に知ってもらったんですから」
「……その中で一番確実に正解にたどり着けるものは噂の出所はどこかという事、」
きららはカバンからパソコンを取り出す。
「そしてその過程でこの噂の変遷や、真に迫ることができる。」
「噂話の元を辿るっていう事?そんなの無理よ。」
「FtoF、フレンドトゥーフレンド。友達の友達は、存在しない友達。昔だったら見つけられなかった。でも、今は違う。口伝ではなく、匿名性の文字で都市前節は広がった。そしてそれには記録が残り、タイムログが残っている。
無数の情報が電子化される。溺れるほどの一生かかかっても負えない程の情報量。
だからこそ必ず記録は残っている。このきらら様に任せなさい。」
「お願いします。」
カルピスに次いで、勝手に教員の机から持ってきたポッキーを献上する。
「という訳で、明日から本業が忙しくなるから、学校は休み、」
森川は美森が開いたPCをバタンと閉じる。
「で、いいわけないでしょ美森さん。大体何が本業ですか。あなたの本業は学業!
いい、引きこもっていても、何も解決しません。前に進むためには今の自分と向き合わないと、今はまだ一年生だから実感がないかもしれないけど。三年生になって焦っても遅いのよ。大学に行くには出欠も内心に大きく響くんだから」
森川の思いが言葉の選択を誤らせ、きららの怒りに火を付けていく。
そして勇騎が森川の言葉を止めようとする少し前で、その沸点を超えた。
「大学に行くとか勝手決めるなよ。私は先生よりももっと重要でもっと仕事をしているの、何なの自分が選んだ道だけが正しいような言い方、馬鹿じゃないの。いつも同じ言葉で納得するとでも思ってんの?同じことを言って無理矢理納得させるなんて洗脳かよ。
だいたい先生は今この仕事が理想なの、今のクラスの状況が理想なの!
それに結婚して、離婚して、その時点で一度失敗してるじゃん。
それなのに何で私の生き方を!否定されないといけないわけ、先生はただの凡人。親や周りが言われるままに生きてそのままただ年だけ取って、何者でもないくせに私に意見す」
「はーい、そこまで、きららさん。そんなにしゃべるのはキャラじゃないよ。」
そういうときららに勝手に先生の机から、持ってきたお菓子を突っ込み言葉を遮り、代わりに思いっきり、蹴りを入れられるが、まったく効いておらず、それが怒りをさらに買う。
「森川さん。とりあえず、先に謝って、決めつけは良くなし、言葉を慎重に選びましょう。言いたいことは分かるけど、きららさんが他人には言えない人の為になることをしていることは間違いないです。俺も詳しくは分からないけど俺もきららさんに頼っている。」
「そうかもしれないけど、でも、学生の本分は、」
「彼女がなんで怒っているのか理解できない?もしそうなら、きららさんへの説教はすべきじゃない。きららさんの事を分かっていないし、そういう人の助言をきららさんが聞くとも思えない。まずはきららさんがなんで怒ったかよく考えてください。」
そう言われると森川は謝りこそしないが黙り込んでしまった。
「それにきららさんも、感情的になるのはよくないですよ。きららさんは、今まで人の嫌なところを見続けてきた。大人の悪いところばかり知っている。だからこそ、きららさんは効率よく人を追い込むことができる。森川さんはきららさんほど強い人じゃない。
言葉のキャッチボール、全力の言葉の罵声は僕の方にいいですね。」
「何よ偉そうに、誰のせいでこうなってると思っているの?」
「それに関してはすみません。でもこんなバカの為に、お互いも得をしない言葉の応酬は避けるべきじゃないですか。」
「……」
きららはカバンから新聞紙の棒を取り出すと、勇騎の頭を殴る。
「痛いなー何も殴らなくても」
少しも痛がるそぶりを見せずに棒読みで、応える
「私はあんたと違って自分の感情を他人事みたいに思えない。今のでチャラにしてあげる。
まだやることがあるみたいだから先に帰る。」
「俺が帰れなくなりますよ」
「家の近くまでは帰れるでしょ。後は監視カメラで見て拾ってあげるから、8時までには帰ってこないと無視するから」
そういうときららは生徒指導室に二人を残し、帰っていった。
森川もきららが確実に職員室からいなくなる時間を待って、勇騎に小さくお礼を言うと、上を指さし、部屋から出ていった。
残った勇騎は、口元を緩め、机に置かれたお守りを手に取りまじまじと見つめる。
13個もある時点で馬鹿馬鹿しくなる噂話に、不良も、教師も振り回される。
そして自分自身も、その真贋にかかわらず、この呪い時間を奪われることになっている。




