【42】
ファイア国の山奥までやって来た。この山頂には炎蝶がいるという。天と地を繋ぐ狭間に精霊達はいるという。運が良ければ出会い、実際の話を聞きたいと思ったのだ。
左肩のシヴァに訊ねた。
《盗賊は炎蝶をどうやって捕まえるの?》
[相対する属性の魔石を使って閉じ込めて運ぶんだ。炎蝶ならば水魔石か氷魔石だ]
《魔石は道端に落ちている訳じゃないわ》
[ふんっ、己の価値観だろうな?]
《どこの世界にも金銭を要求する側と積み上げる側がいるのね》
洋子はシヴァとの会話を止めて集中する。
想像して創造する魔法…
《Weather》
精霊達が行き交う姿を瞬時に思い描いていく。
妖蝶だけでなく妖精達をも具現化させていく。
左肩で身震いするシヴァ。
[洋子の瞬発力と繊細かつ濃密な魔法は他に類を見ない]と、内心舌を巻いた。
発火するように炎蝶が現れた。
〈黒魔女洋子よ、鳳凰の舞を披露せよ、演舞すれば姫は力を得て悪を滅するだろう〉
《ありがとう。紅蓮?》
[感謝する、炎蝶よ]
〈炎龍様、勿体無き御言葉。火の玉は闇夜に浮かびます故〉
炎蝶は一瞬で消えた。
[洋子、次の新月だ]
《あと4日ね。潜伏先を見つけるには充分。紅蓮、ありがとう》
[喚んだのは洋子だ]
[炎龍は滅多に言葉にしないと有名なのよ]
と、瑠璃がからかった。
ーーーーー
4日後、洋子は闇竜を従えて盗賊のアジトに出向いた。普段龍達の気配は抑えているが、敢えてプレッシャーを与えるために滲ませている。
〈洋子、魔族には手を引くよう伝えたぞ?〉
《玄丞、咎めも戒めも不要よ?》
〈わかっておる。利用した人間を魔界へ送れば良い。これ以上洋子を煩わせたくないらしい〉
《私が手を降すわよ?》
洋子は引き受けた時に殺める覚悟をしていた。綺麗事では済まされないことを承知していた。
〈洋子の気持ちは伝わっておる。此方側の事情もある〉
《ありがとう》
攻撃範囲内に入ると、物理的に結界外へは行けない、又、罵声や雄叫び等周囲に迷惑かからないよう遮断する魔法陣を展開させた。
「敵襲…」
盗賊は全員、一撃で昏倒させて、手足を魔法の錠で固定させる。下っ端はまだ更正する可能性が高いので、ギルドへ引き渡し無駄な殺生をしないのが条件だ。
目の前に特殊な檻がある。鳥籠ほどの大きさだが、強力な黒魔法だ。中には炎蝶がいるはず。
月影の霊笛を吹いた。術を解くリズムに鳥籠が内側から光っていく。
《灼熱の太陽煌めく炎よ、我五色を纏う黒魔女が乞う。鮮やかに燃えよ》
月影の霊笛の調に乗せて、鳥籠から飛び出したのは、手のひらくらいの火の玉。揺らめく炎の動きは魅入ってしまう儚さと鮮明さ。
〈ありがとうございます〉
炎蝶が洋子の右肩に来た。
そこへ複数の足音と共に、奥の部屋にいた今回の主犯が登場した。
闇竜が取り巻き達を拘束する。
「これはこれは。噂以上に綺麗なお嬢さんだ。俺の女にならないか?一生贅沢三昧だぞ?」
予想より頭の回転が鈍いらしい。
『この度の炎蝶強奪事件の犯人として証拠があがっています。言いたいことはありませんか?』
残念な男。きっと、本当の黒幕は別かもしれない。無言で睨むも小者だ。闇魔法で縛ると大人しくなり、闇竜が魔界へ送った。
洋子は魔石を全て解放する。炎蝶の姫の意思を尊重したのだ。
消えてゆく刹那、姫が微笑んでいるのが残像のように洋子の瞳の奥に映った。




